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能勢の自然エネルギー・シンポジウム 報告

再エネによる循環型のまちづくりに学ぶ

   ゾーニング事業のめざすもの

 能勢と言えば、真っ先に思い浮かぶのは能勢農場だ。稲わらと牛糞堆肥による地域内循環の取り組みや関連する地場野菜の取り組みも拡大し、地域の活性化につながっている。主として農と食を通じた関わりだが、同じ能勢町で再エネを通じた循環型のまちづくりの施策が行われている。環境、循環、まちづくりなど、おそらく私たちにとっても共鳴するところの多い取り組みであり、今後何らかの関わりが期待できるのではないだろうか。能勢町主催のシンポジウムに参加し、また関係者にお話を伺ったので、以下報告する。


はじめに

 能勢町は「大阪のテッペン」と称されるように、大阪府の最北端に位置し、面積は98.75平方キロメートルで、そのうち山林が78%、耕地が10%、宅地等が12%となっている。美しい里山の景観を誇る中山間地の農村だ。人口は2023年1月現在、9,267人(4,554世帯)。近年は町外から移住し、就農する若者が目立つ一方で、全体としては人口の流出と高齢化が進み、町行政の課題となっている。地理的には大阪府の池田市や豊中市、京都府や兵庫県の都市部にも近いが、町内に鉄道はなく、自動車とバスが主な交通手段になっている。町内には能勢農場や食肉センター、能勢産地直送センター、北摂協同農場などがあり、私にとっては馴染の深い土地でもある。

 その能勢町で、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を核にしたまちづくりの取り組みが進んでいる。この2月には町の主催で「能勢の自然エネルギー・シンポジウム」が行われ、環境省の再エネポテンシャル調査で、能勢町地域で有望であるとされている太陽光発電と風力発電について、導入のためのゾーニングマップ(案)が発表された。それによって発電設備の設置に関して、科学的にその適否を把握することができ、さらに条例化へと進む道筋が開かれたと言える。

 能勢町地域において、どのような将来像が描かれうるのか、そのために再エネの拡大はどのような位置を占めることになるのだろうか。まず最初に、再エネ導入をめぐる能勢町の状況について、能勢町会議員の難波希美子さんに伺ったお話について報告する。次にゾーニングマップ作製に至る経過とその意味について、「シンポジウム」において発表された内容をお伝えする。さらに能勢町と協力して主導的に事業を進めてきた「株式会社 能勢・豊能まちづくり」が、特に能勢町において進めている取り組みについてお聞きしたので、報告しておきたい。


能勢町が抱える問題とは

 能勢町会議員の難波さんに話を伺ったのは、「シンポジウム」に参加した後のことだ。能勢町という山間の農村地帯において、再エネの取り組みを進める意味について、そして能勢地域に適合した再エネのあり方について、教えを乞いたいと思ったからだ。

 森上にある難波さんの事務所「ホップ・ステップ・のせ」で話を聞いて印象的だったのは、昨年、能勢町は過疎地域の指定を受けているという事実だ。能勢と過疎という言葉は自分の中では初めぴったりとは結びつかなかった。能勢農場を核にしたよつ葉の取り組みが印象として強かったからかもしれない。

 過疎地域とは、「過疎地域持続的発展の支援に関する特別措置法」において、「人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域」と規定され、具体的には、法で定める特定の期間の「人口要件」と「財政力要件」に該当する市町村の区域。大阪府では能勢町の他に、豊能町、岬町、千早赤阪村が指定されている。自然豊かで魅力的な地域ばかりだが、過疎という点では困難を抱えているということだ。

 総務省の昨年4月の発表では過疎地域自治体は全国で885市町村となり、初めて全国の半数を超えた。そういう意味では、過疎の問題は能勢町だけではなく、日本全国に共通する問題だと言える。大阪市や東京都区部など、都市部は繁栄しているかもしれないが、自治体の数で言えばそれはむしろごく一部なのだ。さらに過疎地域に指定されていない自治体でも厳しい状況はそんなには変わらない。

 子どもの減少も深刻な問題だ。難波さんによると、かつて2016年までは能勢町には6つの小学校と2つの中学校があったのだが、それが2016年に1ヶ所に統廃合され、昨年4月には義務教育学校・能勢ささゆり学園に移行した。今は小学校、中学校という区分けはなくなった。また、大阪府立能勢高校は入試の募集で10年間連続して定員割れとなったため、2018年から大阪府立豊中高校の能勢分校として生徒募集が行われた。


