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活動紹介:加工食品の原材料自給への道

よつ葉の大豆クラブと世羅協同農場

「ミートホープ」「冷凍ギョーザ」「船場吉兆」などなど、この間「食」に絡んで生じた事件のほとんどは、食品加工が舞台となっている。原材料生産に比べ利幅が大きいだけに、資本の論理が自然の論理を圧倒しがちなのも宜なるかな。こうした現状に対して、よつ葉はどう立ち向かってきたのだろうか。

2年ほど前、地域・アソシエーション研究所の主催で、「よつ葉らしさの根源を探る」という研究会を半年間行ったことがある。その研究会に講師として招いた経済学者の中村尚司さんが、「依存こそ自立への道」というお話をされた。“身土不二”なんていう価値を信じているのは、世界広しと言えども朝鮮民族と大和民族だけ、という挑発的主張を枕にして、「交換」や「交流」の重要性を展開された講演は、とても考えさせられるものだった。異質なるものの交流、時としてそれは衝突ともなるのだけれど、その中にこそ、主体性や自立が生れるという意味を随分考えさせられた。ひるがえって考えてみると、生産活動というのも、本来的には自然との交換、交流に他ならない。人と自然との交換=生産と人と人との交換=流通を、共に人類史の中で価値あるものとして捉える視点が、どこで、どのようにして失われたのか。そして、それらが共に、反自然、非人間的行為としてしか実現されない現代社会を、どのように実践的に批判していくのか。おおげさに振りかぶれば、関西よつ葉連絡会をつくりあげて来た人たちの問題意識の根源は、ここら辺りに求められるのかも知れない。

よつ葉が農畜産物の直接生産から加工食品の生産も自前で取り組み始めたのは、15年ほど前に遡る。現在のよつ葉の豆腐工場の出発は、高槻市内にあるクローバー食品。消泡剤を使用せず、天然ニガリで固める国産丸大豆使用の豆腐だった。続いて、能勢農場の豚肉を原材料としたハム工場、国産小麦と天然酵母によるパン工場、無リンのすり身を使った天ぷら工場、そして、地場野菜を使った漬物工場へと広がっていく。しかし、こうした加工食品の自前の生産・流通を維持発展させていくのには、農畜産物の生産とは異る困難が横たわっていた。

まず第一に、中途半端な生産量。かつて、日本のどこにでも見られた個人経営の加工食品生産は、手工業的に地域への販売量を生産する小規模なものだった。そこに受け継がれていたのは手作業による職人技。加工は現代のような“誤魔化し”ではあり得なかった。けれど、よつ葉の会員への供給量は、それらからすれば規模が大きい。そして、市場では加工食品メーカーが、加工技術を駆使し、添加物を駆使して加工食品を大量生産している。その狭間の中途半端な生産量を、中途半端な機械化と素人の努力で補うよつ葉の加工食品生産は、度重なる失敗、できあがった加工食品の品質のばらつき、コスト高に直面し、経営的にも困難を極めた。

第二に原材料の品質、価格、量の確保が市場に依存する度合いが大きかった点があげられる。国産小麦、しかもパンづくりに適した品種の国産小麦はほとんど手に入れることができなくなって、よつ葉のパン工場「パラダイス&ランチ」は、外国産のオーガニック小麦を使用せざるを得なくなった。国産大豆の市場価格は、政府による減反政策の動向に補助金制度が振りまわされるたびに、乱高下を繰り返した。スケソウダラのすり身も近年の漁獲量激減のあおりを受けて価格が高騰。まして、無リンの添加物なしのすり身は、確保自体がむずかしくなって来ている。

第三には、市場の大量生産による加工食品がつくり上げた“加工食品の常識”の壁がある。腐らない、劣化しない、発酵がすすまない、変質しない、甘い、柔かい、安い。市場では、加工食品とは、素材としては売れない規格外品を使用して、添加物で味を整え、常に一定の品質で安いというイメージが定着し切っている。けれど、本当に旨い加工食品は新鮮でそのまま食べても旨い素材からしかつくれない。加工することで、生鮮品に比べると日持ちはするけれど、豆腐やパンのように、つくられた日に食べるのが常識だった加工食品が、腐ったり、カビないのが常識に変ってしまっている。漬け物の塩分を控え目にすれば、発酵はどんどん進むのだけれど、酸っぱい漬け物はクレームの対象にしかならない。

