タイトロープ


眩しくて、目が覚めた。
窓から射し込む光は薄いカーテンなどでは防ぎようが無く、部屋中に朝の光をまき散らしている。
は眠い目をこすりながら、一つおおきなのびをした。
「ん〜〜〜っ」
なんだか寝不足な気がする。
「おはよ」
すぐ横からの声に、びっくりしてが目をあげると悟浄がにやっと笑った。
裸の胸に落ちる日差しがまぶしくて、かっこいいかもしれない…。
珍しく銜え煙草もせずに頬杖をついている。
赤い髪が日の光に映えてすごくまぶしい。
と、悟浄が少しだけすまなそうな顔をした。
「アト、ついちまったな」
とんとんと自分の首筋を示す。
それが昨夜の情事の残り香がだということにワンテンポ遅れて気がついたは、少しだけ肩をすくめた。
「別に、いいよ」
「ケド服で隠れないだろ、そこ」
自分の洋服を考えてみるが、八戒や三蔵じゃないんだからそんな襟まで詰まった服を着ているわけがない。
「わりぃ」
あやまるくらいならしなきゃいいのに……という言葉は何とか飲み込んだ。
別にいやだったわけではないし、さすがにそれは禁句だろう。
それに気にするほどの事ではない気もする。
だいたい気がつくかどうかも怪しいし。
「キスマークくらい、いいでしょ」
「怒られねぇ?」
「……誰に?」
さすがにあきれたの声に、悟浄が言いにくそうにを見た。
手が煙草を探している。
「三蔵……とか?」
「何で怒られなきゃいけないのよ。私誰の物でも無いからね」
高らかと宣言をして、はベッドから身を起こした。
そろそろ朝食の時間だ。
階下からはいい匂いが漂ってきている。
今日は久々の街を楽しもう。
ワンピースに袖を通すと、は悟浄を残して食堂へと向かった。

「おはよー」
が食堂に降りると、そこにはすでに3人がそろっていた。
「おはよ」
「悟空早いじゃん。どうしたの?」
「腹減ってさぁ」
苦笑する悟空に、も思わず笑いがこぼれる。
「おはようございます、
「おはよ、八戒」
は何を食べますか?」
「んんー…と」
ひょいとメニューを差し出されて、はそれを受け取ると悟空の隣に座った。
「おはよ、三蔵」
ちょうど正面に三蔵がきたので、一応挨拶しておく。
彼は新聞に目を落としたまま、の方を見向きもしない。
「ああ」
生返事を返してコーヒーを一口飲んだ。
それもいつものことなのでは気にせずメニューをのぞき込む。
「飲茶と、回鍋肉と、杏仁豆腐と、チャーハン」
おいしそうな写真入りのメニューを眺めていると、忘れていた空腹がよみがえる。
何はともあれ食い気でしょう。
はにこにこしながら、箸を手にした。

食事の後、部屋に戻ろうと席を立ったに八戒が廊下で声を掛けた。
「なに?」
立ち止まると、八戒が自分の首を示す。
「ここ、どうしました?」
「……見ての通りだけど?」
すっとぼけた問いをされては何とも答えようが無い。
「悟浄、ですか?」
すっと細くなった目に、が肩をすくめた。
「八戒に、何か関係ある?」
ちらりと彼を見上げて言うと、八戒は少しだけ笑った。
「関係はありません。が、ちょっと刺激的すぎますよ」
「え?」
の顎を取り、いきなり深く口づけられる。
「んぅ……」
深く重なった唇から舌が差し込まれ、思うままの口内を蹂躙していく。
歯列をなぞられ、舌を吸い出され甘噛みされれば、背がふるえる。
力が抜けそうな身体を壁へ押しつけられ、その胸を八戒の大きな手がつかむ。
「っ……」
飲み込みきれない唾液がの顎へと伝った。
「っふ…ぁ」
「こんなところでさかってんじゃねぇよ」
突然のその声に、口づけから解放されたが潤んだ瞳でそちらを見れば、三蔵が八戒とを睨み付けていた。
「場所を考えろ」
じろりと一瞥するとその脇を通り過ぎて行こうとする。
その三蔵の背に、八戒が声を掛けた。
「嫉妬、ですか?」
ぴたっと、三蔵の足が止まる。
ゆっくりと振り返る三蔵に、八戒がにこやかな笑みを披露した。
「貴方の物にしたいんでしょう? を」
「八戒ッ」
「でも、残念ですね」
八戒が見せつけるようにを抱きしめる。
そして首筋がよく見えるように、髪を掻き上げ三蔵を見た。
は、そう思っていないようですよ」
三蔵が、目を見開いて手のひらを握りしめる。
「……ッ」
どんっと、渾身の力を込めてが八戒の身体を押しのけた。
「いい加減にしてよ……」
押し殺した声がののどから漏れる。
じろりと二人を睨み付けると一歩後ろへ下がった。
「私、誰の物でもない」
騒ぎに、部屋から出てきた悟浄と、階下から上ってきた悟空の姿が見える。
「私は、私のものだよ。誰の物にもなれない」
そういうと、は静かに4人を見た。
「私、もう旅、やめる」
ずっと考えていた事。
「ここで、お別れだね」
涙が、ぽろりと落ちた。
三蔵も、八戒も、悟浄も、悟空も、ただ黙ってを見つめる。
は、顔を上げると4人に向かってほほえんだ。
「ばいばい」
くるりときびすを返すと翻る身体。
はにぎやかな街へと逃げて行った。


※この後は選択方式になります。

三蔵に裁かれる。
悟浄に甘やかされる。
八戒に謝られる。
悟空に手をさしのべられる。
花吹雪 二次創作 最遊記