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アソシ研リレーエッセイ:意味のない仕事

家宅捜索に来た刑事の着メロが、映画「ミッション・インポシブル」のテーマ曲だったという前号本欄の話は笑えました。その刑事は、直訳すると「達成不可能な作戦」となるこの曲を、使命の達成に向けてテンションをあげるために選曲したに違いありません。もし、この言葉が英語のニュアンスとしては「やりきれない仕事」「うかない仕事」「やる意味のない仕事」だと知ったら、さぞや落胆することでしょう。

そんなニュアンスがあるとは私も知りませんでしたが、その「意味のない仕事」に付き合わされたことはあります。学生の頃、たまたまいた事務所に押しかけて来ました。住所を聞くので「ここだ」と答えました。当時はバッグ一つが全財産で、そのときいる所が住所でした。すると「ふざけるな! 住所を言え」と怒鳴るのです。公僕のくせに。事務所の番地など覚えてないので、「言え」「ここだ」と無意味な押し問答を続けました。やがてしびれをきらせた彼はバッグをかき回し(当時流行が終りかけていた「MADISON SQUARE GARDEN」と書かれたパチモンでした)、中からその事務所の発行物(確かにそこには住所が書かれています)を押収して帰っていきました。こんな意味のない仕事でメシが食える人が世の中にはいるのです。

それはさておきミッション・インポシブルです。「ミッション・インポシブルは、警察官の仕事だけではなく、全ての仕事に常につきまとっています」というのが前号の指摘でした。しかし、それが充満している現代にあっても、人は「自分にとって妥協できない何かを持っている」のだと。

自分の問題は棚に上げておいて、「意味のない仕事」の話を続けます。最近そのような仕事の充満ぶりを実感したのは、なんといっても7月に北海道洞爺湖で行われたG8サミットでした。期間中、街のあちこちに私の倍はメシを食いそうな警察官が意味もなく突っ立っていました。安心・安全をうたい文句にすれば治安優先政策がまかり通り、本当に必要なのか疑問な警察や官僚の仕事は増えるばかりです。G8で浪費された600億円のうち約半分が警備費用だそうです。「おにぎりが食べたい」と書き残して餓死する人がいるというのに。

戦争もまた主権国家間の戦闘から「高強度の警察行動」(ネグリ/ハート)に性格をシフトさせながら、膨大な「意味のない仕事」をつぎ込みつつ継続されています。「警察行動」の対象にされた多くの人々と、経済的な理由で米軍に入隊した貧困層の若者を無意味な死に追いやりながら。

身近なところにも無くなったほうが人類のためだと思われる仕事はたくさんあります。電話セールス、マルチ商法、原子力産業、それらの宣伝をする広告業者、そうした企業のために働く弁護士、もともとお金の増殖にしか興味のない金融業者etc.。

自分に妥協せずに言えば、こうした類の仕事はすべて撲滅すべきだ、となるのですが、正面からいくと撲滅されるだけだと理解できる歳になって、さて、ではどうしたものかと言いながら、もうずいぶんになります。(下村俊彦:関西よつ葉連絡会事務局)


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