自然エネルギーの取り組み

 そのような町をめぐる状況の中で、困難を打開するまちづくりの核心として自然エネルギーの取り組みを据えるという動きが始まったのは上森一成町長(2016年~)の頃からで、地域エネルギーの会社を通じた地域活性化やエネルギー転換について取り組みを進めていった。もちろんそこには町職員や能勢分校の高校生、環境省や内外の識者の協力があったのは言うまでもない。2019年9月には能勢分校の生徒も含めて、ドイツ連邦共和国のブリロン市のシュタットベルケ(Stadt Werke)視察・訪問を行った。シュタットベルケとは、ドイツにおいて、電気、ガス、水道、交通などの公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業で、直訳すると『都市公社』あるいは『町の事業』。公共インフラの中でも電気事業が財政的な基盤になっている。シュタットベルケの事例に学び、日本でも進めていこうという趣旨で、日本シュタットベルケネットワークが設立され、能勢町も加入している。

 2020年7月には能勢町・豊能町が地域の民間団体と組んで新電力会社、能勢・豊能まちづくり(代表・榎原友樹氏)を設立。まずは再エネとして、太陽光パネルの設置や電力の買い取り・販売などを進めている。能勢・豊能まちづくりの実践を土台にして、能勢町ではさらに2021年に、ゼロカーボンシティー宣言に続いて、SDGs未来都市の選定を受け、「地域資源が循環する里山未来都市の実現」に向けた取り組みが進められている。難波さんによれば、こういった能勢町の取り組みの推進力として、能勢・豊能まちづくりの榎原代表のリーダーシップが大きいのではないかということだ。

 能勢町では昨年、2022年6月に第6次能勢町総合計画が策定された。それは能勢町における憲法のようなものだけれども、その中には自然豊かな能勢の里山を守るということが大きなキーワードになっている。里山の自然・景観を守りつつ、いかに再エネの取り組みを進めていくのかが課題なのだと、難波さんは指摘する。


太陽光発電をめぐる状況と課題

 一例として、難波さんがあげたのは能勢町栗栖に建設されている410kWの太陽光発電所だ。土砂災害特別警戒区域の山の斜面を拓いて太陽光パネルが並べられている。去年の夏から建設が始まって、町の人たちは「あんなところに大丈夫やろうか」と言いあっていたそうだ。2018年の豪雨や台風で、すぐ横の山が崩れて大変だったこともある。しかし、土砂災害特別警戒区域には人が住むような建物には規制がかかるが、太陽光パネルは建造物ではないということで規制がかからないのだ。

■栗栖の太陽光発電所
 太陽光パネルについては住民から設置に対してもっとはっきりと反対の声が上がることがあった。松風台という山に造成された住宅地で、宅地2つ分の発電所計画に対して反対運動があったけれども、結局は地権者の意志通り建設設置された。栗栖と同じく町外の業者による設置だった。住民の反対理由としては、土砂災害時に化学物質が漏洩する心配や、電磁波の問題、景観の問題などだったようだが、反対の声は押し切られてしまった。

 こういった事例は再エネ導入においても何らかの規制が求められていることを表しているが、ここで能勢町における再エネの状況についても概観しておきたい。能勢町内で設置されている発電設備はほぼ太陽光のみで、比較的発電容量の大きい20kW以上の太陽光発電設備が、約76ヶ所ある。最初期のものは2013年にダイオキシン問題で焼却場の跡地につくられたもの(500kW)で、地権者の住民たちによって設置され、利益は地域へ還元されている。発電所の件数で言うと、全体の4分の3くらいは外部の業者の所有で、残りの4分の1くらいが地元の個人や事業者の所有のものだと考えられる。

 土砂災害や景観の問題などは大きいが、さらに外部の業者が設置する太陽光発電所の利益は外部に流れ出てしまって、地域には還元されないということもある。20kW以上の設備についてはFIT(固定価格買取制度)の適用は20年なので、今後10年ほどで、順次FITの期限が来る。その時に卒FITの電力を能勢・豊能まちづくりが買い、住民がその電気を買って使えば、エネルギーの町内循環になる、と難波さんは言う。

