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逃げたくなるコトって、ない？ あの日私は、ものすごくヤなコトがあって、泣きっ面に蜂ってこのことを言うんだってくらい、もう、悪いことばっかりで。 このまま消えちゃいたいって思うコト、ない？ 最後の砦でいつもの笑顔を振りまいた私。 プライドだけでそこにいた私。 一人になったとたんに涙がこぼれた。 悔しくて、悲しくて、そのままそこに膝をついて泣いた。 子供みたいに泣けなくて、こぼれる嗚咽が惨めだった。 もうヤだった。 このままどこかへ行ってしまいたかった。 人さらいでも、人殺しでも、ここから連れてってくれるなら何でも良かった。 誰かに助けて欲しかった。 が目を開いたときに見えたのは、闇だった。 暗い室内。 目を開いているはずなのに、物がぼんやりとしか見えない。 は何度か瞬きをすると、ため息をついた。 まず初めに寝過ぎたのかと考えて、それからみんなに心配かけたかなって思った。 感情にまかせてひどいことをしてしまったかもしれない。 少しだけ冷静になった頭でそんなことを思いながら、時計を探す。 けれど、手が上手く動かない。 拘束されているわけでもなく、ただ重たくて神経が鈍くて上手く動かない。 と、暗い闇から声が響いた。 「何を泣いているのかな？」 の上から降ってくる声。 が目を凝らすと少しずつはっきりしてくる視界。 視力が足りない時の視界に似ているぼやけ具合で、貧血を起こしたときにも似ている暗さ。 はっきりしない視界の中で、何かがの方へと動く。 頬に、何かが触れた感触。 指が、の頬をなぞる。 しめった感触。 その時初めては自分が泣いていることに気が付いた。 少しずつ視力を取り戻していく視界。 離れていく手は、さっきよりもよく見えた。 そしてその先にいる人物。 白衣の男の姿。 無精ひげと、銜え煙草に眼鏡。 よく見えない。 と、男がニヤリと笑った気がした。 「名前は？」 男がに聞く。 有無を言わさぬ口調。 は乾きすぎてひりひりしている喉から声を出した。 「……」 「ふーん。ちゃんかぁ」 楽しそうに男が笑った。 その瞬間、屋敷中に鐘の音が響き渡った。 ゴーン、ゴーン。 耳を塞ぎたくなるような大音量で、建物中を響きわたる音。 上手く動かない腕を上げると、男がへニヤリと笑った。 「ゲームの始まりだよ。ちゃん」 鐘の音に消されず届いたその言葉。 男が笑いながら身を翻すと、は慌てて起きあがろうとした。 こんな、どこだかわからない場所に一人で置いていかれたくない。 けれど、上手く動かない身体では後を追うことも叶わない。 ずるっと手が滑って、の身体はそのまま地面へと落ちた。 無様に肩から硬い床に落ちて、痛みに眉をひそめながらも光の差す方を見れば翻った白衣が消えていくところだった。 寝台を頼りによろめきながらが後を追う。 一人になりたくなかった。 助けて欲しかった。 縋る思いで男を追う。 ただ歩くということがこんなに大変だなんて、思わなかった。 まるで歩き始めた子供のような危うさで、は必死に男を追った。 けれど、その歩みで追いつけるわけがない。 男の姿なんて、扉の所で見たのが最後。 それでも一本道の廊下を、必死では追った。 無理に動いたせいか、視界がかすむ。 駄目だと。 もう駄目だと、が思ったとき、かくんとその膝が折れる。 状態を整えることすらできずに地面に倒れ込む。 暗い室内に差し込む光が妙に幻想的で、はこのまま死ぬのかなと思った。 一人で冷たい廊下に転がっている。 と、足音が響いた。 かすむ視界でが必死で上を見上げると、長身の男が自分を覗き込んでいるのがわかる。 赤い髪が、日の光にきらきらしていてすごくキレイだ。 思いながらの意識は闇へと飲み込まれていった。 「貴方が落ちているモノを拾うのが好きなのは知っていますけどね、さすがにこれはまずいでしょう」 にこやかに緑の服の男が告げる。 「かわいいから拾ってきたんだろ、エロガッパ」 くりくりした目の男の子が、続けて赤い髪の彼にそういうと、赤い髪の男……沙 悟浄は不愉快そうに口の端を引きつらせた。 