9/28

 一昨日ピーターに「劇場には12時に来い」と云われたが11時にホテルを出た。本日も少し雨模様である。スイスもドイツもずっと空は、どんよりしている。晴れ間が全くないわけではないが晴れ間と云うよりも雲の切れ間と云った所である。たまにはパーーーンと晴れ渡って貰いたいものだ。

 さて劇場には昨日確認しておいたので程なく着いた。
 搬入作業の最中であった。楽屋口から入って舞台に行くと「ワアーオ!うーむぅぅ!狭い!」イヤ本当に、全くなんて狭さだ!間口が8mしかない!奥行きも8m位か?それにしても狭い。まあ尤もイタリアのカゼルタほど悲惨ではない。あれよりはマシ、だが下を見ても何も解決されない。ダンサーはやりにくいだろうなあ。聞く所に由ると以前ダンサーのT君はアクロバットで着地したら客席だった、と云う苦い経験のある劇場らしい。その狭さがご想像願える逸話である。

 劇場自体は、昔教会だった所を改装したものらしい。客席の狭くやや細長いが、見た目は結構美しい。然し至る所にフェイクが隠されている。この点については明日ご報告するつもりです。(出来なかったらご免ね)

 仕込みが始まり本日もSがブツブツ言い出した。「番号順に吊りゃあ良いってモンじゃないんだよ!全くピーターめ!」凡ての照明器材には、仕込み初日に振った番号が書いてあって、その順番通りに各バトンに吊ればいい事に一応なっているが、下手から何も考え無しに吊られては困る。センターに来るべき機材はちゃんとセンターにないと困る。その他だって光を当てる位置を考慮して吊って頂かないと行けない。至極当たり前の事であるが、ピーターは劇場の狭さも考えずに吊っていたのだ、全く!結局Sが凡ての位置を修正していた。ついでに云えば回路も凡てSが取った。困ったモンだ。

 音響は、劇場にそれなりのパワーセットがあるのでそちらを使う事にした、と云うか使う事になっていた。ま、この狭さでは持ち込みのスピーカーを置く余裕はないが。

 本日も勿論ちゃんと問題は起こった。矢張り劇場の回路の問題、それと結構ここの劇場のStaffはfriendlyではなく自分勝手に作業を進める傾向がある。照明のデザイナー&チーフは勿論Sなのであるが、Sがサイドスポット(以後SS)の当たりを取っていたら劇場Staffが「前明かりを決めるのに邪魔だから消せ!」という。この時点で仕込みは結構遅れていてSは一寸苛立っていた。
 又開場ギリギリまでSSの当たりを取っていたSを捕まえて「開場時間だから作業は止めろ」と云った。あんな当たりでは舞台が始められないだろうに!Sは結構本気で起こっていた。

 緞帳は照明室でも舞台袖でも開閉できる。どちらが良いかと問われ「舞台袖」と答えると「このボタンだ」と教えてくれた。自分でやれ、と云う事らしい。劇場の奴に頼む事も出来るとピーターは言ったが、只でさえ狭い袖中に人を増やしたくなかったので自分でやる事にした。まして一番太い奴に来られた日には堪ったものでは無い。奴一人で私4人部はスペースと取る。これは冗談ではない。皆さんも見た事有るでしょ、欧米人に時々いる凄い巨漢を、あれです、あれ。

 本番中に私がやる事は、そんなには多くないが音出し、照明への休出し、緞帳の開け閉め、これらはまず持って、大抵の場合、殆ど同じタイミングでやって来る物なのでその場面では結構忙しい。列車の運転手の様に指差し確認してミスの内容にやっていたりする。一寸慌てたりすると間違ったボタンを押してしまいそうなのだ。気を付けねば!

 狭い舞台でやり難そうであったが、まあ無事に舞台を終えてホテルに戻った。明日もこの劇場なので本日バラシは無し!有り難い!がこんな処はサラッと流してもっとスペース的にも劇場Staff的にも遣り易い所に行きたい。唯一の救いは「明日仕込みがない事!」か?

