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市民環境研究所から:イラクで費やされた壮大な使途不明金

カザフスタンの空を思い出しながら

いよいよ秋が深まってきた。抜けるような青空に、ひとつふたつの浮き雲が風に流されながら形を変え、数を変えていく様をぼんやりと眺めていると、我が心は危険な兆候を呈する。カザフスタンの砂漠に行きたくなる。この季節と5月に1日か2日だけ、乾燥しきった砂漠の空を連想させる日がある。無性に中央アジアに行きたくなるのである。

今週末までの3週間、日本カザフ研究会のメンバー2名を、干上がってできた旧アラル海湖底砂漠へ植林に派遣した。まもなく帰国するはずである。本来ならば言い出しっぺの筆者が先頭に立ってでかけるべき企画であるが、私立大学に勤務し出して、入試の季節が到来し、また講義を持っているものだから、3週間の不在は許されない。そこで、若者2人にすべてを託したのである。抜けるような青空を彼らが満喫して、当初の目的である植林計画をこなしてきてくれるだろう。

今まで、何十回とカザフに調査旅行を実施してきたが、たいていは2〜3人で団を構成してきた。いずれの時も、もっとも若いメンバーに会計を担当してもらうことにしている。日本を出発する時に何十万円かの現金を彼か彼女に預け、帰国時点で精算し、報告してもらうことにしている。現地では小遣い程度は現地通貨を持つこともあるが、たいていは持っていない。アイスクリームをひとつ買うのも、お小遣いをいただいてからである。2日も続けて無駄な買い物でもしようものなら、昨日もアイスクリームを食べたでしょうと嫌みを言われながらお小遣いをもらう。こんな風にして旅程が終了する。

ただし、全面的に信頼しているのだが、金銭のことだから、ある種の原則は持っている。それは、5%までの使途不明金についてはいちいち報告相談してくれるな。ただし、10%近くも狂ってきたら、その時は相談してくれ、という単純なものである。1割近くなると、影響も大きく、なんらかのシステム上の欠陥があるかもしれないから、その時は点検しようと約束している。こんなおおざっぱな約束ごとであるが、大きく予算と狂うことはまずない。帰国時にはきっちりと辻褄が合って終了できる。使途不明金などほとんどない。

ところで、同じ砂漠に出かけて行った日本の大部隊は、ほとんど使途不明金のまま、だれも追及しようとしないままである。鉄兜と銃を持ってイラクへ行った自衛隊である。いったい彼らはイラクの砂漠で、我々の予算の何千倍か何万倍の金を何に使ってきたのであろうか。イラクの人々に飲み水を提供したと言いながら、テレビで報道される映像は基地内で給水タンク車に水を入れている画面だけである。誰がその水を飲んでくれているのか、どんな成果があったのかを、一度も日本の国民に説明していない。まさに、総額が使途不明金である。イラクの国情が安定したわけでもなく、いやむしろ内戦化させただけである。意図も、使途も不明なまま、帰国してからの報告もない。国会は壮大な使途不明金を使途不明のままで了解している。そして、これからもまだまだ金を使うだろう。帰ってきた自衛隊員たちは、砂漠の空の雲を思い出し、また出かけたいと思うのだろうか。(石田紀郎)


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