「てめぇら……」 それを気にもとめず、金色の目をした子がの座るベッドへと一緒に座る。 「な、名前なんての？」 にこっと笑って問う少年に、思わずも笑いながら答える。 「」 「ふーん、ちゃんかぁ。オレね、悟空！ 孫 悟空」 「馴染んでんじゃねぇよ、サル」 背後から、金色の髪をした坊主らしき人物が、おおよそそれとは程遠い言葉遣いで悟空をハリセンで殴った。 「まあまあ、三蔵」 それをなだめるにこやかな青年も、なにか違う気がしての笑顔が少しだけ引きつる。 「でも、本当にどうするんですか？ 悟浄」 「や、オレに聞かれても……」 ひんやりと、笑顔が凍った雰囲気に悟浄が慌てて言い訳がましく彼を見た。 「だってよ、行くトコねぇっていうからさぁ…」 「……貴方がそういう人だってことは知ってますけどね」 ふわりと、まるで花が咲くような突然の優しい笑みにが目を丸くした。 その反応に彼は改めてを見ると、苦笑しながら自己紹介をした。 「僕は猪八戒といいます。よろしく、」 「あ、よろしく」 つられて挨拶をしてから気付く。 「私、いいの？」 「仕方ないでしょ。ねぇ三蔵？」 苦笑しながら八戒が三蔵を振り向くと、三蔵はとてもイヤそうな顔をして八戒を睨む。 その視線に鉄壁の笑顔を返し、八戒が言った。 「拾ったモノは最後まで面倒を見ないといけないんですよね？」 ちらりと意味深な視線が部屋を泳いだが、それが誰を示すのかにわかるよりも先に、三蔵が視線を逸らして銜えていた煙草を灰皿に押しつけた。 「お前は本当にそれでいいのか？」 じろりと三蔵に睨まれて、が口ごもる。 いいのかと問われても、には判断のしようがない。 迷惑だなんて事はわかっているけれど、それでも何一つとしてこの世界のことを知らないには生きていくことすらできるのかもあやしい。 だからといって、素直についていくなんて言えるはずもなく。 「私…は」 答えを出せずにうつむいたその時、の肩を悟浄が抱いた。 「行くに決まってんだろーが？」 ぐいと引き寄せられ、悟浄が間近でを覗き込んだ。 「な、行くだろ？」 片目を眇め、嬉しそうに私を誘ってくれる悟浄。 私の居場所。 それがすごく嬉しくて。 はこくりと頷いた。 一人の寂しさを紛らわせるのなんて簡単。 手を伸ばせば、すぐに誰かがその手を取ってくれる。 例えそれが一時的な物でも、それを続ければいいだけの話でしょ？ 身体を差し出せばそれで全てが充たされる。 ただ一つのことに気付かないフリさえすれば、それでいい。 胸が痛いのは、きっと気のせいだ。 大通りを一人で歩いていたに、ふと声がかけられた。 「彼女、一人ィ？」 「オレたちと遊ばない？」 いかにも遊んでいそうな男の人たちが３人。 ひどく馴れ馴れしくの肩に手を置く。 「なぁ、暇なんでしょ？」 強引に肩を抱き、を覗き込んだ。 「一緒に飲みに行こうぜ」 がちらりと見れば、他の二人が逃がさないようにさりげなく逃げ道を塞いでいる。 そんなコトしなくても、逃げたりなんてしないのに。 「私、お金持ってないよ？」 上目遣いで男を見れば、ニヤリと笑ってを強引に引き寄せた。 「もち、おごり。行くよな？」 キレイにウインクまでしてみせる男に、少しだけ赤い髪の男を思いだしたけれど、痛む胸と一緒に気付かないフリをして、は彼らと歩き出した。 「へぇ、東から来たんだ」 カラカラと氷を鳴らしながら、男が言った。 「旅してるみたいには見えないけど、遊びに来たの？」 別の人が、空いたのグラスに酒をつぎ足してくれる。 「まあ、そんなとこ」 適当に答えてがグラスをあおる。 どうせ一晩限りなんだから、適当に合わせておけばそれでいい。 「で、何でこんな時間に一人で遊んでんの？」 煙草をくわえた男が、の肩を抱きながらニヤニヤしている。 一瞬だけ動きが止まる。 けれど、は強引に彼の煙草を奪った。 そしてそれを一口吸う。 「彼氏に振られたの」 あながちウソでもない。 少しだけ目頭が熱くなる。 それを煙のせいだと思いこみ、はまたグラスをあおった。 「美味い？」 「んー」 馴れ馴れしいその男が調子に乗ってを抱き寄せる。 