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市民環境研究所から:騙すことが仕事になってしまった社会の中で

小さな名刺広告まで

気象観測史上の最高気温が記録され、気候は異常、異常の連続であった。気候ばかりではなく、国政も異常、異常の連続であり、社会もまた例外でない。自分に好都合なようにだけ世の中を見てしまっている現在の世相には、ほとほと嫌気がさす。殺人事件に汚職に騙し…と事件に事欠かないが、直接自分に関係することは少ないだろうと楽観していなければ、家の外にも出られない。

ところが、家の中に居てもとんでもないことに出会ってしまう。筆者は滋賀県湖西の出身である。現在は町村合併で「高島市」となったが、2年前までは5町1村からなる「高島郡」だった。50年前、この広大な郡には高等学校が1校しか存在せず、中学校から高校に進学するのは単に隣の校舎に移るだけのようなものだった。その後、もう一つの高校ができ、また最近、県内1学区となってどの高校へも行けるようになった。高校側としては生徒集めが大変だという。筆者もまた私立大学に勤める身だから、受験生集めの地獄の毎日である。我が母校へも学部紹介と受験生獲得に出かけている。

そんな真夏の日曜日、新聞社から電話が入った。紙面で我が母校の特集記事を書くから、ついては名刺広告を頼む、とのことである。新聞社の営業と高校の宣伝という利害が一致しての企画である。そこで、我が方も利害の一致と観て、名刺広告を引き受けた。もちろん肩書きは大学の職名である。母校からの受験を期待しての出費であるが、功を奏したかどうかは分からない。しばらくして記事が掲載され、新聞社専属の広告会社から請求書が送られてきた。

請求書とともにお願い文が同封されており、名刺広告代金支払いに際しての注意が書いてあった。曰く、「広告会社を名乗って代金を請求してくる者があるかもしれないが、当社とは無関係であり、この払い込み先以外には送金しないでくれ」という。「振り込めサギ」の一種らしい。世の中にはそんなことまであるのかと笑っていたが、しばらくすると得体の知れない者から電話がかかってきた。名刺広告の代金支払い要求で、どこかで電話番号を調べたのだろう。筆者が不在だったので翌日も翌々日もかかってきたという。広告会社に代金を振り込んだ後に電話で確認したところ、会社ではそのような電話はかけておらず、そんな名前の社員はいない、とのことであった。

こんな小さな名刺広告までもがサギの対象でなっているのである。今日のニュースでは、防衛省の事務次官が出入り業者と癒着していた事実が暴露されていた。騙すことが日々の仕事になってしまったこの社会にうんざりした酷暑の後に、少しはさわやかな秋を迎えたいものである。(石田紀郎)


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