こんな困難の中で、けれど、よつ葉の加工工場が、なんとか潰れることなく、徐々に技術を蓄積し、人を育て、機械設備も整えてこれた最大の要因は、自分たちの手でつくって届けるというよつ葉の姿勢を支持し、少々の味のバラつきに目をつぶり、市販の加工品に比べるとやはり高い製品を買い続けてくれた会員の支えだった。そこには、単なる商品と貨幣の交換を越えた、気持ちの、考え方の、交換、交流がいくばくかはあったように思う。そして、もう一つ、よつ葉が、自分たちの現状の不十分さを決して隠さなかったことも大きい。

こうして広がって来たよつ葉の加工食品生産が、今、大きな飛躍の時期を迎えている。

時代状況的には、今年に入って日本中を騒がせた“中国産毒入り餃子”の事件を契機として、これまであまり関心を持たれなかった加工食品の原材料、生産過程に多くの消費者の関心が向けられ始めたという状況変化。さらに、圧倒的な低価格によって、加工食品の原材料として、日本の食生活を牛耳って来た外国産農作物の価格が、世界的な食糧価格の高騰によって、不安定要素を持ち始めたという事実が挙げられる。そして、よつ葉の運動的展開としては、これまでの“国産”“無農薬”という基準をクリアした原材料を市場で調達するところから一歩進めて、どこで、誰が、どのように生産した原材料なのかが分かるような、つまり、農業生産者と直接つながった原材料確保にむかうことで、その農家、地域との関係をさらに深めていきたいという考え方が意識され始めたからだ。

今では、よつ葉の豆腐工場の原材料大豆の6割近くは、契約農家が栽培した大豆の直接購入になっている。「畑の見える豆腐」というネーミングで商品化されている、“誰が栽培した大豆からつくった豆腐なのかが分かる豆腐”は、こうしたよつ葉の姿勢がつまった豆腐。そして、今年3年目を迎える「よつ葉の大豆クラブ」は、よつ葉の地場野菜の生産農家にたとえわずかずつでも、大豆の栽培を復活させてもらって、この大豆を集めて、醤油、味噌に加工して、よつ葉の会員に食べてもらおうという試みだ。大豆栽培を、たとえ少しずつでも取り戻したいという思いを、カタチとして拡げていくために、正油や味噌の加工生産者に協力をお願いして、大豆生産、加工、流通をむすびつけて、今年、1年目に収穫された大豆による味噌が、会員に届けられた。そして、今年の大豆の作付から、よつ葉の会員にも、家庭菜園や自宅の庭、プランターで大豆を栽培してもらい、秋に収穫された大豆を届けてもらって、大豆クラブの大豆として醤油や味噌に加工してもらう試みもスタートした。

そして、もう一つ。4月1日に会社が設立、6月1日に設立祝賀会が行われた叶「羅協同農場の活動開始が挙げられる。広島県世羅町に国が造成したパイロットファームの圃場4.5haを借りて営農をスタートさせた世羅協同農場は、加工用原材料となる農作物を自分達の手で育てていくためにつくられた農場。現在、すでに大麦(加工用としては、麦茶、麦味噌)、加工用トマト(ホールトマト、ケチャップ)が作付されており、今後、小麦、大豆等の作付が計画されている。この分野で先駆的な実績を持っている島根県弥栄村のやさか共同農場と、よつ葉が協同して準備がすすめられて来た協同農場だ。

こうした、いくつかの取り組みを通じて、出来上がったものを買うという食べ方を少しでも見直して、協同してつくって、協同して加工し、皆で食べるという、食本来のあり方を、加工食品の分野においても、少しでも取り戻し、つくりあげていくことが重要ではないだろうか。その実現のためには、多くの解決すべき課題が横たわっているけれど、時代は、そんなよつ葉の挑戦を、これまで以上に必要としているように思う。(津田道夫:研究所代表)


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