捌月弐拾陸日
本日、初日!
 本当に目出度い!苦節5年、苦労に苦労を重ねた3年後に思いも寄らぬ疫病(SARS)の蔓延により断腸の思いで北京公演を延期、それから忍び難きを忍び堪えてきた幾星霜、資金を工面する為に堪えた日々。劇団の制作担当者や代表の思いは如何程で有ろうや?そして日本全国を周りながらこの日の為に研究し、酒を酌み交わして議論を重ねてきた役者たちの胸中に去来する物は何であろう也?そんなみんなの熱き心に感動した拙者は詩を作った。我慢して、忍耐でご鑑賞願いたい。

 欲客至
     幾星霜臥薪嘗胆    木偶団日々節電    演者続研究鍛錬   夜毎騒酒池肉林
     舎南舎北皆夏水    但夢群客日々来    蓬門今始為客開   持喜呼取盡余杯

 一寸(約半分)杜甫が入っている様にも見えるがご容赦願いたい。

 今日からは、遅い日もあれば早い日もあるが一応朝劇場に入って夜帰るという割と普通の生活になる。さて良い芝居をやって、北京の人に喜んで頂きたいものだ。そしてうまい酒を酌み交わしたいものだなあ。それでは初日!行って参ります。


 と言っておきながら本番までまだ少々有るのでチョイとおつきあい下さい。

 午前の稽古の為に劇場に入って、電源を入れたらまたもやプロジェクターがご機嫌斜め。1時間近く掛けて何とかしたが、本番が心配。頼むぜプロジェクター!僕たちはみんな君に期待しているぜ。

 昼食を終えて、玉帝様の散歩にお供して(玉帝様にお供して頂いて、玉帝を引き連れて、お好きなようにお読み下さい)ホテルまで遠回りして帰った。途中、公園でお茶目な玉帝様はカメラの前でポーズを取ったり、お土産を買う私の通訳をしてくれたりで、有り難うございました。
看板の前で記念撮影。 中国風に書くと私たちの名前や仕事はこうなります。

昼食で食べたお肉。
写真では判らないが、箸で持った肉は下の白い器の
炎に炙って食べる。辛くて美味い!

公園の柳でポーズを取るお茶目な玉帝様。
公園の池に浮かべられた蓮の葉で作った舟。
中国の方は、御先祖の霊をこういう形で黄泉の国へ戻す。日本の精霊流しみたいなもの




、だと思うんだけどなあ。


 初日です。結果から謂えば可成り受けました。
 中国の客席は騒がしい!本当に騒がしい!
 然し侮ってはいかん、ちゃんと見ている。恐ろしい!でも今回はそれが良い方向に働いた、と思う。

 心配していた事は、矢張り起こったりするものでプロジェクターが途中でハイになった。やってくれました、いきなり画像が上に移動して字幕の上部が切れてしまった。混世魔王のシーンが始まる頃であった。だからきっと彼が悪い。「全く混映魔王め!」と思いながら舞台裏にプロジェクターのリモコンを持って走り、舞台奥中央の割幕から調整したがリモコン受け付けず!因みに本番中に舞台中央から客席を見たのは初めての経験であった。多分、私の身体は勿論、手も目も観客からは見えていないと思う。それは兎も角、仕様がないので客席のブースに戻り、文字がでない所(黒身)を待って、コンバーターをリセットした。暫くは文字は小さいままだが暫くして予定通り文字は横に広がった。然しこれが抑も変だ。何で何の操作もしていないのに投影サイズが変わるのだろうか?謎は謎の儘であったが、何とか終演まで持ったので由としよう。
 明日からはこの手のトラブルの時は、裏に行って何とか使用と思わず黒身になった隙を見てリセットする事、更に不振な動きが頻繁になった時には字幕を消す事を決めて、関係各位に通達し了解を得た。
 字幕のトラブルのお陰で字幕がなくても観客には何とか台詞が理解して貰えている事が判った。まあ不幸中の幸い、出会ってみて始めて分かる事実といえるかも知れない。

 トラブルはさておき、全体的には受けた。本当に受けた。
 みんなの結論の一つ
      「中国の悟空人気は凄い!」
 それが先ず基本にはある、が矢張りそれ以外にも受けている。