されるがままに引き寄せられ、その胸に頬を擦りつければ人肌の恋しさだけは充たされる。 そしてはゆっくりと目を閉じた。 そうすれば、ここがどこで、この人が誰で、私がなんなのかすらわからない。 それでいい。 目を閉じれば、嘘も現実も全て同じ。 「ね、忘れたいの」 甘えた声でねだれば、強い腕が抱きしめてくれる。 そして快楽で全てを忘れさせてくれる。 ほら、もう、寂しさなんて感じないよ？ 忘れるコトなんて、こんなに簡単なのに。 「ちょーっと待った」 ぐいと、男から引き剥がされて思わずが目を開く。 と、目の前に見えた血のような赤。 「……っ」 目を見開くを引き寄せ、悟浄がじろりと男どもを睨め付ける。 そして優雅に笑むと、口を開いた。 「悪いけど、これ、オレのなの。手ェ出さないでくれる？」 悟浄の言葉に、最初きょとんとしていた男たちが椅子を引いて立ち上がる。 「そうはいかねぇな」 「彼女はオレたちと飲んでんの」 「てめぇには関係無いだろ？」 好戦的な彼らの態度に、悟浄があからさまに侮蔑の視線を送った。 「関係大ありなんだよねぇ。コイツオレのだから？」 その言葉に、男が笑った。 「笑わせるぜ。彼女の方はそう思っちゃいな…」 ダンッと、すごい音を立てて悟浄が男を机に押しつけた。 ぎりぎりと男の口を押さえた手が軋む。 悟浄が男を覗き込んで笑んだ。 「悪ィけど、オレ今ちょー機嫌悪いんだよね」 切れ長の赤い瞳が男たちを舐めるように見た。 「はオレが拾ったんだから、オレのモンなんだよ。手ぇ出してんじゃねーよ」 押し殺した声でそう告げると、悟浄はの肩を抱き店から連れ出した。 抱くと言うよりは拘束していると言った方が正しい強さで、その指が肩に食い込むたびにが眉をしかめる。 しばらく無言のまま歩き続ける悟浄。 は、悲しくなってうつむいた。 それでもかまわず歩き続ける悟浄に、は覚悟を決めて足を止めた。 「なんだよ？」 歩みを止められてあからさまに不機嫌な声で悟浄がを見る。 怖くて、顔が上げられない。 尚もうつむいたままのに、悟浄は耐えるように大きなため息をついた。 苦しくて、悲しくて、は覚悟を決める。 「帰って」 もう、一緒に旅をすることなんてできないから。 彼らの重荷になんてなりたくないから。 悟浄の胸を押し返し、一歩後ずさる。 「ここで、お別れだよ」 告げた瞬間、悟浄が目を見開いた。 そして次の瞬間、彼の手がの頬へと振り下ろされた。 「っ…！」 ぱしっ！ 覚悟していたコトだった。 彼にしては手加減したのだろうけれど。 ぽろりと、の目から涙がこぼれた。 「………」 はらはらとこぼれ落ちる涙。 呆然としたままの。 ただ涙だけが止まることも知らずこぼれる。 悟浄が戸惑ったように自分の手ととを見比べた。 「……悪い」 言葉に、が否定の形に首を振る。 悟浄は悪くない。 「ごめんなさい」 これはの我が儘。 くるりときびすを返してが走り出す。 けれど、後ろからの身体を抱きしめた悟浄に阻まれた。 「お願い、離して」 無駄と知りつつも足掻くをきつく抱きしめる悟浄。 「悟浄…っ」 びくんと、彼が一瞬だけ硬直した後、抱きしめる腕の力が弱くなる。 ゆるゆるとほどかれる腕。 ゆっくりと解放される。 名残惜しそうに、指が触れて、離れた。 「悪かった……」 押し殺した声が、の背中に届いた。 その声が悲しくて、振り向けないまま足を踏み出す。 追う気配も無い悟浄に、引きずられるように振り向いたそのとき。 悟浄がふわりと笑った。 「……どうして？」 彼の心がわからずに問う。 「女が泣くのは嫌いなんだ」 口元を歪めて笑う悟浄。 「行けよ」 に優しく促す。 「考えてみりゃ、みてぇないい女がオレたちと一緒に居る方がおかしいんだ。ましてや」 オレのモノになんてなるわけねぇのにな。 音にしない呟き。 どうしてこの人は。 の瞳から、また涙が零れた。 「泣くな」 解放するから、もう自由だから。 「頼むから……」 悟浄の手が、の頬に触れる。 その指で涙を拭うと、悟浄はを抱きしめた。 「離せなくなっちまう」 降ってきた口付けをかわすコトなんてできなくて。 きつく抱きしめるその腕が、の肩に痛いほど食い込んだ。 