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市民環境研究所から:理念の内実化が望まれる有機農法推進法

日本の農業をダメにする有機JAS法

昨年と打って変わって暖冬である。年末に一晩だけ雪が舞っただけで、畑に置いたバケツの溜め水に薄氷が張ったのはたったの3回である。秋から冬期の野菜が育ちすぎて、過剰供給と価格割れでずいぶんと捨てられた。農業とはやっかいな生業であるが、それゆえに面白くもあり、力強さもある。農業とは本来そういうものであるとはいえ、この時代の農業をこのように表現をすれば多くの方からお叱りを受けるだろうが、そんな力強さを再度持つためには何をすればよいのであろうか。

長らく農薬と化学肥料一辺倒の日本農業を指導してきた農協の中で、1970年代から有機農業運動を推進し、多くの仕事を成し遂げてきた友人が訪ねてくれたのは、昨年末のことである。2006年12月8日に「有機農業推進法」が国会で可決され、この法律の内実を高めるために今春、滋賀県で全国集会を開催するから力を貸せ、とのことである。恥ずかしながら、その法律の中味を熟知していなかったものの、できる限り協力することにした。

現在の農水省は、有機農産物の認定制度である有機JAS法を制定したものの、農薬の使用回数などの規格をもとに基準を厳格にすることで、むしろ有機農業を締め上げる方針を推進している。有機JAS法は日本の農業をダメにし、消費者を愚弄するだけの法である。国内の有機農業を本格的に振興しようなどという意志があるとは思えない。そんな中で、「有機農業推進の理念を明確にし、その理念に沿った総合的施策の構築と実施を国と地方公共団体の責務とし」、「有機農業推進を、国、地方公共団体と有機農業者との連携の下で進めていく」と定め、「有機農業に関する消費者の理解の広がりが特に重要で、そのためにも有機農業者と消費者の交流と提携の促進」、「有機農業推進のために、必要な法制上、財政上の措置、その他の措置をとること」を内容とした本法律が、なぜ成立したのだろうか。

もちろん、有機農業が迫害されていた時代から、農の本質に迫る理論を展開し、苦しい環境の中で実践してきた多くの先達の成果が社会の意識を変え、農と環境を守ってきた歴史的成果に負うのであろうが、一気にこの法律の制定まで進むとは、想像もしていなかった。2004年1月に有機農業推進議員連盟が設立され、2006年1月に農水大臣が国会答弁で「有機農業は国民が支持する取り組みであり、国も推進する」と明言したことから、教育基本法の改悪での国会審議の紛糾の中で、超党派で提出した本法が成立したようである。この法律の内実を高めるための有機農業者の集まりである「全国有機農業団体協議会」は、2006年8月に結成された。来る2007年3月16日から17日にかけては、滋賀県立大学で「農を変えたい!全国運動、全国交流集会」が開催される。ぜひ、多くの方の参加が望まれる。

筆者は1970年以来、農薬問題に取り組み、その中で「省農薬栽培」を提唱してきた。農薬は省くべき存在であるが、省き方は作目と風土と技術によって種々あると考え、その方向性が大事であって、省いた回数などはさほど問題ではない、という主張である。今回成立した法の中でも、有機農業の多様性を認めることを中心に議論し、推進してほしいと思う。絶対数を重視した有機JAS制度の愚かしさを克服する法の内実化が、必要であると思う。(石田紀郎)


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