 また、個人宅の屋根に設置される10kW未満の太陽光パネルは、発電総量としては大きくはないが、FITの適用期間は10年なので、初期に設置された分からそろそろ卒FITということになり、まちづくりによる電力の買い取り余地が生まれる。

 ポテンシャル調査で有望であるとされている風力発電については、検討の結果、採算性が見込めないということで、能勢町では現在のところ計画はない。

 バイオマスに関しては、国崎クリーンセンターという広域のごみ処理施設がある。ダイオキシン問題の後、能勢町、豊能町および兵庫県の川西市、猪名川町の一市三町で建設した設備だが、ごみ発電を行っている。ごみの中には木質のものが含まれているので、その分がバイオマス発電と見なされ、FITの対象になっているそうだ。他にはプラスチィックなども燃やしているので、その分はFITには含まれないが発電はしているので、サーマル・リサイクルということになっている。サーマル・リサイクルは自然エネルギーとは認められないが、一応日本では廃棄物のリサイクルということになっている。

 能勢町で木質バイオマスに取り組んでいるところは一ヶ所あって、古嶋商店というところで、間伐材や剪定木を無料で引き取って、チップに加工して卸している。実際の発電所は能勢町にはないので町外の発電所に納めているそうだが、手入れが行き届かなくなった山林が問題になっている状況を考えるとき、町の施策として考えてもらいたいものだと、難波さんは言う。ちなみに間伐材をクリーンセンターに引き取ってもらうと、ごみとして有料引き取りになる。


ゾーニング事業の背景

 さて、以上のような状況を踏まえて、この2月に『能勢の自然エネルギー・シンポジウム』が開催され、能勢町のゾーニング事業の現状報告が行われた。以下、当日の報告と配布された報告書『自然エネルギーの適切な導入のための計画づくりについて』に沿って、概要を記しておきたい。

 ゾーニング事業の背景には、能勢町が2021年3月に公表したゼロカーボンシティー宣言がある。2050年までにエネルギー起源の二酸化炭素排出量ゼロと森林等による吸収源の最大化を目指す。具体的な目標としては、再エネの導入量を2015年度比で2030年までに2倍、2050年までに4倍とする。

 環境省の再生可能エネルギー情報提供システムによると、能勢町域の電力需要量は42GWh/年。それに対して、能勢町域の再エネポテンシャルは太陽光と風力をあわせて499GWh/年。10倍以上のポテンシャルがあることになる。一方で、能勢町の豊かな自然や景観を保護しつつ、再エネの導入を進めるためには、どこに配置し、どこには配置しないのかを明確に定めるゾーニングが不可欠だ。

 ゾーニングの対象は太陽光発電と風力発電。環境省の再エネポテンシャル調査において、ポテンシャルが確認されている二つの電源種別を対象としている。太陽光と風力は導入による地域への影響が大きいことも優先する理由になっている。バイオマスや、ポテンシャルが確認されていない小水力発電は対象に含まれていない。

 また、通常ゾーニングマップを策定しても法的拘束力がないため、実質的な効力が発揮できず、事業者の意向が優先されてしまうことがある。そのために能勢町ではゾーニング事業と並行して再エネ導入に関する条例制定をめざし、ゾーニングのエリア区分を条例内でも位置づけることによって、法的拘束力を持たせることを予定している。

 今回のゾーニング調査では、公共施設や住宅の屋根に設置する太陽光発電のポテンシャル調査も行っている。それによると公共施設の屋根には1,600kW程度のポテンシャルがあることが判明した。また、2030年に向けての予想を立てると、2015年比2倍の再生可能エネルギーの必要量は約16,000kW。一方、既存の再エネは約11,000kWで、ほとんどが太陽光。目標にはあと約5,000kWの追加導入が必要となる。今後の想定として、住宅の屋根に4,000kW、公共施設の屋根に500kWの導入が進んだとすると、残り500kWの追加導入が必要になるという計算だ。
 ■2030年に向けての予想

ゾーニング事業の手順と実行


 さて、ゾーニングを実行する実際の手順だが、エリアとしては①法令等による立地制限や環境保全・災害防止等を優先し、発電施設の立地を制限する区域、②発電施設の立地にあたって様々な制約があることや、環境・社会面において留意が必要な区域、③配慮事項はあるが、環境・社会面から発電施設の立地が見込める区域に区分けし、社会関連の情報や、自然環境の情報、地形の情報、災害関連の情報などについて判定し、それらをレイヤー(情報ごとの層)として重ね合わせ、ゾーニングマップを作成する。

