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活動紹介―NPO「関西仕事づくりセンター」

仕事を通じた協同・連帯の再生を

去る7月13日、大阪府立労働会館に約60名が集まり、特定非営利活動法人(NPO)関西仕事づくりセンターの設立総会が行われた。新自由主義の浸透に伴って社会的格差がますます広がるとともに、派遣や請負いなど非正規雇用の拡大の中で露骨な搾取が横行し、働く者の尊厳が奪われている今日。資本に雇われるだけでなく、自ら「仕事づくり」を通じて新たな働き方、生き方を目指そうとする試みである。当研究所の前代表であり、同センターの理事でもある津林邦夫氏に、問題意識などを記してもらった。

「自力更生」を動機として

NPO「関西仕事づくりセンター」設立の動きは、「“ピンハネ”の無制限な拡大に風穴をあけたい」という管理職ユニオン・関西の思いと、「労働組合としても自らの力で仕事を創り出す試みを」という北大阪合同労組(北合同)の思いが「労働者供給事業」で一致したことから始まった。その背景に、今日の社会に横行する違法な派遣や偽装請負に対する労働組合としての危機感があったことは、言うまでもない。

ただし、北合同にとって「仕事づくり」や労働者供給事業が課題にのぼったのは、今回が初めてではない。もともと、事業経営も含めて地域に活動の基盤をつくりつつ変革を目指す「陣地戦」の一環という位置付けから「自力更生」の志向は強く、70年代初めの組合再建以降、それまでの運動の総括から「専従費は専従が働いて稼ぐ」ことが不文律になっていたこともあって、労働者供給事業の検討も何回か行われ、「仕事づくり」に着手しかけたこともあった。しかし、いずれも体制や力量の問題から具体化に至らず、あるいは具体化しても長続きしなかった。それだけに「今回こそ何とか」という思いもあったのだが、ここまで比較的順調に活動を進めてこられたのは、やはり現在の悪化する一方の雇用環境と、それを背景とした「仕事づくり」への共感や賛同の拡がりが大きかったと思う。

白紙からの出発

当初、私たちは「仕事づくり」の構想を二本建てで考えていた。一つは、急速に民間委託が進み、そのほとんどが偽装請負状態にある行政サービスへの参入を想定した労働者供給事業、もう一つは、北大阪商工協同組合に結集する経営・福祉事業などと提携した地域での「仕事づくり」である。このうち、まずは労働者供給事業について、すでに事業展開している連帯労組・関西生コン支部の協力や助言もいただきながら検討を開始した。とはいえ、全くの白紙から始めたため、労働者供給事業は「日雇い」が前提ということさえ、指摘されて初めて気がつく体たらくだったが、それでも半年ほど検討を続ける中で、例えば「行政は就労の印紙を発行できない」など、クリアーすべき課題や問題点も具体的に見えてきた。それらも踏まえ、何はともあれ具体化への一歩を踏み出そうと、全ての母体となるNPO「関西仕事づくりセンター」の設立を目指すことにしたのである。

将来の展開を睨み、設立趣意書に記す活動構想は、可能な限り間口を広くしておこうと考え、それまでの論議で出された案をほぼ網羅した。すなわち、「働く者、市民が協同して仕事・働く場を創り出すことを通じ、新たな協同・共生関係、地域社会、住民自治の活性化と発展に寄与すること」を目的に、そのための事業として、@業務の受託および会員に対する職業紹介、A職業能力の開発・訓練事業、B清掃、受付事務、監視など、公共サービスの受託事業、Cボランティアグループの支援や、地域のイベントなどの企画・運営、協力、D都市住民が農業を体験する場の提供、E子育て支援援助、F上記事項に関する情報提供事業、Gその他目的を達成するために必要な事業――を行うとした。要は、仕事や生活など、さまざまな困難を抱えた人々が集う「場」の形成を通じて、参加者が自ら仕事や働き方を決定し、運営していく力量が備わるのであり、それによってこそ、市民・住民と働く者が協同した「公共」や「自治」の創出も可能になる、という考えである。