 先ず?斗雲!飛び道具は間違いなく受ける。只日本と違う所はストレートに飛んだ方が受けが良いみたい。日本ではどちらかというと大きなカーブを描いて飛んで行って悟空の手に収まった方が受けるような気がするが、此方は真っ直ぐ飛んだ時の方が拍手は大きい。
 そして日本全国大方そうであるが矢張り中国でも3回目(海の底に?斗雲を呼ぶ所)、では「オーイ?斗雲!」と悟空が叫ぶと子供は後ろを見る。

 中国の劇的要素(型)では、決まった瞬間拍手が来て、日本よりも遙かに多い。

 又この劇場で2時間を超えるものを上演するのは「石の馬」以来らしく、観に来た子供にとっては大変な事なのに最後まで居てくれた、しかも9時40分過ぎまで。これは大変な事らしい。「詰まらなければ子どもたちは帰る。」 と劇場の人に言われた。実際に最後の「?斗雲の唄」を見ても、カーテンコールを見ても受けているのはよく判るのだが、そんな時間まで子供が帰らず、眠らず居たのは大変好評な証拠らしい。

 プロジェクターのご機嫌斜めを除けば(あと役者自身には、ま、色々あるだろうけど)大変好調な滑り出しであった。
左上:木偶劇団の団員方から頂いたお花。
   とその前で中途半端なポーズの玉帝様。

右上:開演前のご挨拶、と言うか前説と言うか。
   キャラクターショーのお姉さんの役割をする人。
   話している内容はお姉さんとほぼ一緒。
   子供達「ハーイ」と元気よく素直に答えていた。

左:終演後、北京の木偶劇場では抽選会がある。
   悟空事エンタツがむすび座を代表して箱の中
   から札を引いていた。




観客用トイレの表示!
“WASHROOM”というのは始めて見た表示。
「お手洗い」日本でも洗うって言うけどさあ、
英語で本当にこう言うのだろうか?謎。
楽屋です。
「化粧室:TOILET ROOM」
とドアには書いてありますが、
楽屋です。衣装が見えます。
けして虐げられてる訳ではありません。
中にトイレとして使う為の機構はありません。



初日が終了して一寸ホッとした空気の漂う夕食。
でも和気藹々としながらも演技や道具での表現に
ついての反省や意見が出ていた。
本日のオマケ。
下手3階にある綱場。
ドイツでよく見たロックの方式である。


初日の好評を祝して「水簾洞の唄」をお楽しみ下さい。

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捌月弐拾質日

 本日は8時に劇場入りして、10時30分開演。昨日は、(開演する為の)全く仕込み直し(準備)が出来なかったので結構時間的にきつかった。

 そして本日最大の問題は、『悟空(エンタツ)の咽』であった。
 日本に比べると可成り乾いた空気と慣れない土地での慣れないスケジュールの為に、もしかしたら若干の宴の多さと呑み過ぎもあったかも知れないが咽が潰れてしまった。開演前に中国四千年の秘薬・秘術を求めて譚さんに連れられ病院に行った。多分一寸効いた。でも午前の部終了後舞台前の台詞拾い用マイク(Pcc-160)を舞台奥、つまり役者に近付くように2尺移動した。
 そして五行山の場面では、悟空の声を拾えるマイクが殆ど無いので持ち出せるマイクを追加した。
 更に午後のステージの2幕からはエンタツにワイヤレスマイクを付けた。このマイクのコントロールは、北京木偶劇団の魏(wei)さんが担当した。結構適切であった。
 そして終演後再び明日の為に病院に行った。依って明日は多分大丈夫!今日は禁酒禁煙を守っているはずだし、明日には回復して居るであろう。

 昨日からの申し送りというか懸案というかプロジェクターは「大変安定していた。」
 と報告できると良いな思いながら劇場に入ったが、矢張りそんなに生易しくはなかった。
 劇場に入って電源を入れてからは結構長い間何の異常も出ず、本来有るべき状態を保っていた。然し昨日のような事があると何時以上が出るとも知れず出るんなら早く予定通りの異常が出てくれた方が気も休まるというものである。此方が痺れを切らしてプロジェクターのズームをいじったら暫くしてやっと(何とも変だが)期待通りの異常が出て、文字が突然大きくなった。異常作動を期待するのも変な話だがそう来なければいけない。午前の舞台はこのまま安定していて大丈夫(?)だった。然し午後は矢張り混世魔王のシーン辺りで文字が上に移動して上が切れてしまった。今回は騒ぐことなく文字が無くなった所でコンバーターのリセットボタンを押して、初期状態にした。程なく勝手に文字が大きくなってOK(?)となった。これで最後まで言ってくれたのでまあ良しとしよう。