 
本日は劇場の写真も街の写真も撮る事が出来なかったので、と云うわけではありませんが、場当たり中のダンサーの姿をどうぞ。

 みんな元気です。

 下の衣装を着ているのは終演後です。三代さんが刀を構えているのは、別段トチった私は叩き切る為ではありません。私はトチってません!。


 緞帳の開閉ボタン。“Auf/Open”と書いてあるのが開けるボタンで、“Zu/Close”が閉めるボタン。

 左側少し離れてあるのが“Gong”つまり開演ベル(音が本当にゴング!)のボタン。7分前、3分前、1分前に鳴らすらしい。厳密な決まりでは無さそうであったが、気持ちとしてはそんな所らしい。
 緞帳上手側(緞帳のある上手側ではなく、緞帳自体の上手よりの位置)に開けられた穴。この穴から客席の様子を見て、開演を決める。特に何を見るかと言えば、ま、客席のドアが閉まったかどうか何だけどね。
 これは上手側のポータル。制服を着ているのは消防署の人。下手も同じ位置に椅子があって矢張り消防署の人が座っている。彼らの手の届く所に防火シャッターの開閉ボタンが有る。
 舞台に火が出た場合はすぐさまそのボタンを押して客席に火が行かない様にする。勿論開演前に動くかどうか確かめていた。

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9/29

 本日は3時に劇場入り!午前中は余裕があるので街に出よう!昨夜は星も出ていたし、晴れる事だろうし、↑(^^_)ルン♪ と思っていたら雨だった。日本は台風らしいし、日本よりはマシだが残念!(-_-)
 10時半頃小止みになったので街に出た。レポート用紙、安全ピン、安い電池(単3)などを探しつつ、街の中をグルグル歩いている内に晴れてきた。ヤッタネ!やっと見つけた1軒の文房具店らしき店に入ったら有った。ちゃんと安全ピンだって売っているのである。そりゃまあそうだろうけどSaffety Pinという。まんまですね。

 晴れてくると今度はWindbreakerを着ていては暑い、ホテルを出る時は肌寒い位だったのに。歴史のある街らしく団体客の様なお年寄りの集団も居たりして、結構賑わっていた。
 この街には、大きな本屋はないが、小さめの本屋が結構ある。2時間も歩けば充分歩き廻れる位の街なのに、10軒位はあると思う。もっと有るかも知れない。パッと見た範囲では売っているカテゴリーにそんなに差がある様には見えなかったが、矢張り客層は分かれているんだろうなあ。

 昼食を取ってホテルに戻り一休みして、3時に劇場に入った。
 本日は流石に少々時間があって駄目出しも念入りに出来た。
 然しこの劇場のスタッフの動きは少々不思議。私たちが劇場に着いた時には2名程居たが、マットにモップを掛け終えたら誰も居なくなってしまった。これが見事に何処にも誰も居ないのだ。何処に行ってしまったんだろう?自宅は近所なんだろうか?そんなに遠いとも思わないが、帰ってしまう程近いんだろうか?謎である。しかも開演寸前に例の巨漢が現れて開演ベルのボタンを押すまで姿が見えないんですよ。一寸凄くない?

 舞台の出来は昨日より良かったと思う。念入りな駄目出しと余裕を持った場当たりのお陰であろう。こういう狭いところでは、特にちゃんと場当たりをしたいものだ、と思う。
 客席の反応は、今一?今日の客の乗りはよく判らない感じであった。受けてる様な、受けてない様な。でもカーテンコールは3回やりました。その時はそんな感じだったんですけど、本番中は結構静かで、受けてないのかあ、と思ったりしてました。でもスタンディングオベーションの人もいたりして、うーむ、よく判らない。(この辺の事は私にはよく判らないので、客席側にいるSの感想が混ぜてあります。)
 何はともあれ無事終演。

 明日は500qの大移動だあー!しかも開演は7時半だあー!8時にホテルを出発、との事だがそれで大丈夫なのかー!しかも明日の街には3回も公演があるのにみんな1週間位離れている。何で一度にやんないんだあー!
 謎と不安を碁茶混ぜにして独逸の夜はふける、のであった。(実際にはもうふけてるけどね)

