13.現在(side:捲簾)
手のひらに、熱と鼓動が届く。温かいそれは、天蓬が間違いなく今生きている事を俺に伝えてくれていた。
もう会えないと思ったお前にもう一度会えて、話せて、触れられて……嬉しかった。けど、それと同時にもう二度と離れたくないと思った。お前が死ぬなんて、居なくなるなんて、嫌なんだ。決められた未来だとしても、納得なんて出来ない。だから、どうしたらいいか考えたんだ。
手のひら伝わる熱。お前が生きてて本当に良かった。
この熱を失わせはしない。
天蓬が見た未来では、天蓬の死の事実だけではなく、その状況も解っている。だったら、その状況を作らなければ良いんじゃないかと俺は考えた。誰かに首を絞められて殺されるなら、誰にも会わせなければ良い。何処にもやらないで、誰にも会わせないで、ずっとここに閉じ込めておけばいい。そうすれば、お前は誰にも殺されはしないだろう。だからお前は、俺だけの世界に居れば良い。
なのに、お前はどうして逃げようとするんだ? お前だって死ぬのは嫌なんじゃねぇのか? でなけりゃ、違う未来を見るための占いなんてしてなかっただろ? なのになんで? ……あぁ、もしかして俺に迷惑をかけるのが嫌なのか? 馬鹿だな、ンな事気にしなくて良いのに。俺にはお前以上に大切なモノなんて無いよ。それに、未来に屈する気も無いんだ。だから、安心して此処に居ればいいのに。
……なぁ、天蓬。お前どうしてそんな顔してんの? なんで、そんな目で俺を見てんの? 別に俺はおかしくなってなんかいないのに。俺は、ただお前を護りたいたけなんだ。だから、此処に居るんだ、天蓬。逃げるなんて許さない。死にになんて行かせない。……なのにどうしてお前はそんな事言うの。なんで俺から逃げようとすんの。閉じ込めても、繋いでもダメなら、後はどうすればいいのだろう。あぁ、そうだ。それならもういっそ、お前の意思を奪ってしまえば良い―――。
そうすれば、お前は俺だけのモノになる。
胸の中央に触れていた手を横に滑らせると、勃っていた乳首が引っ掛かった。緊張してんの? それとも、俺に触られて嬉しいの? ……俺は嬉しいよ。お前に触れることが出来て、本当に嬉しいよ。だから、この時間を終わりになんてさせない。
もう一度唇を重ねると、天蓬はきつく目を閉じ、歯を食い縛った。だから、口内に舌を突っ込みたかったのに出来なくて、仕方なく俺は天蓬の唇を舐めた。そして、顎から首筋、鎖骨へと唇を滑らせていく。キスして、舐めて、噛んで、何度もそれを繰り返すのに、満足なんて出来ない。もっと、何度でもしたい。もっとお前の全てに触れたい。鎖骨を辿り、肩を舐め腕を唇で辿る。逆側の腕は手で撫で下ろしていく。男にこんな風に触れるのは初めてなのに、それが天蓬だと思うだけで愛おしくて堪らない。指先の一つ一つにキスしてから、天蓬の胸を手のひらで撫で下ろしていく。その手のひらを追うように、俺は胸に顔を寄せた。
「ッ……!」
乳首を吸い上げると、天蓬の身体が小さく跳ねた。驚いたワケじゃ無いだろう。なら、多分。
「気持ちイイ?」
乳首に軽く歯を立てながら聞けば、天蓬は息を詰めて首を振った。
「良く、無いッです!」
息を乱しながら否定されても、説得力なんて無い。でも、嘘だなんて解りきっているけれど、嘘を吐けるって事はまだ理性があるって事で全然思考が奪われてはいないということだろう。
もう一度軽く乳首を吸ってから、今度は舌で触れてみる。勃っている乳首だけでなく、乳輪まで何度も何度も舐めると、その度天蓬の身体も震えて嬉しかった。お前が気持ちヨくなれば嬉しい。そんで、俺に溺れれば良い。俺の事だけ考えて、ずっと俺の傍に居たら良い。
