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Theater Report #35
        

18(19:00),19(13:00)&20(13:00).Jan.02
 この3日間更新いたしませんでしたので、サボっているな、飽きちゃったなと思われていたことと思います。別にサボっていたわけではありません。
 この3日間、“An Almost Holy Picture”という独り芝居のテクニカルリハーサルを見学させて頂いていたのである。有り難いのである。凡てのスタッフに感謝しています。全く見ず知らずの部外者を快く見学させてくれたことに、心から感謝いたします。本当に有り難うございました。又私が一人でいるとにこやかに声を掛けてくれる優しくて、本当に良い方達ばかりでした。
 そんなスタッフによって和やかに楽しくリハーサルは行われました。和やかで楽しいリハーサルでしたが妥協はありませんでした。
  ではまず劇場から紹介します。
 劇場はAmericanAirlinesTheatreで、100年以上前の建物です。約60年間使われていなかった所を買い取られて最近リニューアルオープンした劇場だそうです。従って客席などは綺麗です。
 静かな一人芝居のテクニカルリハーサルは淡々と進みます。スタッフ全員が納得するまで何度でも繰り返し同じ所を修正しながら進みます。何処かのポジションが上手く行かなくても次に行くようなことはありません。演出のOKが出るまでみんな黙って待ちます。何処のポジションも同じですので、待たせることに気兼ねもなければ、待たされて苛々することもありません(取りあえず今回は)。「こんなに待たせて良いんだろうか?」と思う程納得行くまで他のポジションを待たせるそうです。普通に比べたらリハーサル時間はとても少ないそうです。それでも3日有ります。私の仕事なんか仕込みからバラシ迄1日というのが殆どです。そんなに時間があったら、経験がないので何をしていいか困ってしまいます。
 Kevin・Baconも文句も言わず、冗談を言いながら明るくつきあいます。初日は上手に入って服を脱いで、Tシャツとトランクスになって出てくる所まででしたので、2日目はその続きからでした。この日は午後から雪になり、暖房も入らないリハーサル中の劇場で彼は殆ど3時間をその格好で舞台にいました。客席にいた私はフル装備でも寒かった。しかも彼は舞台の前に作られた水たまりの中を何度も歩き、顔を洗うという演技をしていました。風邪を引かずにいることを祈るばかりです。そうして2日間で1時間50分のKevin・Baconの一人芝居のテクニカルリハーサルが終わりました。
 スタンバイといって代役の人がいます。一人でずっとやるわけには行きませんし、何かあると困りますからね。この人はジョンといいますが、Kevinの稽古が休憩になると一人黙々と舞台の上に上がり、Kevinやっていたことを復習しています。2日間、演出はKevinにしか指示を出しません。それをジョンは一人で復習して覚えていきます。休憩は10分から15分、食事休憩で1時間位です。彼が確認復習する時間は今の所それだけしか有りません。しかも照明も音響も誰も付き合いません。それで照明の当たる立ち位置などを覚えなくてはいけません。彼は大変です

 18日金曜日19:00〜24:00
 19日土曜日13:00〜24:00
 20日日曜日13:00〜22:00
  (24:00迄の予定が上手くいったので早めに終了)
休憩15分を入れて1時間50分程度の芝居のリハーサルに費やされた時間です。これでも未だDressingリハーサルは行われていません。全くのテクニカルリハーサルのみです。日本では考えられない程の時間を掛けて大切に慎重に丁寧に作り込まれています。全く頭が下がる思いです。ここで出会った在外研修(1年)で来ているチャーミングな女性によれば、これでもミュージカルとかではないし、劇場が空かなかったりで短くならざるをえず、3日間になってしまったとか。ブロードウェイは本当はもっと長くテクリハをやるとの事であった。

