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書評―『原生協=北摂・高槻生協五十五年史』


地域と生協、新たな役割を模索しつつ


 いきなり余談ですが、7年前、就職氷河期と言われる中、就活連敗記録を更新中だった僕は、たまたま新聞の折込チラシで高槻生協の職員募集を目にしました。生協はどこも同じで、町中に大きな配送センターがあってトラックが何台もあると思い込んで面接に向かった矢先、山、川、田畑に囲まれた高槻生協に気付かず、何回も生協の前を行ったり来たりした記憶があります。

 第一部、高槻生協の前身である「原生協のなりたち」では、故人や現在も現役でおられる原の人々の人生史、生活史が活きた言葉で綴られています。文面から、若かった彼女/彼らの汗の臭いすら感じさせるいきいきとした行動力や勤労ぶりに、文中に何度も出てくる「共産党」の影響があったことがわかります。戦後、全国で見られた共産党員による農民の組織化と原の協同組合運動が、高槻生協のルーツにあったということです。

 ただ、ぼくの不勉強も手伝って、このあたりの背景はわからない部分が多くあります。読んで感じたのは、一つの思想に人々が合意し、結集したというより、原という村特有の人間関係や村の相互扶助精神ともいえるようなものが人々を突き動かす原動力になったのではないかという点です。

 それは故・中谷絹子さんの「薮内先生と谷山一雄さん(原の組織者)は、もう一生懸命でしたねぇ。ほいで、やっぱしというか、難儀な人をたすけてくれはりましたね。それは何でしたか、それが私の頭のなかにはありましたね。ほいで、せぐりせぐり惹かれていったです」という言葉からも見受けられます。

 そうした背景のなかで組織された原山労や原生協という一集落の組織が「原は共産党」という偏見と軋轢を抱えながらも、村の外にも一定の影響力を保ったのは、市街地と近距離に位置する原の特性が大きく寄与したのではないでしょうか。

 「僕は(市内で力があった)高槻地区労に原山労が加盟したことの意義は大きいと思う。……自民党が弱かったのは、……僕らがこの農民運動をやってたときにいうたんは、高槻の農民は農民と違う人が多いと。つまり、湯浅電池の労働者とか、みな働きにいっている。そして村に帰ったら、そういう人が村の幹部になる。」(宇津木秀甫さん)

 「村から町へ」という生協の萌芽を、この第一部で知ることができます。しかしながら、高度経済成長に伴う一次産業衰退の波に原も同じように呑み込まれたのは、共産党がその後たどる道と不可分ではなかったのではないでしょうか。

 第二部「北摂・高槻生協のあゆみ」では、地域生協を取り巻く統合・合併の嵐が吹き荒れる現在の環境下で、未だ現存している高槻生協の成り立ちの歴史をみることができます。

 1985年の原生協再建に着手したころから始まった地場野菜の組合員や店舗への供給は、現在も行われています。いまでも営業に赴いた先では、地元の野菜が買えるということが組合員加入への動機づけに一役買っています。

 しかし、原や樫田といった高槻の生産地の認知には、世代によって少なからず差異があります。50代から上の世代は、「原」という場所のイメージを持っている方が比較的多いのですが、若い世代は原の場所すら知らない方もいます。その世代間の差異というのは、現在加入している組合員や私たち生協職員の「生活協同組合」に対する意識の差異としても、あてはめられると思います。

 第二部の各章では、高槻における、生協の流通活動以外のさまざまな人たちや市民運動、政治運動との連携やその蓄積が、高槻生協の掲げる「本来の生協」という立ち位置を明確にし、生協の屋台骨となってきたことが語られています。それらが結果として組合員加入を後押ししたり、生協の新たな事業展開へとつながっていったのではないでしょうか。

 高槻生協の古くからの組合員は食はもちろん、政治や地域の問題に対して関心の高い方が多く、また組合員の地域での幅広い関係性に驚かされ、僕を含めた若い職員が組合員から教わる場面が多々あります。そういうときにいつも、職員である自分が生協を単に売り買いの場として捉えていることに気付かされます。

 先日、本書の発刊記念会が原の公民館で催されました。そのときにお会いした原生協の再建に携わった方は「昔はみんな集まろういうたら、ようさん来たけど、すくなくなってきた。生協の理念を大切にしてほしい」とおっしゃっていました。

 今後、農業の後退や少子高齢化がさらに進行すれば、高槻生協が地域で果たす役割もまた、新たな局面を迎えるはずです。いままで生協が培ってきた経験や地域との関係を、次の世代がどう引き継ぎ、展開していくのか。本書は、たとえその一部分しか捕捉していなくても、私たちがここから学ぶものは大きいと思います。
                 (高木隆太:北摂・高槻生協職員)



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