今年に入って設立準備会を呼びかけ、野宿者問題に取り組む「釜ヶ崎パトロールの会(釜パト)」や北大阪商工協同組合から団体参加の申し出があったほか、多くの個人賛同・協力を得て、7月13日に設立総会を開くことができた。検討開始から1年あまり、ようやく「仕事づくり」の活動がスタートした段階である。8月には大阪府に法人の認可申請を提出し、遠からず認可が下りる予定だが、もちろん、法人化したからといって事業そのものが進むわけではない。この1〜2年は実績や経験を積み重ね、ともかくも事業基盤の確立に集中しようと考えている。

具体的な活動計画

●仕事づくり
 この点では、すでに今春から「予行演習」として着手し、総会後から本格的に取り組み始めた。これまでに取り組んだのは、関西よつ葉連絡会のチラシのポスティング、個人や事務所の引越し手伝い、よつ葉グループを構成する世羅協同農場、瀬戸田農場、北摂協同農場での農作業、ホームページの作製・管理、等々である。現状では、仕事の発注は当面、古くからつきあいのある北大阪商工協同組合の会員各社が中心となり、仕事を受託するのは北合同や管理職ユニオン・関西の組合員や野宿労働者を中心とする釜パトのメンバーである。いわば、広い意味での「仲間同士の助け合い」「ワークシェアリング」であり、ここで実績をつくりつつ、徐々に外部の仕事を引き受けたり、新規事業を開拓したりしていく予定だ。

考えてみれば、よつ葉グループにせよ北大阪商工協同組合にせよ、もともと社会運動の活動基盤の確保を念頭にして形成された事業活動が多く、その意味で私たちの「仕事づくり」と似通った問題意識を持っている。そうした経験や蓄積からの後押しがあって、私たちとしても予想以上に順調なスタートが切れたと思う。初年度の事業収入としては1000万円くらいの実績を目指しているが、事務局では「このペースで行くと、仕事の担い手が足りなくなる。一般への呼びかけも考えるべきでは」と、気の早い心配まで出ているほどだ。

●地域での「有償ボランティア」の組織化
 なにしろ白紙からの出発なので、労働運動の関係者や友人・知人などに問題意識を話し、『準備会ニュース』をつくって宣伝してきた。その甲斐があって、各方面から協力の申し出も寄せられつつある。例えば、旧知の小寺顕一さんたちが主宰しているまちづくりのNPO「タケミ」。ここでは、高齢化が進む大阪府吹田市の竹見台団地を舞台に、さまざまな技量を持つ住人が「安心のつながり」をつくるため、「有償ボランティア」で「地域の便利屋さん」を始めようと計画している。そこで、直ちに小寺さんに来ていただき、これまでの実績や今後の構想などについてお話を聞いた。こうしたまちづくりの活動は、現在も各地で多様な活動が展開されており、今後もその需要は増えていくはずだ。そうした動きとどのように絡んでいけるのか、問題意識の重なる部分も多く、ずいぶんヒントや教訓をいただいた。

また、兵庫県川西市で造園・園芸・エクステリア店を営む阪本弘美さんからは、「私の技術を教え、その人たちが自分でできるようになれば」との協力の申し出をいただいた。ちなみに、阪本さんには、自らの意思で理事にも就任していただいた。とくに園芸に関しては、すでに送迎などの仕事を受けているよつ葉グループの福祉ネットワークと組み合わせ、まずは条件のある大阪府豊中市で試行すべく、近々、関係者に呼びかけ、具体的な展開に向けた構想を話し合う予定である。

●将来の事業展開に向けた調査・研究
 これら当面の実践的課題と並んで、運営委員会レベルでは、行政サービスへの参入に向けた検討も開始した。大阪市や豊中市における民間委託事業の現状、入札資格などの調査、また私たちの側としては、労働者供給事業の申請や職業紹介資格申請の準備、などである。実際に入札に参加できるのは早くて2年後、まずは資格の不要な除草・清掃作業や事務関係の仕事を、と考えている。克服すべき課題も多いが、スタッフは「ピンハネしないのだから、入札では絶対に勝てるはず」といたって強気だ。釜パトからは「仲間がテント生活している公園の清掃や管理ができれば」との「夢」も出されている。「夢」を現実にすべく、着実に準備を進めていきたい。