 さてこの独り芝居は、何らかの理由で不幸な境遇に陥って教会の牧童なった男が主人公です。ストーリーは彼が色々な思い出を語ることで進んで行き、最終的には凡ての思い出を捨ててしまおうとするが、凡ての想い出は神聖なる想い出として大切にする、と云ったような内容です。捨てようとした写真の入っている包みを胸に抱き彼が言う台詞「an almost holy picture」がタイトルの由縁です。
 この主人公を演じるのはKevinBaconです。長いリハーサルの為テンションを少し下げ気味で2日間彼はこの役を演じていたとのことでしたが、それでも緊張感の伝わってくる良い演技でした。本番での演技を何としても観たいものです。きっと素晴らしい舞台になるに違いないと思う。リハーサルでさえしみじみと込み上げてくるものがある舞台だったので、本番を見たら私は泣いてしまうかも知れない(私は結構泣き虫である)。
 3日目は代役のJOHNが舞台に立っていました。彼はKevinの演技は劇場に入ってからの2日間しか見せて貰ってないとのことで彼のキャラクターを生かした演出をされていたように思うます。JOHNも違った味わいで仲々素晴らしい演技でした。最初の2日間彼は、みんなが休憩になって舞台が空いた僅かな時間だけ舞台に上がって黙々と立ち位置や動きを確認していた。

 さてテクリハは勿論舞台監督の指示で進行して行くわけですが、多くの部分を劇場に入ってから再構築していくと云ったやり方で、音自体が変更になったり、レベル、出所、果てはリヴァーブの量・長さまで演出から細かく要求が出されていた。「違うフレーズが欲しい」とかモチーフとして使われている曲のどこそこのフレーズをどういう音で欲しい、とか本当に演出の要求は細かく、デザイナーはそれをOKが出るまで作り直すと云う作業の連続であり、又そこがOKになるまで全員が待ちになっていた。それが当然のことで誰も怒ったり、急かしたりするようなことはなく淡々としていた。それは何処の部門であったも全く変わりはなかった。

 この芝居のサウンドデザイナーは二人で、Scott・MyersとRobert・Kaplowits、Scottは年上のイギリス人で10年前にグローブ座で仕事をした事があると言っていた。ロバートは気さくなアメリカ人で風邪を引いていた。2人の分担がどうなっているかは、全く判らなかった。2人とも音を演出の要求で作り直していたし、マイクのセッティングの指示を別々に出していた。デザインデスクに2人ともいる事も有れば、どちらか独りしかいない時もあった。チラッと見たPLAYBILLの表示によればScottがメインで、Robertがサブと云った所だろう、と思う。Robertは変更した事をScottに報告しているようでもあった。
 因みに816を仕込ませ、水路の上のGLMをビニール袋に入れさせたのはRobertで、仕込み図の赤で追加してある4本のマイクはScottが指示を出していた。
 効果音、音楽はAKAIのサンプラーS-6000に取り込んでGtypeと云うソフトでMIDIでコントロールしていた。写真には写っていないがデザインデスクのSonyのノートコンピュータの下手側にS-6000に繋がっている鍵盤が置いてあって、演出が要求するフレーズがない時などはこれでデザイナーが引いて作ったりもしていた。S-6000の16chのOutは凡てMixerにインプットされていて、S-6000のOutでどのスピーカーから出すかをコントロールしていた。レベルも概ねS-6000の中にプログラムされ、S-6000では出来ない細かいものだけをMixerでオペレータがコントロールすると云った事であった。
 音作りはS-6000で出来るものはS-6000で、そうでないものはSonyのノートコンピュータのCuBaseで作ってサンプラーに取り込んでいた。
 照明、音響その他凡てCueは舞台監督よって出される。こちらでは当たり前事であるが舞台監督は大変である。照明も音響もこの御陰で簡単な引継で誰でもオペレートが取れる。良い事のような気もするが寂しい気もする。私も古い日本人なのである。

 さて今回の見学は#34にも書いたように私の受入承諾書を書いてくれたKurt・Fischer氏の取り計らいと、凡てのスタッフのご厚意により実現いたしました。本当に心から感謝しています。
 又サウンドデザイナーの一人Robertは次の仕事も見に来いと言ってくれましたので2月11日からそちらも見学させて頂こうと思っています。kurt氏は他にも見られるように探してくれているとの事なので楽しみである。

 “An Almost Holy Picture”はとても良いお芝居なので機会がある方は是非御覧下さい。
仕込み図&Photo を見る
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