タイトル
HOME過去号38号

市民環境研究所から:だれもが水道水を飲めるように

暖冬に思う

暖冬とはいえ、3月も10日を過ぎてから、急に冬がやって来た。毎朝見に行く我が農園でも、水溜めのバケツに氷が張っている。暖冬の帳尻を合わせるかのような寒い毎日、地球温暖化は本当だろうかと疑問に思えるような自然の振る舞いである。

しかし、この冬が異常に暖かかったのも事実である。1月と2月、京都に雪が降ることはなかった。琵琶湖に行ってみたが、四方の山々はお愛想程度の雪化粧。これでは春の水不足が心配になるが、それ以前に心配しなければならないことがある。というのも、平均水深が40m、最深部では100mを越す琵琶湖では、底層の水に酸素を送り込めるのは冬の間だけだからだ。底層の水温は年間を通じて7度である。冬の間は表層の水温が7度以下になるので、底層の水よりも表層の水の方が重くなり、表層水が底に沈んで行き、その反動で底層の水が表層に昇ってくる。酸素を多く蓄えている表層水が底に移動するにつれて、酸素も深いところまで供給される仕組みである。かくして琵琶湖の水全体に酸素が供給される。

ところが、表層の水の温度が低くならないとこのメカニズムが働かず、また山から酸素を多く含み、水温の低い雪解け水が入って来ないと、ますます底層への酸素供給が少なくなる。暖冬ではダメなのだ。酸素不足の水では水中の生き物は生きて行けないから、水は浄化されない。酸素不足の最悪の状態がドブ川である。地球の温暖化の影響は、地上だけに影響するのではない。

こんな暖冬の最中に、ドブ川のような安倍内閣の閣僚の不正が、またまた発覚した。農林水産大臣の松岡が、政治資金の報告書で事務所経費の不正を指摘された。光熱水道費が無料である議員会館に事務所を置く政治団体の経理報告に、膨大な光熱水道費を計上していたのである。その言い訳として、「なんとか還元水」の装置を使っているから、と弁明した。野党やマスコミは、この「なんとか還元水」発言を非難している。当の松岡は「だれも水道水など飲んでいないでしょう」と前置きして、「なんとか還元水」に金をかけるのは現代の常識であるかのように、自らの正当性を主張した。

しかし、私にとっては、「なんとか還元水」が金のかかる物かどうかはどうでもよい。効果があるかどうか知らないが、飲みたい人は何十万円もする浄水器を設置したらよい。松岡発言で問題なのは、農林水産大臣が「だれも水道水など飲んでいないでしょう」と発言したことである。琵琶湖の水質がどれほど悪化しているか、十分知っている私の家には浄水器はない。数十年間、京都市の水道水を飲み続けている。決して良質の水ではないと知っているが、みんなが飲んでいる同じ水で生活しながら水問題を考え続けたいと思っているから、浄水器を付けないでいる。大部分の庶民は水道水で生活しているのである。

野党もマスコミも「なんとか還元水」の存否より、「だれも水道水など飲んでいないでしょう」という大臣を問題にすべきなのである。この暖冬で、琵琶湖の底まで酸素が供給されない影響が、今年の夏にも現れるのか、それともジワジワと現れるのか知らないが、「だれでもが飲める水道水」を確保するために、今年も琵琶湖調査を継続しなければと思う。(石田紀郎)


200×40バナー
©2002 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.