九州北部-畿内 出土鏡比較
九州北部では、遺跡から銅鏡が出土するのは弥生前期末頃からである。一方畿内では、早くても3世紀中頃(最近、年輪年代法などにより古墳のはじまりが3世紀前半に遡るという見方が出ている)とされている古墳からである。出土する銅鏡の種類は、時代により、また九州北部と畿内とでは大きく異なっている。考古学的に、この違い、変遷から、王権の発生・発展そして移動の有無などを検討するのは、正しい方法の一つであると私は思う。
そこで九州北部と畿内の主な遺跡・古墳から出土した銅鏡にはどのようなものがあり、またどのように変遷していったのかを、時代順に表にしてみた。
遺跡・古墳の時代については、遺物の年輪年代法や放射性炭素(C14)による年代測定の採用により、少し前までの見方と大きく異なっているものもあるが、科学的方法を無視することはできないという判断から、これらの方法で推定された時代については、それを採用した。ただこれは絶対的なものではないので、私なりに時代幅を持たせたものもある。銅鏡を出土しない遺跡・古墳も、その時代前後の参考になればと思い、数点掲載した。
今後新しい発見等があれば、随時追加修正していきたい。資料が偏ったものにならないようにしたつもりであるが、もしお気づきの点があればご指導いただければと思う。
※参考図書に『邪馬台国と古墳』(石野博信、学生社)を追加した。微妙ではあるが、石塚古墳、黒塚古墳、椿井大塚山古墳の時代を変更した。2010.03.13
参考図書
日本古代遺跡事典(大塚初重・桜井清彦・鈴木公雄、吉川弘文館)
古墳辞典(大塚初重・小林三郎、東京堂出版)
日本の古代遺跡5 奈良中部(寺沢薫・千賀久、保育社)
日本の古代遺跡34 福岡県(渡辺正気、保育社)
読売新聞記事
邪馬台国と古墳(石野博信、学生社)
九州北部(すべて福岡県) | 年代 | 畿内(県名のないのはすべて奈良県) | ||||
遺跡・古墳 (所在地) |
特徴 | 出土品 | 遺跡・古墳 (所在地) |
特徴 | 出土品 | |
吉武高木遺跡 (福岡市西区吉武) |
甕棺墓、木棺墓、土壙墓、 | (3号木棺墓) 銅鏡、銅剣2、銅戈、銅矛、玉類 (甕棺墓・木棺墓) 多鈕細文鏡1、細形の銅剣・銅戈・銅矛、勾玉・管玉ほか |
弥生前期末~中期後半 | |||
三雲遺跡群 (前原市三雲南小路) |
東西両側に溝、東西31m、南北24mの特別区画 墓壙4.2m×3.6m 合せ口甕棺 |
(1号甕棺 内外) 前漢鏡35面(現存:内行花文清白鏡1面) 有柄中細銅剣1(現存)、銅矛2、銅戈1、金銅四葉座飾金具8、ガラス製璧8、ガラス勾玉3、ガラス管玉100以上、朱入小壺1 |
弥生中期 BC1世紀後半 |
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1号甕棺の西北に並列 東西両側に溝、東西31m、南北24mの特別区画東西を溝で区画 合せ口甕棺 |
(2号甕棺 内外) 前漢鏡22面以上 ヒスイ勾玉1、ガラス勾玉12、ガラス製ペンダント1、多量の朱 |
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東小田峰遺跡 (朝倉郡夜須町) |
甕棺墓、竪穴式住居 | (甕棺墓) 連弧文昭明鏡1(前漢代) (10号甕棺) 前漢鏡2、鉄剣1ほか |
弥生中期 | |||
立岩遺跡群 (飯塚市立岩、川島) |
土壙:方形、方形隅丸 甕棺 |
(堀田遺跡 副葬品) 10号甕棺:前漢鏡6、銅矛1、銅剣1 28号甕棺:前漢鏡1、素環頭刀子、玉類555、ガラス器5 34号甕棺:前漢鏡1、鉄戈1、貝輪14 35号甕棺:前漢鏡1、鉄戈1、鉄剣1、玉類30~40(棺外) 39号甕棺:前漢鏡1、鉄剣1 |
弥生中期 | |||
須玖岡本遺跡 (春日市岡本) |
甕棺墓、土壙墓 | (合せ口甕棺) 前漢鏡30面以上、細形銅剣・銅戈・銅矛8本以上、ガラス璧、ガラス勾玉、管玉 |