 天津市からは天津木偶劇団が全劇団員揃って観に来てくれた。聞けば高速道路で1時間位の距離だそうだがそれにしても全員とは驚きである。むすび座の人形劇に対する期待の高さが窺い知れる。

 芝居自体は好評である。明日までに悟空(エンタツ)の咽は治っているのだろうか?中国四千年の秘技秘薬に祈るばかりである事だなあ。

 ここで報告を一つ。
 芝居に対するクレームは劇団には来ていないようであるが、私と渡辺さん(通訳・字幕担当)の後ろで観ていた親子のお父さんがクレームを付けてきた。彼は本番中はよく笑い実に楽しそうに観ていたので渡辺さんに話しかけてきた時は、普通に感想を言っているのかと思ったが、感想は感想でもクレームであった。
 天上界を一度飛び出して再び太白金星に天上界に呼び戻される場面の悟空の台詞に
 「男が昔の事に何時までも拘っていてはいけない」
 と言うのがあるが、その父親は「抗日戦争の責任を果たしていない日本人が言うべき言葉ではない。」と言ったような内容のクレームを言った。そんな見方もあるのか、とも思うが基本的に私には気にし過ぎだし、クレームを付ける所を探して芝居を観ているような人にも思える。突っ込もうと思えば「武器がいる!」だって何処だってもっと突っ込めるのになあ、とも思う。ま、人それぞれか。

 夕食は張さんの招待で中国の西の方の料理を頂いた。
 張さんは、中国木偶芸術劇団で美術を担当していた方で今はリタイヤして主に絵を画いている、との事である。大変良い方なのだが75度もあるお酒を呑め呑めと進めるのが唯一の欠点というか、怖い所。お店は張さんの昔の生徒(弟子?)が経営するレストランで麺を延ばしたり削ったりするパフォーマンスも見せたりする。席が2つに分かれてしまったのが少し残念であったが、張さんが居ない方の席になった私は75度のお酒を一杯呑むだけですんだのは幸いと言うべきか。

 明日はいよいよ楽日だよーん。悟空(エンタツ)の喉は如何に?
木偶劇場の会場係のお姉さん。衣装が可愛い。
昼食は、吉野家の牛&鳥丼。


これがトイレの前にある問題のブレーカー。
閻さんの奥さんからいただいた桃。


天津木偶劇団からいただいたお花。

上は木偶劇場のチケットOffice。

左は劇場入り口付近になったポスター。
イギリスなどからも人形劇が来ている。
私は此方に来てから(劇団は日本を出る一寸前に)知ったが今回の招聘は国際人形劇フェスティバルの一環であった。

張さんご招待の得た下の料理。

左上は兎さん。右上は家鴨。左は、鳥の足(足の先だけ)

みんな美味しかったが、鳥の足は見た目はそうでもないがとても辛くて唇が腫れそうになった。
此方は私は入らなかった方の部屋。酒ばかり呑んでいる為か、私たちのテーブルに比べて料理が進んでない。




ここから下は木偶劇場にあった演目のポスター。
さて日本名は何でしょうか。
上左:「オズの魔法使い」                    上右:「白鳥の湖」
下左:「ピノキオ」                      下右:「人魚姫」
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捌月弐拾捌日
 さていよいよ楽日である。楽日が来てしまえば呆気ない程短い日々であった。

 問題の悟空(エンタツ)の喉は、昨日の点滴と今日の治療で少しは戻っていた。病院から劇場に入った悟空(エンタツ)に喉の長之を聞いたら「もう大丈夫!すっかり直った!」と言っていたが譚さんが後ろから「全然駄目!」と言っていた(通訳渡辺さん談)。昨日よりはマシ、とはいえ案の定午前のステージの1幕終了まで持たなかった、ま、ワイヤレスを使わせて頂いているので全く問題はなかったが。
 然しまあ悟空(エンタツ)君、今後は少し身体に注意し節制するようにね。