ホテルから来て、街の中にはいる時に渡る橋の上から左側を見たところ。 橋を渡って、街の中にはいる。

勿論城壁を壊して大きな車が中に入れる様になっているところもある。

同じく橋の上から右側を見たところ。 街に入って来てすぐのところにあるミュージアム。
 ミュージアムの展示は、子供向けの人形などであった。
(これが常設なのか、特別展なのかは不明。小学生の団体が来ていて賑やかだった。)
 紙で作った舞台の模型、と云うかジオラマ。  中にはこんなものあった。これが飾られていたショーケースは黒布が掛けてあり、覗き穴から見る様になっていた。その穴の高さは大人用で本日来ていた低学年では背が届かない。しかも穴の前にも布がぶら下げてあり、それを捲って見る、と云った念の入れよう。子供には、あまり見せたくないらしい。
 こういう死体人形の他に下半身丸出しの親父や下着姿の女性などもあった。ただし顔の表情などの作りはあくまでメルヘンチックなのであった。
ミュージアムの入り口付近にあった
Ambergを描いた絵。
 街の中を流れる川沿いの大きくて立派な家。この位の家は結構沢山あるが、一つの家族で住んでいるとは考えにくい。アパートだったり、Officeだったりすると思う。  石畳の小道。結構風情有るでしょ。  この家の窓の飾りも綺麗であった。他にも綺麗な花で飾って有る家は多い。  上の地図というか絵で云うと一番左の塔のある建物の前からメインストリートを望んだところ。
 人通りは少ない様だがこの中へ入っていくと結構人はいる。
街の中にいる範囲で一番街全体が見えるところ。他のところは、狭くてここまで引いた絵は撮れない。

中央の塔が街の中心にある教会。
その教会の横にある広場マーケットプレイス。
27日の日記にも写真のあるところ。
本日の私の昼食です。
舞台側から客席を望む。
明るさの関係で黄色っぽく写ってしまったが
実際には、壁は白です。
客席後方から舞台側を望む。
緞帳に襞が付いているが実は絵の具で
描かれたフェイクである。
客席後方からでは結構本物っぽく見える。
天井のシャンデリア。
点灯はされていなかった。
実際には大体こんな色合いです。 バルコニーの装飾。 中2階にあるホワイエ。左端の大きな紙には「楽しい一時を」と書かれている。

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9/30

 本日約500km北北西に移動してやってきましたGutersloh(本当はuにウムラウトが付くんだけど文字パレットから文字を選んできたのに付かなかった、今後はもう付けない。ウムラウトは文字の上に付いてる2つの点の事です)。途中結構工事で1車線規制になったりして、思ったより時間が掛かって1時過ぎに到着、約5時間の旅でした。12時に劇場に入るつもりだったのに、嗚呼。
 途中一寸時間を気にしていたら運転していたジャスミンに「大丈夫、ドイツではよくある事。こんな長距離の移動なんだから1時間や2時間よく遅れるのよ。誰も怒りはしないから、大丈夫。」と云われた。そんな事気にしてないよ!早く仕込みに掛かりたいだけだよ!怒られて堪るか!
 そんなこんなで助手席でジャスミンが眠たくならない様に話題を考えるんだけど、仲々話題が見つからずに困りながら、5時間走った。

 さて劇場について驚いた、処ではなく驚天動地腰砕け!舞台は間口は広いが奥は狭く、奥行きのない台形。緞帳もないらしい様子。そして先に着いたピーターも予定より遅れて付いた様で仕込みも遅れている。オーマイブッダ!!開演に間に合うんだろうか?心配!
 ダンサーにとっても試練の劇場(劇場と云うよりは舞台の着いた変形体育館)で上手下手共に1ヶ所しか出入りに使えるところがない。「さくら、さくら」で着物を袖幕の様に使うのだが、本日は使ってない時の置き場がないという理由で3枚の内2枚をカット。正面のものだけ何とか使用。何時もは上中下と仕込んでいる桜の散り花も仕込むバトンがないのでセンターのみにした。

 緞帳はない様子と書いたが実はあった。何と2サスのすぐ後ろに緞帳があった。散り花は2サスのバトンに仕込んだので何とドン前から操作する事になってしまった。結局私の居るスペースもドン前で幕のリモコンを持ってきて、客から見える所で音を出したり、緞帳を開閉したり、と仲々経験できない事を経験させて頂いた。
 バトンは4本有ったのでサスがほぼ凡て(カットになった着物狙いは勿論カット)仕込めたので、Sもこれを幸いと思う事にした。きっともっと不幸な小屋があるに違いない。

 こんな不幸な小屋に何とあと2回も来なければ行けない。来週&再来週の月曜日は不幸の日!帰り際に劇場のスタッフに「See You Last Monday」とニッコリ言われた。彼らは悪い奴らじゃないんだけど、彼らに会いたくない訳じゃないけど、こんな小屋来たくねーーーー!!!!!

