論文 「資本主義と刑務所再考」

◆現在の刑務所問題

 スーパーマックス刑務所の増加や、いわゆる「ロボプリズン」(ロボット管理の刑務所)の開発、あるいは執行猶予者や仮釈放者に対する「ハイテク矯正」の採用等にもかかわらず、現在米の刑務所問題は、経済的、政治的原因のため、急速に危機へ向かっている。
 現在の大量な服役人口は、ここ25年間各地で進行している産業空洞化と、それが、とりわけマイノリティに与える社会的、経済的混乱の結果である。1930年代から1980年代まで見られた失業と服役人口との直接的関係は変貌した。現在刑務所が賃金労働者予備軍の大群を長期にわたって収監しているため、表に現われる失業率が低くなっているのである。これは、過去の研究者が予期しなかった展開である。私が1983年の本で、「米の刑務所問題は悪化するのみである」と書いたとき、現在のような最高度に精密化した収監抑圧機構を予期していなかった。
 刑務所危機はすでに始まっている。最近の諸徴候から見ると、ここ20年間回避できてきた資本主義的慢性不況が再び姿を現したようである。この不況は、過去において資本主義経済の縮小期にそうであったように、大量の新囚人を生み出すだろう。しかしその新囚人を収監する施設はもう満杯寸前なのだ。大量収監や矯正統制事業に要する費用はすでに莫大なものとなっており、その維持すら危ういのだ。刑務所の建設、維持、運営にハイテクなどを利用して費用節約に努力しているが、それでも経済コストは莫大なものである。経済が縮小、税収が減、連邦・州政府もますます赤字地獄へとはまり込んでゆく。すでに刑務所は予算減の対象となっている。過去20年間、多額の費用をかけた刑務所政策によって抑えられていた刑務所危機が今始まろうとしている 。
 皮肉なことに、スーパーマックス刑務所が真っ先に削減されるだろう。大量の囚人を集中的に隔離監禁状態に置くためにかかる費用は、一般の最大限の警備体制を完備した収監よりもはるかに大きいからである。スーパーマックスの廃止だけでも刑務所反乱の火花をまくことになる。何しろ「トラブルメーカー」たちを一般囚人のもとに戻すことになるのだから。そうなれば再び抗議や抵抗の波が広がるだろう。長い間沈黙を強いられてきた囚人たちの声が叫び出すだろう。1971年アッティカで宣言された「被抑圧者の怒りの前の響き」が反響するだろう。

◆今何をなすべきか

 30年前、国家権力と闘ったアッティカの囚人たちは、米国の良心的な人々に支援を呼びかけた。30年前の呼びかけは今も続いている。囚人を支援するために多くのことができる。
 刑務所改革は重要な政治的問題で、左派は可能な限り囚人たちと繋がりをもつべきだ。囚人たちが何故自分が檻の中にいるのかを理解し、檻の外に自分たちを助けようとしている人々がいることを認識することが重要で、そのような理解と認識が育つように働きかけるべきだ。スーパーマックス囚人の非人間的隔離状態を打破するために一致した法的行動が必要だ。我々は現在闘われているスーパーマックス収監への訴訟を支援し、そういう刑務所を作って涼しい顔をしている州政府に対しても行動を起こすべきだ。スーパーマックス打破は、単に個々の囚人を極度の抑圧状態から救い出すばかりでなく、刑務所制度への直接的な打撃にもなる。
 スーパーマックスや他の刑務所の非人間的所業に対する法廷闘争のために、その資金と組織作りをする刑務所改革プロジェクトを設置しよう。このプロジェクトには、刑務所制度から最もひどい打撃を受けているコミュニティ、とりわけ黒人とラテン系コミュニティの参加が欠かせないし、囚人たちの人間的再建を援助する事業―スーパーマックスを作り出した権力は、スーパーマックスが破壊したものを修復することは一切しない―も含むべきだ。各地の刑務所改革プロジェクトは、すでにある各地域、州、連邦刑務所の改革グループと手を組み、共闘する。インターネットで調べればすでにそういうグループが活動していることが分かる。そういう人々の経験を共有し、協力すれば、運動全体が強化される。
 しかし、刑務所改革運動は、常に左派革命的視点で行うべきである―運動の中では、資本主義および刑務所と、労働者階級、とりわけマイノリティへの破壊的影響の、構造的関係を強調しなければならない。刑務所制度で抑圧されている者にとって本当に希望の光となるのは、この社会変革を目指す左派の意識だろう。この点に関してジョージ・ジャクソンが貴重な体験談を語っている。彼は自伝の中で、「若い頃ぐれて犯罪者メンタリティに陥り、警察の厄介になり、軽い刑にしてやるから罪を認めよという司法取引の申し出を受けた。ところが判決では1年から終身という刑を宣告された」と書いている。

 あれは1960年だった。当時18歳で、それ以来ずっとここ刑務所暮らしだ。刑務所の中で、マルクス、エンゲルス、トロツキー、毛沢東と出会った。それが大きな救いだった。最初の4年間は経済学と戦争論の本ばかり読んだ。黒人ゲリラ兵士のジョージ・「ビッグ・ジェイク」・ルイスや、W.L.ノーレン、ビル・クリスマス、トニー・ギブソン、その他多くの活動家との出会いもあった。私たちは黒人を、犯罪者メンタリティから黒人革命家メンタリティへ変えようと活動した。

 この自伝の締めくくりに、かつてジャクソンの刑務所問題を左派の立場から見ることに抵抗していた囚人仲間が、ジャクソンに書いてよこしたメモを載せている。

 寒くて寂しい冬があったから、暖かく輝く春があるのだ。逆境が私の心を強くし、鋼鉄に変えた!人民に権力を!

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