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V o i c e  C l i p





▼ないしょはキミの匂い


──ボイスドラマ──



教室の隅に貼られた小さな写真。

ボクの耳元で悪戯っぽく囁くキミは、
今もそうやって話してくれるかな?

     ※ ※ ※

「あたしんち、引っ越しするんだ」

キミがふいに立ち止まった階段の踊り場。
少し淋しそうな笑顔と突然の告白。

「え?」

ボクは夏の強い陽射しに目を細める。

これからも、どこまでも、
ずっと続いてくって信じてた二人――

「でもさ、お前がいなくなると、
 ミクちゃんも彩香(あやか)もつまらながるぞ」
「うん。でもしょうがないよ…」
「…それに、颯太(そうた)も陽介(ようすけ)も
 からかう奴がいなくなるって残念がるよ」
「うん。ごめんね…」

音楽室から誰かが弾くピアノの練習曲が聴こえてくる。

うつむく横顔。
ふざけすぎた毎日――

黒板のいたずら書き
髪を切った日
ポケットの手紙
すり傷だらけのひざっこぞう
フルーツ牛乳にヤキソバパン
忍び込んだ夜のプール
欠けた消しゴム
台風の日のステージ
背伸びした下駄箱
屋上の青空…。

「泣いてるの?」
「泣いてるわけ…ないじゃん!」
「あたしだって泣いてなんか…ないもん」
「まだ聞いてないだろ…」

そしてキミは一人、
長い渡り廊下をかけ抜けていく。

そのあとをボクのかすれ声だけが追いかける。


「オレも淋しがる…」

     ※ ※ ※

新学期、
教室にキミの姿はなかった。

「これからもずっと変わらないで…
 いられたらいいのにね」

キミの最後の言葉。

どうしようもない距離と時間。

みんないつかは変わっていってしまうというけど…。

でも、もしももう一度、逢えることがあったら、
今度はボクもキミの耳元で伝えたいことがあるんだ。


ボクは 今も キミが 好きだよ――



※解 説
語りの内容は物語と大きく関係しています。演出で全体的にモノラルっぽい音質にしてあります。




原作:Natural-Rain
音楽:神馬 譲
語り:夜岬杞憂

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