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市民環境研究所から

地域の農業に探した卒論のテーマ


 3月の終わりから続いた寒さは、今日4月28日になって、やっと終わったかなと思える明るく暖かい日になった。巷では野菜の高騰が大問題で、キャベツ4分の1個が100円以上である。当分は野菜の高値は回復しそうにない。亀岡の畑に植えていたジャガイモの苗は24日の夜の晩霜ですべてやられて褐色になっていた。

 その亀岡にある京都学園大学に新たな学部を設立する作業に参加し、設置準備の2年間と設立後の4年間を過ごし、この3月に第1期生を卒業させ、筆者自身も定年となり、彼らとともに亀岡を離れたことはこの欄の2月号で書いた。卒業生が飛び込んで行った社会は、まさに厳寒の経済状況下である。多くの学生が就職も定まらないままの巣立ちであり、そのことに関してはなにもしてやれない不甲斐なさを痛感しての別れであった。

 彼らはどのような毎日を送っているのだろうかと思いながら4月が終わった。就活に明け暮れていた彼らは卒業研究をする暇などなく、野外の研究課題を掲げながら、手を付けられたのは晩秋も近い頃からである。春夏秋冬を通して観測すべき課題だが、できたのは晩秋から冬の初めまでのわずかな期間の観測だけだった。他の同級生も似たり寄ったりの状況で、卒論研究検討会では毎回、声を荒げての指導であった。

 そしてなんとか卒論らしきものを書き上げ、学部での発表会もなんとかこなしての卒業となったが、最後に彼らに送った餞(はなむけ)は、「卒論の中身は決して褒められるほどのものではないが、自分でそれぞれの卒論研究課題を探し出し、それを形にできたのだから自信をもって卒業してくれ」というものだった。

 他の研究室では、教員の研究課題の一部を卒論研究テーマにして与えるのが一般的である。しかし、1年しか卒論生を担当しない筆者は学生に課題を与えず、自分でテーマを探すように仕向けた。彼らはみごとに亀岡地方の農業の重要課題を卒論研究テーマとして掘り出して来た。亀岡は霧の発生頻度の高い地域であり、洗濯物が乾き難いので主婦層から嫌われていた。

 ある学生は、この地域の畜産牛に与える稲ワラの地域内自給がうまく行かない理由は稲ワラが乾きにくく、カビが大量に発生することにあると明らかにした。こんな地域の農業の中からテーマを自分で見つけ出してきたそのことを評価し、褒めてやりたいと思い、餞の言葉としたのである。

 亀岡地方には「柿の木の芽が出たら豆の種子を播け」とか、「柿の花が咲いたらゴボウの種子を播け」などの農業故事がある。こんな故事を集めて亀岡の環境と農業を描こうとした卒論生もいる。世の中の様子をしっかりと見て、立ち居振る舞いを決めよと教える農業故事を我がものとし、氷河期の社会でたくましく生きることを願う。

 いつか彼らと再会したいと思う。 

                                                                                   (市民環境研究所・石田紀郎)




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