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事務局から
◇反原発をめぐるすれ違いについて

 昨年、知人と原発問題について話す機会がありました。知人は理工学部出身で反原発の立場ですが、低線量被曝については、過剰に恐れるべきではない、との意見を持っています。たしかに、低線量被曝による健康被害については、学識者の中でも諸説あり、結論の分かれるところです。
 知人は「福島から離れた安全なところにいる者が、福島は危険だから避難すべきだとか、福島産の農産物を食べるなとか、何様のつもりだ」と息巻いていました。直接の被害者の状況を省みることなく、独断的な結論を押しつけることに反撥する気持ちは、よく分かります。
 これまで原発の電気を享受してきた者が、逃げるに逃げられない人たちをさらに苦しめ、差別するような風潮を形成してしまいかねない危険性を孕んでいるからです。
 しかし、低線量被曝による健康被害を「デマ」とまで言い出したのには、さすがに賛成できませんでした。これでは、知人が批判する当の人々と同じ独断です。少なくとも結論未定の状態を認めるべきだ、繰り返し説得しましたが、徒労でした。
 もちろん、低線量被曝による健康被害を重視する立場でも、現場に即して活動や調査をしている人々は、知人が問題にするような独断とは無縁です。むしろ、科学的な結論を踏まえつつ、当事者が置かれた社会的状況を加味し、所与の条件の中でどうすれば放射能による健康被害から身を守れるのか、具体策を提案しています。避難すべきだとか、福島で農業をすべきでないとか、一方的に主張してなどいないことは、少し注意深く見れば明らかです。
 新聞やテレビではあまり目にしませんが、現実には、こうした議論のすれ違いが、そこかしこで発生しているのではないでしょうか。
 双方とも「敵」は原発であり、電力会社、官僚、政治家を批判している点では共通です。なぜ議論の土俵が設定できず、すれ違いが生じるのか。よくあることと言えば、それまでですが、もどかしさを感じるところです。(山口)


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