 能勢町では、ゾーニングについて、地域のエネルギー問題について住民が自ら考え、行動に移すためのコミュニケーション手段のひとつであり、再エネの導入にあたっては継続的に地域とのコミュニケーションを図り、対話を継続することが不可欠であると考えている。その上で以下の点をゾーニング事業で目指す姿として重視している。

 ①地域の生態系保護や再エネ開発との両立について地域内で考え方の軸が共有されている。
 ②地域住民が積極的に出資/関与する再生可能エネルギー事業が増加している。
 ③地域内経済循環が形成され、脱炭素と共に地域活性化につながっている。
 ④気候変動に対する正しい知識が醸成され、脱炭素の取り組みが地域の誇りとなっている。

 以上のような考え方のもとに、2021年度から2年間の事業として、ゾーニング事業が取り組まれた。庁内検討委員会において、調査方針や調査内容、調査結果を確認、協議し(全6回)、ステークホルダーへのヒアリングやワークショップで出た意見等を検討委員会でも確認し、ゾーニングマップへの反映や報告書への記載の方針についても検討を行った。

 ヒアリング先は、農地に関しては能勢町農業委員会、居住地に関しては主要自治会、経済団体としては商工会議所、自然保護に関しては大阪みどりのトラスト協会…など、全12団体。地元住民を交えてのワークショップ(全2回)の第1回目はエネルギーをめぐる能勢町の将来像について行われ、参加は約30名。能勢町における自然エネルギーの取り組みと計画作りについての報告、ゲスト講師によるミニ講演とワークショップが行われた。ワークショップでは自己紹介に続いて、「目指したい能勢の2050年の姿について考えよう!」と題して意見交換が行われ、それぞれの気づきが共有された。第2回目はより具体的に太陽光発電と風力発電についての設置の適否などについて行われ、参加は約15名。太陽光発電と風力発電について、それぞれ「設置するならばこんな場所、避けたい場所はこんな場所」をテーマに、ワークショップを行い、それぞれの気づきが共有された。参加した難波さんによると、印象に残ったのが、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)についてで、耕作放棄地もあることだし、どんどん進めるべきだという意見があったのに対して、難波さんは保留する意見を言ったという。自然豊かな里山は能勢の宝だから、全否定するわけではないけれども、まずは住宅や公共施設の屋根を優先で作っていく方がいいのではないかと。他には、管理できない場所や山林、大規模な太陽光発電には反対という意見など。風力に関しては、人目につかないところとか、住宅から遠いところに設置という意見があった一方で、大型の風力発電はダメとか、景観は守りたいという意見など。

 エリア設定にあたっては自然環境保護法や土砂災害防止法など法的な影響、自然環境・防災・社会的条件の配慮、地理条件等の考慮、住民意見・委員会での意見を考慮して、禁止区域(法令等による立地制限や環境保全・災害防止等を優先する区域)、許可申請区域(発電施設の立地にあたって様々な制約があることや、環境・社会面等において留意が必要な区域)、届出区域(配慮事項はあるが、環境・社会面から発電施設の立地が見込める区域。届出を提出することによって、再生可能エネルギー事業を行うことができる)、3つの区域を設定した。

 このようにして実施されたゾーニングに基づいて、太陽光発電と風力発電のそれぞれについて、再エネポテンシャルが算出された。

 太陽光発電については、許可申請区域と届出区域を対象に設置形態別(屋根上、営農型、地上設置)について、それぞれの推計方法に従って、導入ポテンシャルを算出。結果は下の表の通りである。先に記した2030年に向けての導入目標5000kWについても、目標達成のめどが具体的に立ってきたと言えるだろう。

 風力発電に関しては、許可申請区域内で、社会的影響や事業性等を考慮し、設置可能面積を算出。その結果、約108万㎡の土地が該当し、環境省のポテンシャル推計によると、導入ポテンシャルは約10.8MWと推計された。

 以上、2年間のゾーニング事業の結果取りまとめられたゾーニングマップ案について、3月17日~4月17日に意見募集(パブリックコメント)が行われ、それを踏まえて条例制定を目指すことになる。条例は再エネの設置を禁止するエリアや許可申請が必要なエリアを設定するが、一方で、規制だけではなく、届出により設置を認めるエリアを設定することで、導入促進を図ることを目的としている。


