<錬金術入門>授業書ノート 

第2部

おはなし 金属溶解液

 この授業書を作った当初は、塩酸・過酸化水素・水の割合を体積で1:1:2にしていました。しかし、この濃さでは[問題1]で、鉄くぎが5分でとけないこともありました。塩酸も過酸化水素も劇薬ですし塩素の発生も心配なので、できるだけ水で薄めた危険の少ないものを使いたいのですが、教師実験では確実に早く激しくとけるほうが印象的だという意見が多く、水を半分に減らし1:1:1にしました。

[問題1]

用意するもの

 金属溶解液・・・100mlビーカーに30ml

  銅 線 ・・・2cmくらい、

 細いやわらかいものより、硬い感じのする太い銅線の方が、金属溶解液の威力を強烈に感じさせられます。(銅線を溶かした溶液を、問題5で比較に使います。間があくときはニッケルと同じように試験管でとかしてもよい)

 銅を、金属溶解液に溶かすと液は緑色になります。硫酸銅を溶かしたときの青い色を銅の色と記憶している人は、おかしいなと思うかもしれません。緑色になるのは、塩酸が濃いと銅と塩素イオンが結合し[CuCl42-という錯イオンができるからです。この錯イオンの色は黄色です。銅イオンの青い色に、黄色がまじるので緑色になります。水で薄めると、[CuCl42-から塩素イオンが離れるので青くなります。

 

[問題2]

用意するもの

 金属溶解液・・・試験管に5分の1くらい

 ニッケル板・・・1×3cm

 ニッケルは鉄や銅に比べると溶けるのに時間がかかります。事前にとかしたものを用意して下さい。溶けた溶液の色は緑ですが、色がうすいのではじめはとけたかどうかわかりにくいです。とける量は表面積に比例するので、できるだけ大きいものを使うとよいです。

 

[作業1]

用意するもの

 金属溶解液・・・ビーカーに20ml

 金属 (鉄くぎ、銅線、ニッケル小片、亜鉛粒、アルミニウム箔1×1cm、マグネシウムリボン2cm)

 試験管 6本、 試験管立

 水を入れたビーカー

 子どもたちに実験してもらうときは、教師実験のときより水を多く(1:1:2)して下さい。とけるのに少し時間がかかりますが、とける様子をゆっくり観察できます。水を多くすると銅をとかした溶液は、黄色が弱くなります。

 金属溶解液が手についたら、すぐ水で洗うことと、反応が激しくなってきたら、試験管に水を加えて反応を静めることを忘れずに指導して下さい。

 亜鉛は、静かにとけます。溶液の色は無色なのでとけたという感じがしにくいのですが、試験管がかなり熱くなっていたりします。

 アルミニウムはしばらく何も変化しませんが、急に激しく泡を出して液全体が黒灰色ににごります。少し待つと薄い黄色の透明な溶液になります。激しく泡が出るときに試験管から吹きこぼれやすいので、予備実験が必要です。

 マグネシウムは、すぐにとけてしまいます。

 

おはなし ニッケル

金属元素

 物質について理解しようとした人達は、身の回りにはいろいろな物質があるけれども、それらを作る元になるものがあるはずだと考えました。例えば、紀元前5世紀のギリシャの哲学者は、火・空気・水・土がすべての物質の元であると考えました。中国や印度では、火・空気・水・土に木を加えた5つを物質の元になるものとする考えが生まれました。このような考えは頭の中で勝手に作り上げたものではなく、自然界の物質の変化をよく観察した上で考え出されたものでした。だから、多くの人を納得させるだけの説得力のあるものでした。西洋では今から200年ほど前までは、全てのものは火・空気・水・土でできているという考えが生きていました。

 科学の進歩で明らかになったのは、物質の元になるものの多くが金属だということです。物質の学習でも金属を大切にしたいです。

 

[問題3、4]