 プロジェクターは午前は問題なし、勝手に文字が大きくなったままそれ以上おかしくはならなかった。午後では矢張り混世魔王の辺りで文字が勝手に上にずれて上場が映写範囲から出てしまった。またもや黒身の処でリセットを掛けて、逃げた。

 芝居自体は大変好評だそうで(実際に客席は可成り受けていた)色々あったが大成功であったといえるであろう。今回よっく判ったことは“孫悟空は子どもたちの最高のヒーローである”ということだ。悟空が客席に行くともう子どもたちはみんな手を伸ばして触りたがるし、大喜びであった。街のあちこちにも悟空のキャラクターはいる。“悟空は中国の永遠のヒーロー”なのであった。

 終演後はすぐにバラシで6時半頃にはバラシも終わり、一旦ホテルに戻り、シャワーの後夕食。今夜は譚さんの弟さんが経営するレストランで羊尽くしであった。この弟・譚さんは大変な酒勧め上手でみんなしこたま呑まされたが、聞く所に由ると私たちがレストランに着く前に接待があり250ccほど既に呑んでいたので今夜は温和しかったらしい。恐ろしいことである。
 楽日も何とか無事(?)終了と云う事で役者のみんなも緊張から解放されたのかよく呑んだ。若干名が泥酔状態になり、若干名は感激の涙が止まらなかった。嗚呼青春!素晴らしき青春!

 2次会にはカラオケに行った。私はカラオケ嫌いなので行くつもりはなかったのだが、1名を部屋に届け他の遭難者を救出に1階に戻った処、何となく行くことになってしまった。宿泊しているホテルの2階のカラオケやに行ったが、日本語の唄が殆ど無く、日本語の唄もみんなが知らないものばかりで、中国語の字幕を観ても歌えないし、と言う訳で通訳の渡辺さんと譚さんの独壇場であった。が、途中から日本語の歌詞を観ながら知らない唄をカラオケの伴奏に合わせて適当に歌うという遊びが開発されたので、口から出任せで歌った。これは大変いい手で元々誰も知らない唄なのでメロディーを間違えても何の問題もない。と言うか最初から全く出鱈目のメロディーを歌っているので気楽であった。

譚さんが悟空(エンタツ)のために
買ってきてくれた加湿器。
何となくペンギンぽい。
此方も悟空(エンタツ)のために
買ってきてくれた喉に効くお茶。

木偶劇場の音響技術の魏さん
大変お世話になりました。有り難う!

※YAMAHA様
 中国木偶芸術劇団の音響技術の魏さんからの
 お願いです。
 『DM2000の中国語マニュアルを是非とも作って下さい。大変困っています。これから中国はもっと発展して、YAMAHAさんからもいっぱい製品を買うと思います。その時中国語マニュアルがないとみんな買ってくれません。是非とも中国語マニュアルを早急に作って下さい。宜しくお願い致します。』
最後は全員に花束が贈られた。
みんな、感謝するんだよ。




捌月弐拾玖日
 本日は9時に劇場に行き日通さんに荷物を渡し、日本へ送る手筈を取った。

 10時頃劇場を出てチョイと観光。張さんと譚さんに京劇の飾りや小道具、楽器などを売っている店に連れて行って貰った。店は一軒では無く、その通りには何軒ものお店が有り、目的の店に無ければ、すぐ隣に、又無ければその隣に探しに行けるようだった。
 その後繁華街などに行って、みんなはバスで戻ったが私は地下鉄に乗ってみたくて、地下鉄で帰った。3元均一料金で、チケットブースでチケットを買い、ホームに降りる階段でもぎって貰い電車に乗る。チケット販売ももぎりも凡て人海戦術で機械化は全くされていない。ホームには両方向の列車が入ってきてどちらにも乗れるので、反対ホームに降りて悔しい思いをすることはないようだ。(自慢することではないが)今回はミュンヘンの時と違いちゃんとお金を払って乗った。
上は梱包の様子。あの様にラップして、箱詰めにされる。


左は、輸送用の箱に見つけたお茶目の張り紙。
この通りに来れば、頭飾り、武器、楽器、何というかは忘れたが斉天大聖の頭の羽など京劇に使うものは大体揃う。


下左は、猪八戒が持っている武器。買ってご満悦の玉帝様だが、果たして持って帰られるのか?

下右は八戒の被り物。仲々よくお似合いである。
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