悟浄に手を引かれて戻った宿屋では、３人が暖かく迎えてくれた。 「戻ってきてくれたんですね」 ホッとした様子で八戒が微笑む。 「すみませんでした。の気持ちも考えず……」 「ううん、いいの。気にしないで」 「もうどこへも行かない？」 悟空が不安そうな目でを見つめる。 「うん。みんなが許してくれるなら、だけど」 「許すも許さないもないよ！ 悪いのは三蔵と悟浄だし」 「どうしてそうなるんだ？ この馬鹿ザルがっ」 スパンとハリセンで悟空を叩いてから、三蔵が言いにくそうに口を開く。 「これからはの意志を尊重する。手前のことは手前で決めろ。それに従う」 「でも……、私なんの役にもたってないのに」 「かまわん」 「そ」 悟浄がへと笑った。 「はその存在だけでオレたちの役にたってるからいいんだよ」 「……悟浄」 「僕らが一緒に居て欲しいんです」 「ありがとう」 「礼を言うのはこちらだ」 「ホント、大変だよ。が」 ニヤニヤと悟空が笑う。 それを見て、も笑った。 貴方達さえ許してくれるなら。 一緒に旅を続けたいと。 も強く想ったのだった。 長かった一日の疲れを癒すように、はベッドへと身体を預けた。 とても幸せな気分で、つい笑いがこぼれてしまう。 自分の居場所が確認できて、これからはもう少し前向きになれるような気がして。 は隣のベッドに腰掛けている悟浄を見た。 煙草を口にくわえたまま、ぼんやりしている悟浄。 「ね」 が呼びかければ、視線だけをそちらへ投げた。 「ありがとう」 「ナニが？」 「んー、イロイロ」 今日のコトも、初めてであったときのコトも。 通じたのか通じてないのかわからないが、悟浄もそれ以上は追求してこなかった。 そして紫煙を吐き出す。 「……？」 かすかな違和感。 けれど、問いただそうとが口を開くよりも早く、悟浄が勢いよく立ち上がる。 「ちょっと、八戒んとこ行ってくるわ」 「え……？」 を見ずに部屋を出ていく悟浄に、不信感がつのる。 「……私、無視されてる？」 口に出してみればそんな気がしてくる。 でも、理由が思い当たらない。 帰ってきたら問いただそうと思ったけれど、悟浄はなかなか戻ってこなかった。 夜半過ぎ、扉の開くかすかな音では目を覚ました。 悟浄のコトが気になって、深く眠れていなかったせいだ。 薄目を開けてみれば廊下の光に反射する赤い髪が見える。 そのことに安心しつつも、声をかけることはできなくて、は寝たふりをした。 静かに悟浄がベッドの方へと寄っていく。 そして、自分のベッドに腰掛けたらしい音。 小さなため息。 ライターの音。 まぶたの裏が、一瞬だけ明るくなって消える。 「……ダセェ」 自嘲的な声。 きしりと、ベッドが軋んだ音。 そして、の髪へと優しく触れる手。 まるで壊れ物を扱うかのように、ひどく優しくそして怯えたように触れる手に、が目を開いた。 悟浄は一瞬だけ戸惑ってから、唇を片方だけあげて笑って見せた。 「起こした？」 に触れていた手を離すと、もう一度笑う。 「まだ朝にはなんねーぜ。寝な」 「悟浄は？」 「オレも寝るって」 ふと、悟浄がをまじまじと見た。 「赤くなってるな」 の頬を見て、言う。 「痛かっただろ？」 昼、叩かれた頬を優しく指でさすりながら悟浄が呟く。 「ゴメンな」 その言葉に、が首を振った。 「悪いのは悟浄じゃない」 「サンキュ」 僅かに笑って、手を引く悟浄。 その手を、がとった。 「今日は、しないの？」 直接的な言葉に驚いたように悟浄が眉を上げる。 「毎日じゃ身体がつらいでしょ」 握られた手はそのままに、悟浄が視線を逸らした。 その仕草に不安があおられて、は悟浄の手を自分の胸へと導いた。 「抱いて」 視線をあげた悟浄と見つめあう。 「離さないで」 身体を彼へと預ければ、戸惑うように回される腕。 弱い力で抱きしめる悟浄に全てをゆだねるようには目を閉じた。 ついばむように重なるキス。 繰り返し繰り返し、確かめるように重ねられる。 それから、少しずつ下がっていくキス。 の頬に、首に、鎖骨に、肩に、落ちてくるキス。 意外なくらい優しいキス。 悟浄の唇がひどく優しくの身体に触れる。 そっとの胸へ悟浄の手が触れた。 