肌を撫でていた手を下ろしていく。見かけ程細くは無いしっかりとした腰を撫で、パンツに手をかけた。口は休めないままパンツのボタンを外しファスナーをゆっくり下ろしていく。抗おうとしたのか、俺の下で天蓬の身体が捻られたが、鎖に阻まれたようで鎖の音がしただけだった。今は右手と右足にそれぞれ金属製の枷が嵌まっている。繋いでおかないと、コイツは逃げてしまうから。逃げられないように、お前を守る為に、鍵を掛けて。丈夫な壊すことも出来ないだろうけど、念には念を入れて、利き手を拘束しておいた。
天蓬は、大人しくしてればいいのに、動けないくせに俺を押し退けようと暴れている。それを片手で押さえ付けて、俺は反対の手でパンツを引きずり下ろした。眼前に晒される天蓬の下肢に視線が引き寄せられる。
そう言えば、何故か一緒に風呂に入った事も無かったわ。
初めて見た天蓬のチンポは、デカくて色だって可愛くは無かったけど、何故だかとても舐めてやりたいと思った。だから胸から顔を上げて、中途半端に脚にまとわりついていたパンツから繋いで無い足を抜き、まだ萎えているそれを口に含んでみた。
全部口に入れられたので根本までくわえ、まだふにゃふにゃしてるのを舌で上顎に押し付けてみる。
「止めッ」
天蓬が慌てた声を出したが気にせず口内のチンポを刺激する。どうせコイツは否定しか言わないんだろうから、無視しちまえ。フェラなんざしたことはねぇがされたことはあるワケでそれを応用してみると、直ぐに固くなってきた。それでもしつこく口内で刺激していると、段々体積も増してきて含みきれなくなって、一度口から出してみる。デケェな……。女顔負けの美人さんなのにこんな立派なモンを持っているとは。まだ完勃ちじゃないだろうにこのサイズ。
チラリと天蓬を見ると、手の甲を目頭に当て歯を食い縛っている。イイんなら流されてしまえばいいのに。男とすんのは初めてじゃねぇんだから、簡単に快楽を追えるクセに。
舌を出して根元からくびれまでを何度も舐め上げる。それから大きく口を開けて、亀頭をくわえてみた。舌を押し付けるようにソコを舐め回し先端の小さな穴を舌先で抉ると、天蓬の腰が跳ねた。知らず口元が笑う。感じていてくれてるってのが嬉しい。もっとしてやりたい。もっと気持ち良くしてやりたい。吸い付きながら先っちょを舐め回し、含みきれない部分は手で刺激する。天蓬の下腹と脚に力が入って震え始めたから、限界が近いのだろうと思い、一気に追い上げるべく口をすぼめ頭を上下させ、タマも手で転がすように揉む。
「ッ―――!」
声にならない声を上げて天蓬がびくんと身体を丸めたと同時に、口内に熱い液体が勢い良く吐き出された。数度に分けて吐き出されるソレを飲んでやりたかったのだが、勢いが良いのと喉に絡むのとで途中でむせてしまう。
顔を離してゲホゲホやるが、気管に入ったのが
全然出てきてくれない。思わず涙目になって口元を拭った俺に、天蓬が心配そうな声で聞いた。
「大丈夫ですか?」
「ん。平気」
無理矢理させられたワケでもねぇのに、情けねーの。なんとか咳を押さえ込んでやっと身体を起こすと、横たわってる天蓬がこちらをじっと見詰めていた。イったばかりだからか、頬がほんのり赤くて目も潤んでいる。
「ヨかった?」
少し移動して天蓬の頬を撫でた。イったんだからヨかったんだなんて思い込まないよ、俺だって男なんだから。触られりゃ勃つし、出る。けど、そういう肉体的なのと精神的な快感は違う。だから聞いたのに―――。
天蓬は無言のまま俺じっと見て、そしてやがて静かに言った。
「もう……止めてください」
まだ、そんな事を言うのか。どうして解らないんだ。そんな言葉ならもう、聞きたくなんか無い。
「嫌です、こんなの……」
聞きたく無いッ。
天蓬の言葉を遮ろうと手を持ち上げ、そして、俺はその手で天蓬の首に触れた。
その瞬間、何故か、急に頭の中がクリアになった。
そうだ、お前が俺から逃げるなら、こうすれば良い。
指先に力を込めてみると、俺の下で天蓬が驚いたような顔をした。
そりゃ驚くか。
助けたいと言っていた相手に、こんなことされたら。
……なぁ、天蓬?