新たな人間関係を模索して

以上、これまでの経過と当面の計画について大まかに報告したが、最後に、実際に始めてみて改めて実感したことをいくつか記しておきたい。

一つは、共感や賛同の拡がりである。全国的に見ると、「仕事づくり」では先駆的な役割を果たしてきた「労協センター」を中心とする運動が実を結び、今春には「協同労働の協同組合」の法制化に向けた議員連盟が発足するなど、全国各地で同様の試みが活性化している。そうした流れの一環として、私たちの取り組みも「時宜を得た」ものであり、相応の反応があると想定していた。実際、管理職ユニオン・関西の尽力でいくつかのマスコミに紹介されたこともあり、設立総会には60名を超える人々が集まり、その後も問い合わせが続くなど、予想外の反響をいただいた。

嬉しかったのは、「面白そうなことを始めたな。できることがあれば協力する」「子どもがニュースに興味を示していた」など、意外なところから関心が寄せられていることだ。すぐに結果に結びつかなくても、基盤づくりの重要な活動として、こうした声を丹念に拾い集め、結びつけていきたいと思っている。とりたてて資本も特別な技能もない私たちにとって、頼りにすべきは人と人との結びつき以外にないからだ。

加えて、思わぬ「副産物」もあった。大阪労働局が「一度、話を聞きたい」と連絡してきたのである。理由を尋ねると「派遣業者から二、三問い合わせがありまして…」とのこと。私たちが打ち出した「“ピンハネ”はしない」に危機感を持ち、「探り」を入れようとしたらしい。実際、今も派遣業者らしき問い合わせの電話が続いている。スタッフ一同、「悪徳ピンハネ業者に危機感を持たせただけでも、まずは作った甲斐があった」と、少しばかり溜飲を下げた次第だ。

それはともかく、人と人との結び付きについて言えば、仕事を通じて人間関係を形成することの重要性に関して、改めて思い知らされた。というのも、私はこの間、久しぶりに北合同の専従となり、労働相談に携わる中で、いまさらながら「人間関係の崩壊」を実感せざるを得なかったからだ。生産の海外移転で製造現場が激減したことやコンピュータ化の影響だろうが、北合同のような個人加盟の地域ユニオンに寄せられる相談で言えば、職場での労働者同士の連帯感など、皆無と言って過言ではない。誰もが孤立した作業を強いられ、その上にノルマや競争が課せられる。同じように酷い目に遭っていても、職場では相談できる関係もなく、悩みは一人で抱え込むしかない。追い詰められた結果として、自殺やうつ病が蔓延しているのも頷ける。まさに、「アソシエートする技・能力の衰退」を地で行く実態だ。

ピンハネや競争やノルマのない「仕事づくり」に向けた予想以上の期待は、間違いなく、こんな現実の反映である。実際、この間に行った仕事への参加者たちからは、「共に働くことの楽しさ」を挙げる感想が多く寄せられている。「協同」を掲げるからには当然とは言え、私たちは仕事そのものだけでなく、仕事を通じて形成される働く者同士の連帯感、仕事を頼む人と行う人との出会いや交流を大切にし、現代社会に支配的な人間関係を超えた、新たな人間関係を模索していきたいと考えている。そうした動きが各地で生まれ、さらに相互に結びついて拡がっていく……。名称に「関西」を被せたのは、そうした願いを込めてのことだ。

ともあれ、活動は始まったばかり、「夢」や「願い」は未だ「夢」や「願い」でしかない。しかし、私たちは確かに可能性を感じている。その実現に向けて着実に活動を積み重ね、元気で楽しいNPOにしていきたいと思っている。この場を借りて、多くの皆さんの「協同」を呼びかけたい。(津林邦夫:北大阪合同労働組合)


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