弥生中期 BC1世紀中葉?~後半 |
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井原鑓溝遺跡 (前原市井原字鑓溝 三雲王墓の南100m) |
甕棺 | 後漢鏡(方格規矩鏡21面以上) 巴型銅器3、鉄製武器? |
1世紀中葉以後 | |||
馬場山遺跡 (北九州市八幡西区) |
土壙墓(木棺墓)、甕棺墓、 | 小型仿製内行花文鏡2(祭祀土壙、柱穴状ピット) 方格規矩鏡1(石棺墓) 内行花文双頭龍文鏡1(土壙墓) |
弥生中期~後期 | |||
宮原遺跡 (田川郡香春町) |
箱式石棺4 |
(大型石棺) 舶載大型鏡1、仿製小型内行花文鏡1、鉄剣(刀) (大型石棺) 内行花文鏡2(大小各1)後漢鏡後半 |
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原田遺跡 (嘉穂郡嘉穂町馬見 遠賀川上流) |
墓地群 土壙墓、木棺墓、箱式石棺墓、甕棺墓、石蓋土壙墓、甕蓋状土壙墓、横穴式石室 |
(石蓋土壙墓) 内行花文鏡1(君宜高官銘)後漢鏡後半 (箱式石棺) 単虁文鏡(長生宜子銘)後漢鏡後半 (方形状墓壙 木棺) 小銅鐸、銅舌、管玉20 |
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3世紀初頭 | 石塚古墳 (桜井市太田) |
帆立貝形前方後円墳? 全長92~96m 年輪年代法で3世紀初め 古墳及び古墳周辺から出土するのは古い土器のみ 一部の土器から3世紀中葉以降という見方もある |
庄内式より古い土器(石野博信) 庄内3式(3世紀中葉以降-寺澤薫) |
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平原遺跡 (前原市有田平原 三雲遺跡群の西) |
方形周溝墓(18m×14m) 墓壙(4.5m×3.6m)に割竹形木棺(長さ3m)の痕跡 |
(棺内) 蛋白石耳璫、ガラス勾玉、管玉、連玉、小玉、瑪瑙管玉、蛋白石丸玉 (棺外) 方格規矩鏡32、内行花文鏡6(長宜子孫銘入1、仿製5)、虺龍文鏡1 すべて破砕された状態で発見 素環頭太刀 |
3世紀前半 | 勝山古墳 (桜井市東田) |
柄鏡式前方後円墳? 全長110m 庄内式の古い時期の土器(3世紀前半) 年輪年代法で3世紀初め |
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3世紀中葉 | ホケノ山古墳 (桜井市箸中) |
帆立貝形前方後円墳 全長90m 石囲い木槨 舟形木棺 |
(木槨内) 画文帯同向式神獣鏡1(足元)、素環頭太刀など刀剣類5 (木槨外?) 鏡片23(半肉彫り神獣鏡、内行花文鏡など) ※土器(庄内式、布留式同時使用の可能性) (前方部木棺) 3世紀中頃の瀬戸内西部の特徴を持つ壺 |
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光正寺古墳 (糟屋郡宇美町宇美) |
前方後円墳 全長54m 後円部に埋葬施設5カ所 箱式石棺3、割竹形木棺1、土器棺1 |
(第1主体部 箱式石棺) 土師器(3世紀中頃~3世紀後半) |
3世紀中葉~3世紀後半 | |||
祇園山古墳 (久留米市御井町) |
方墳?1辺23~24m 箱形石棺 墳裾外周に甕棺3、石蓋土壙32、箱形石棺7、竪穴式石室13、不明7 |
(1号甕棺) 画文帯神獣鏡片、硬玉製勾玉、碧玉製管玉 (墳裾) 土師器 |
3世紀後半 | |||
津古生掛古墳 (小郡市津古字生掛) |
帆立貝形前方後円墳 全長33m | (木棺) 方格規矩鳥文鏡1、ガラス玉、鉄剣ほか (古墳周溝、付随周溝墓の溝内) 土師器(庄内式の新しいものと並行する時期) |
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3世紀後半~4世紀初頭? | 中山大塚古墳 (天理市中山町大塚) |