俺もお前を助けたかったよ。
けど、お前が、他でもないお前が逃げようとするから。
だから、助けられないなら、お前が居なくなるなら、お前が死んじまうのなら―――。
きつく目を閉じて、指先に力を込めていく。
指が天蓬の喉に食い込んでいく。
ああ、これじゃお前の予知通りじゃねぇか。
ごめんな、天蓬。
俺は、お前を失うくらいなら……、それを誰かにされるくらいなら。
―――せめてこの手で終わらせたい。
お前が望んで無くても、嫌だと泣いたとしても。
「っ……」
手の下の身体に力が入る。
多分、苦しいんだろう。
そうだよな、苦しいよな。
ごめん、ごめんな、天蓬……。
けど、俺にはこれしか……。
きつく閉じていた目蓋に、暖かい何かが触れた。
思わず目を開く。けれど視界は涙で歪んでいて、お前の顔がよく見えない。
なぁ、天蓬、お前今どんな顔してるんだ?
苦しそうにしてるのか? それとも俺を恨んで睨みつけているのか?
……どちらでも構わないかな。
俺が告白したときみたいな、悲しい顔をしてなければそれでいい。
なぁ、天蓬。
俺を恨んでいいからさ。
俺を憎んでいいから。
だからもう、逃れられない未来から解放してやるよ。
天蓬。
愛してるよ。
ぱたぱたと涙が天蓬の頬へと落ちて散った。
そのせいで少しだけ視界がクリアになる。
天蓬は。
とても幸せそうに微笑んでた。
呼吸を遮られて苦しいだろうに、血液の流れを塞き止められて辛いだろうに、俺をしっかり見て笑っていた。
俺の目蓋を撫でていた指が頬を撫でて、そして重力に逆らわずベッドに落ちた。
ゆっくりと天蓬の目蓋が下ろされてゆく。
責める色も、恨む色も、怒りの色すらも無く、ただ幸せな色で、愛おしいものを見つめる視線。
そして僅かな……。
後悔……?
何を……?
何を後悔してるんだ、お前。
手の中の身体から力が抜けて―――。
俺は。
俺には、お前みたいな力なんて無い。
だから、俺は、ただお前に聞くことしか出来ない。
お前の感情、お前の思考、お前の想い。
解らないから、お前に聞くしか。
なぁ、天蓬。
お前は何に後悔してるんだ?
唐突に、今まで硬直したかのように力の入っていた指から力が抜けた。
締め上げられて僅かに浮き上がっていた天蓬の背がベッドに沈む。
と、急に呼吸を取り戻した天蓬が跳ねるように咽た。
「……ぁ」
俺は……、一体何を……?
俺の下でのたうつように苦し気に天蓬が咽て喘いでいる。
俺は、今、天蓬を……?
コ・ロ・ソ・ウ・ト・シ・タ
咽ている天蓬の潤んだ双眸が俺に向けられる。
なのにその瞳には。
……なんで。
なんでそんな、後悔の色浮かべちゃったりしてんだよ。
お前、俺に何されたかわかってんの?
やめろよ、そんな目で見るなよ。
責めればいいだろ。
怒って憎んで罵って。
そうする権利がお前にはあるだろ?
ようやく呼吸が整ってきた天蓬は、それでもまだ苦しそうにしたまま、潤んだ瞳で俺を見て。
「ごめんなさい…」
掠れた声だった。
そりゃそうだ。
俺に喉潰されてたんだから、まともな声なんて出るはずない。
っていうか。
「なんだよ、それ…」
呻くような声が出た。
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