包み込むように触れる指。 その間から見える飾りへ触れた唇。 「……ん」 の唇から漏れた吐息に安心したように、悟浄がその飾りを舐めあげた。 「っ……」 やわやわと両手で胸を揉みながら、中心を犬のように舐めている。 さらさらとの身体に落ちてくる彼の髪すら感じる程、緩やかな愛撫。 「…ふ…」 無意識に口に押し当てたの手に気づき、悟浄がその手を取った。 そして指先へとキスを落とす。 指先、関節、手のひら、手首。 薄い皮膚を少しだけ吸い上げる。 「…っあ」 僅かに赤くなった手首を舐めて、悟浄はもう一度そこにキスをした。 ちゅ…と音を立ててキスをした後、再び胸へ唇を寄せる。 飾りを再度舐めると、少しだけ口に含む。 吸い上げるようにの胸の飾りを口に含み、口内で転がす。 「…ぅ」 ゆっくりと脇腹を滑っていく悟浄の手のひら。 それを追うように下がるキス。 みぞおち、へそ、足の付け根、それから。 悟浄の手のひらがの腰から尻へ滑る。 尾てい骨の窪みで遊ぶように止まる指。 足を開くよう催促していると、取れないこともないその動きにの膝が開かれていく。 するりと尻を撫で、の足の間に滑り込むと悟浄はの内股にキスをした。 「っ…ん」 軽く吸い上げるように柔らかい肌を上がっていく唇。 悟浄の唇がそこに辿り着いたとき、のそこは触れられてもいないのに蜜が溢れだしていた。 恥丘に口付けるように、悟浄はのそこの毛を口にくわえる。 少しずつ下がっていく唇。 秘部を開くように添えられた指に、浅ましく入り口が収縮する。 チュ…。 割れ目を舐め上げられれば、淫猥な音が響いての耳を犯した。 ナカに欲しいのに、抱いて欲しいのに、まるで生娘を抱くかのような丁寧な愛撫にとまどいと羞恥がわき上がる。 快楽を知った身体が浅ましく悟浄を欲しているのを、言葉にすることがみだらな行為に感じて。 繰り返し丁寧に舐めていく悟浄に、ねだるような視線を投げてしまう。 「ご……じょぉ」 小さく呼べば、悟浄が手を止めて視線を上げた。 「つらい？ 」 ふわりと笑った悟浄の視線が、ひどく優しくては彼がワザとしているわけでは無いことを知る。 「？」 困ったように笑って、悟浄は体勢を起こしを覗き込む。 「やめる？」 まるで子供に聞くかのようなその仕草に、悲しくなっては悟浄の首に腕を回し、彼の身体を抱きしめた。 「……？」 「入れて」 淫らな熱が収まらないの。 「悟浄のが、欲しい」 「……ん」 吐息のような悟浄の言葉。 確認するかのように、彼の指がもう一度割れ目をなぞった。 その指で開かれた入り口に、触れる悟浄自身。 慣らすように円を描くけれど、侵入してこないそれに焦れたようにのそこがひくひくとくわえ込もうとし始める。 悟浄が、の耳元で少しだけ笑った気がした。 「……ぁ」 ゆっくりとナカを満たしていく悟浄に、早くも痙攣をし始めるのソコ。 「……も、お願…」 悟浄の手を自らの胸へと引き寄せねだる。 「イかせてッ…」 「オッケ」 ゆっくりと引き抜かれては再び埋められ、がのけぞる。 「っあ」 じゅぶ…と、音を立てて抉られ快感が脊髄を駆け抜ける。 「は…っあ」 知り尽くされた肉体の、イイ場所を丁寧になぞるように擦られが一気に絶頂へとかけあがる。 「あっ、ああっ！」 びくんとのけぞって達した。 その締め付けに、悟浄が唇を噛む。 「……っく」 イイ場所を掠めて引き抜かれた肉棒に、の身体が跳ねる。 「…っあぁ」 引き抜かれた悟浄のソレから、白い液体が弧を描いての身体を汚した。 「…ぁ、熱ぃ」 ぱたぱたと、断続的に腹へと飛び散る悟浄の精にがぼんやりと手を伸ばす。 と、その手を悟浄が止めた。 「悪ィ、汚しちまったな」 情事の余韻もなく、ベッドから降りるとティッシュでの身体に散った自身の欲望をふき取る。 それがあまりに不自然で、ぼんやりとしたままが見つめていると、その不審気な視線に気付いたのか、悟浄が笑った。 「まだ朝まで時間があるから寝とけ」 「…でも」 「後始末ならしといてやるから」 思いだした眠気がを襲う。 ゆっくりと閉じていく目蓋に、悟浄の笑顔が残る。 はそのまま眠りへと落ちていった。 |
