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市民環境研究所から

「カナリヤのような感受性」が照らし出す現在

寒い春であった。五月晴れを楽しめないままに梅雨入り宣言がなされ、畑の野菜類も貧弱で、今年の農作物の出来が気にかかる。農薬を多用する年にならないだろうかと気をもみながら、早朝の家庭菜園を見回っている。

この1ヶ月ほどの間に、農薬が原因の事件が2件もあった。ひとつは熊本の救急病院に運び込まれた自殺者の嘔吐物に含まれていた農薬・クロルピクリンが、救急病棟で気化して収容患者数人が中毒になったという事件である。救急医には農薬の知識が少なかったようで、原因物質がクロルピクリンと分かるまでに相当の時間を要したという。

もうひとつは、島根県の出雲市で、ヘリコプターで松枯れ対策空中散布された有機リン系殺虫剤で、450名以上の児童が中毒症状を呈した事件である。通称「ヘリ散」と言われるこのような農薬散布が、今でも各地で実施されているとは知らずに過ごしている。ヘリ散は気温が上昇する前の早朝に実施され、通学児童が危険にさらされることは以前から分かり切っているのに、未だに実施しているとは驚きである。

農薬ばかりではなく、我々の日常生活の中には、合成化学物質が氾濫している。どんな物質か知らないが、最近やたらに「消臭消臭」のコマーシャルが多い。それほどまでに気を遣わなければならないほど臭いのだろうか、不思議である。臭いは危険を察知する重要なきっかけだから、消臭対策はかえって危険の増幅になるのでは…。まして、合成化学物質を使うことはあるまいに…。

しばらく前に、知り合いからあいさつメールが届いた。元気に勉学に励んでいると書いてあったので、うれしい便りである。ところが、その続きに「連れ合いは自宅ではなく、山の上に止めた車の中で生活しています」との一文があった。何を意味するのか分からず、喧嘩別れのことでもないだろうが、そんな風に考えないと状況が納得できなかった。しばらくして、直接会って、この解釈は大間違いであると知らされ、環境問題を専門にしている者として大いに恥じ入った次第である。

連れ合いさんは化学物質過敏症であり、街中では生活できないから、空気のよいところで休んでいるというのである。なぜ車の中なのかというと、風の向きが変わり、汚れた空気が吹いてきた時は急いでその場所から逃避しなければならないから車の中で寝ていると言うのが真相であった。ますます自分の無知に恥じ入ったものである。

車で移動していると、山頂部は気分がよいが、汚れた空気の溜まりやすい谷間に入ると、息苦しさなどの症状がでるという。その原因物質が農薬だけなのか、日常生活で使用される合成化学物質なのか、それとも大気汚染物質なのかは不明だが、汚れた空気が原因であることは確かだという。このような化学物質過敏症に苦しむ人たちが集まり、京都カナリヤの会を結成した。

「見えない蓄積性の有害物質に晒されていることの危機と予防を呼びかけ、被害者への支援と私たちとこどもたちの未来の生活環境を守る活動を目指す市民の会」である。「カナリヤのような感受性の人々の声に耳を傾ける」ことは過敏症でない自分たちを守ることであると思う。市民環境研究所としても、活動を支援していきたいと思っている。ぜひ、京都カナリヤ会のホームページをお読みください。http://www.kyotokanariya.com/(石田紀郎)


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