用意するもの

 試験管、試験管立

 銅、亜鉛、鉄を金属溶解液にとかしたもの

 この実験では同じ濃さの金属溶解液を使わないと、混ぜたときに液の色調が変わります。金属をとかすときに反応が激しくなっても水を入れないで下さい。結果は教師実験で確かめることにします。2つの溶液を混ぜるときに一部を残しておいて、混ぜる前と後の溶液の色を直接見比べられるようにして下さい。

 この2つの問題は水溶液の中で金属のイオン同志は反応しない、一般的にいうと、+イオンと+イオンまたは−イオンと−イオンの間では反応が起きないということを扱っています。化学薬品というものは混ぜあわせると、色が変わったり、沈殿ができたり、煙が出たりするだろうと期待されていますが、何かが起きるのは特別な組み合わせの場合で、教科書にはそれが取り上げられているわけです。

 この実験は、金属をとかした溶液を混ぜ合わせても、2種の溶液が単にまじり合っただけだということを、溶液の色を手がかりに体験させるものです。理屈は教えていないので、単にまじり合うだけだと知らせます。化学実験で特別のことが起きないと、子どもたちはひどく失望しますので、時間をかけずにあっさりやったほうがよいでしょう。 ただし、この後に銅を含む合金を金属溶解液でとかしたら、どんな色の溶液になるかという問題があります。銅が入っていると思う場合、他のものがまじっていても銅を溶かした溶液に似た色になるだろうと考える手がかりとなるものです。

 

おはなし

 金属を別の種類の酸で溶かした溶液を混ぜ合わせたときには、沈殿ができることもあります。例えば、銀を硝酸にとかした溶液と、鉄を塩酸にとかした溶液をまぜると、塩化銀の白い沈殿ができます。

 

[問題5、6]

用意するもの

 金属溶解液・・・100mlのビーカーに30ml

 昔の白銅貨

 黄銅(しんちゅうともいう、くぎとかねじなど)

 (銅線)

 実験結果は、銅をとかした溶液と白銅をとかした溶液を比べて見てもらいます。問題6の黄銅をとかした溶液とも比べます。銅・白銅・黄銅を溶かした溶液が、同じ大きさのビーカーに同じ量が同じくらいの濃さで入っている方が強い印象を与えられます。そのために、白銅や黄銅をとかすとき、銅線をとかしたビーカーを側において、色の濃さが同じくらいになったら溶液だけを別のビーカーに移すとよいです。残った白銅貨は水で洗っておきます。

 白銅は、銅75%とニッケル25%の合金です。お金でもとけるという驚きが大きいので、昔の白銅貨で実験してください。

 銅・白銅・黄銅を溶かした溶液は、次のお話しの中や第3部でも使いますので捨てずに取っておいてください。

 

おはなし イオンと溶液の色

 中学校の教科書では、塩化銅などの水溶液を電気分解して、その実験などから溶液の中に電気を運ぶものがあり、それをイオンというと教えています。この授業書では、金属が酸にとけて透明な溶液になったとき、溶液の中にある金属の原子をイオンというと教えます。溶液の中の電気を運ぶものにイオンという名前を付けたのはファラデーですが、彼は、水溶液に電極から電気を流している間だけ電気を帯びた粒(イオン)ができると考えていました。19世紀末に、若いオストワルドたちが電気を流さなくても水溶液にはイオンが存在するという考えを発表したとき、彼等は当時の大化学者たちから「何というバカなことをいうのか」と無視されました。

 しかし、水にとかすと電気を通す化合物は、水溶液の中でイオンになっているだけでなく、固体の状態でも電気を帯びたイオンとして存在することがわかりました。原子・分子・イオンが、物質を構成する基本粒子であるにもかかわらず、イオンがわからないという大学生がたくさんいます。これまで行われてきたイオンの入門教育では、みんなにイオン概念が身につくように教えられないのです。この授業書を作るきっかけの1つは、イオンの導入で「電気を運ぶ粒」に重点を置かない、別のアプローチはないだろうかという考えでした。

 溶液にすると金属の原子がバラバラに離れて存在しているという考えは、イオン化合物の性質やその反応を理解するのに非常に役立ちます。

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