 何とか開演には間に合って、舞台が始まったらここでは受ける受ける!何でこんなに受けるんだろう?と思う位受けた。拍手、笑いとも作者が狙った通りに嵌っていた。イヤー気持ちいい!

 ホテルについて呑めないかも知れない筈だったビールもバーで3杯呑む事が出来て幸せ、亀のご加護に感謝。シャワーを浴びる事もなく泥の様に寝た。

 明日は今日よりグッと短いたった380kmの移動。2日で約900km!
 蜘蛛は糸を出しつつ飛んでいくのであった。

客席上手側から下手側を見るの図。
これだけでも変形の様子がありありと解る。
客席から舞台を見たの図。

上手側の少しめくれた袖幕の後ろが
すぐ壁なのが見える。

緞帳も何にも無さそうでしょ。
私のスペース。

左側の臙脂色の幕が緞帳、そして私が背にするか方向が客席。

足下に転がる大きめのリモコンが緞帳開閉のリモコン。

音響ラックの手前に降りてきている細い白いひもを引くと花が散る様になっている。
人の不幸を笑いにやってきたS 。
尤も彼はもっと不幸である。

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10/01

 秋の気配漂う10月になりました。そして此処独逸には、あちらこちらの小さなホールに日本からジャズダンスの一行が素晴らしい舞台を届けにやってきました。

 380q南下してやってきたのは、フランクフルトの南東の小さな街Rougauに有るNieder-RodenのBurgerhaus。
 小さい!天井低い!小さな街の公民館やコミュニティーセンターの様な会場だった。不幸は続くよ、何処までも!殉教の者に神は更なる試練を与えるのであった。今の処舞台の狭さ、天井の低さ、客席の狭さなどに置いて今回のTourbP!!
 然し昨日よりは、袖中のスペースはあるし、ダンサーの出入りはし易いかな?私も緞帳と客席の間で仕事する必要はないし、ピーターもジャスミンも「昨日よりはマシ!」と言うし、そう思ってお仕事させて頂こう。

 本日使用不能、と云う事で前からの明かりは無し。それでもSは、この狭い小屋でもちゃんとサスは4本仕込んだ。勿論バトンの幅や、巻き取り式のバトンなので吊り上げられる重量に限界があり、相当数のスポットをカットせざるを得なかったので有るが。イヤー照明大変!

 私は、上手のスペースに卓を組んでそこから手を伸ばして緞帳を操作した。本日緞帳は手引きでした!「さくら さくら」の開演は忙しかった!緞帳を開けながら照明Cueを出し、散り花を振らせつつ、音を出す!千手観音の様な姿に見えたに違いない。

 さて本日は、市長の挨拶が2分有って、その後開演。だったがそこは矢張り市長、何処でもお話好きなんだろうね、あまり受けているとは思えなかったが7分ほどスピーチした。こういった催し物は街のコミュニティーの主催で街の人の楽しみなんだろうなあ。

 狭い舞台の中をダンサーは、暴れまくった!大変受けも良かった。
 助走する広さがない中でよくアクロバットをやるものである。本当に感心してしまう。舞台から落ちるギリギリで着地していた。一歩間違えば着地は客席の中であったろう。又数人が横に並ぶ場面では、両端の人は、SSに触りそうであったが、何とか切り抜けた様だ。私たちのせいじゃないけど、ご迷惑をお掛けしております!

 仕込み・バラシのお手伝いに来てくれた方々は、まるで親子劇場の仕事に行った時に手伝いに来てくれる力持ちのお父さん達の様で、親しみを持てた。でももう少しプロらしい方に来て頂きたかった。本当にいい人達だったんだけどね。

 明日はきっともっと使いやすい劇場に行く事だろう!
 でなきゃ嫌だ!

 明日は270qの移動。午後1時にならないと劇場には誰も来ないと云う事で、のんびり9時半出発!ヤッタネ!(仕込みは間に合うんだろうか・・・・・・?)

左上がホールの駐車場入り口からホールを見た所。とても劇場があるとは思えない。

上の右は劇場の入り口。何となく公民館ぽいでしょ。ドアに貼られたポスターからも結構催し物が多い事が判る。

駐車場の道を挟んだ反対側。のどかな風景が広がっている。
客席から舞台を望む。
下手側の黒幕が捲られて明るい所が搬入口。
舞台から客席を見るの図。
狭い!天井低い!の様子がよく判る。

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