前方後円墳 全長120m 後円部中央 竪穴式石室 前方部はバチ形 |
(石室) 二仙四獣鏡片2 (墳丘頂部) 土器、特殊器台形土器ほか |
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箸墓古墳 (桜井市箸中) |
前方後円墳 全長280m 2009年5月、歴博からC14年代測定で240~260年と発表がある 土器、試料、崇神紀の記録及び崇神天皇の時代など、総合的な判断が必要 |
布留0式土器(280年頃とされる) | ||||
4世紀前半 | 黒塚古墳 (天理市柳本町) |
前方後円墳 全長130m 後円部中央 竪穴式石室 |
(棺内) 画文帯神獣鏡1(頭部付近)、鉄製刀剣2 (棺外) 三角縁神獣鏡33、刀剣類 |
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4世紀前半~中葉? | 天神山古墳 (天理市柳本町天神) |
前方後円墳 全長113m 後円部中央 竪穴式石室 崇神陵の陪塚? |
(石室) 内行花文鏡4、方格規矩四神鏡鏡6、画文帯神獣鏡4、三角縁変形神獣鏡2、獣形鏡3、画像鏡2、獣帯鏡1、人物鳥獣鏡1、鉄刀3、鉄剣4ほか |
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原口古墳 (筑紫野市武蔵字原口) |
前方後円墳 全長80m 前方部 バチ形 |
三角縁神獣鏡3(石塚山古墳、椿井大塚山古墳などと同笵関係)、直刀3、管玉ほか | 4世紀中葉 | 椿井大塚山古墳 (京都府木津川市山城町椿井) |
前方後円墳 全長185m 後円部 竪穴式石室 割竹形木棺? |
内行花文鏡2、方格規矩四神鏡1、画文帯神獣鏡1、三角縁神獣鏡32、素環頭太刀、剣ほか (前方部) 布留式土器 |
石塚山古墳 (京都郡刈田町富久町) |
前方後円墳 全長120m 竪穴式石室 割竹形木棺 九州最古の典型的な畿内型古墳? |
(石室) 三角縁神獣鏡14(黒塚古墳、椿井大塚山古墳などと同笵関係)、素環頭太刀ほか |
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銚子塚古墳 (糸島郡二丈町大塚) |
前方後円墳 全長103m 竪穴式石室(後円部中央) 組合せ式木棺 |
頭部両脇:方格規矩四神鏡1、内行花文鏡(長宜子孫銘)1 後漢鏡 左右:仿製三角縁神獣鏡各4 硬玉製勾玉2、碧玉製管玉33、素環頭太刀3ほか |
4世紀後半? | メスリ山古墳 (桜井市高田字メスリ) |
前方後円墳 全長224m 後円部中央 竪穴式石室 |
(石室-主室) 内行花文鏡2、神獣鏡片1、硬玉製勾玉、鉄剣4ほか |
老司古墳 (福岡市南区老司) |
前方後円墳 全長90m 竪穴式石室4 |
(第1号石室) 方格規矩鏡1、鉄刀1、剣4、やりがんな5、硬玉製勾玉2ほか (第2号石室) 変形文鏡1、剣3ほか (第3号石室) 方格規矩四神鏡1、方格規矩鏡2、内行花文鏡1、重圏文鏡1、三角縁神獣鏡片1、仿製内行花文鏡2、鉄刀8、剣7、やりがんな6、硬玉製勾玉7、碧玉製管玉115ほか (第4号石室) 剣4、やりがんな3、器台形土器1ほか |
4世紀末~5世紀前半 | 新山古墳 (北葛城郡広陵町大塚) |
前方後方墳 全長130m 後方部 竪穴式石室 |
内行花文鏡、三角縁神獣鏡、画文帯環状乳神獣鏡、画文帯神獣鏡、仿製方格規矩鏡、三神三獣獣帯鏡、鼉龍鏡、直弧文鏡など鏡34面、鉄刀16、鉄剣16、碧玉製管玉ほか |
5世紀前半 | 宝塚古墳 (北葛飾郡河合村佐味田) |
前方後円墳 全長100m | 方格規矩四神鏡、画像鏡、仿製家屋門鏡、獣帯鏡、三角縁神獣鏡、流雲文四神鏡、鼉龍鏡、獣形鏡など鏡26面、硬玉製勾玉3、碧玉製管玉48、碧玉製石釧1、巴形銅器2ほか |