能勢・豊能まちづくり

 能勢・豊能地域において、再エネの取り組みを実践的に担っているのは、能勢・豊能両町が出資する「株式会社 能勢・豊能まちづくり」で、電力会社として再エネの導入を進めるとともに、能勢町、豊能町におけるさまざまな問題にエネルギーの観点から関わり、事業を推進している。

 能勢・豊能まちづくりの北橋みどりさんと、地域おこし協力隊としてまちづくりに関わる江藤幸乃さんのお話を伺った。(以下、敬称は略)

 ――能勢の自然エネルギーシンポジウムに参加しましたが、あれが3回目で終わりですよね。

 
【北橋】そうです。ゾーニングは2年間の事業になっていまして、これまで有識者との検討会や関連団体へのヒヤリングをしながら、案をまとめてきたのですが、地域住民の方との2回のワークショップを踏まえてさらに修正をしながら、固めてきました。

 ゾーニングだけでも意味はあるのですが、法的な拘束力がないので、最終的には条例を作って、そこに入れ込んでいく予定です。再エネに関して、ゾーニングと条例を両方作っているところは日本にはまだなくて、初めての試みになると思います。

 ゾーニングには禁止区域への建設を抑制するという意味と、災害などの危険のないところには積極的に推進していこうという、両方の意味があります。

――太陽光が主になっていますが、他のエネルギーに関しては、検討されていますか。

 
【北橋】風力発電に関しては、ポテンシャルがあるのは確認できたのですが、採算の面で難しいことが調査で分かりました。今のところ計画はありませんが、ゾーニングによって、業者さんが勝手に変な所に作るのを抑制できるだろうと考えています。

 環境省によると、地熱、小水力に関してはポテンシャルはほぼゼロということです。環境省の調査ではバイオマスはポテンシャルが示されていませんが、以前の調査では材の安定供給や採算性で難しい状況だと分かりました。小さなバイオマスでの熱利用とか、本当に小さなマイクロ小水力とか、細かく調べるとゼロではありませんが、少し大きな枠組みで見ると、やはり太陽光発電ということになります。

――能勢・豊能まちづくりという社名ですが、〇〇電力ではなく、このネーミングにしたのはどういう意味があるのですか。

 
【北橋】主な収益源かつ軸にしているのはエネルギーなのですが、電気会社だけをやりたいかというとそうではなくて、最終的に地域を良くするために、その手段のひとつとして電気会社もやっています。まだ、実現できているところは少ないですが、そういう思いを持っています。

 能勢町、豊能町は小さな自治体ですが、エネルギー代金として年間8億円から10億円を外部に支払っています。それだけ地域のお金が外に出ている形です。これを省エネによって一部減らしたり、地域の再エネ発電など地域のエネルギーを使って、地域内でお金がまわれば、地域のさまざまな課題解決にお金を使うことができるだろうと期待しています。

――まちづくりは株式会社ですが、町との関係はどうなっていますか。町のエネルギー政策にはかなり深く関与しているのですか。

 
【北橋】株主の割合で言うと、能勢町と豊能町が16%ずつ、あとは循環型まちづくり推進機構という社団法人の出資です。この社団法人はまちづくり社長の榎原と、冒険の森という放置森林を活用したアスレチック施設・キャンプ場を営んでいる会社が出資したものです。まちづくりは従って、自治体出資の新電力という形です。

 町の出資でできた会社ですので、町の政策や温暖化対策の実行計画の中に活用していただいたり、2021年には地域エネルギー会社を核とした「地域資源が循環する里山未来都市の実現」の提案によってSDGs未来都市に能勢町が選定されたということもありますので、そういった面での政策の中にも活用していただいています。

 ――会社設立直前には能勢町からドイツのシュタットベルケに訪問されていますね。

 
【北橋】2019年に町長と町の職員や能勢分校の生徒たちを含めてドイツに行ったそうです。ドイツの地域エネルギー会社を見て、能勢で同じようなことをやりたいと生徒たちも言っていました。同時期にバイオマスを使った新電力ができないかという検討が始まっていて、20年に新電力会社の発足へとつながりました。

 シュタットベルケというのは自治体が出資する総合サービス会社で、電気、ガス、水道、地域交通などを事業としていて、特にエネルギー分野での黒字を、赤字になりやすい公共交通に当てるというようなことをされている例が多いです。

 ただ、私たちの場合はまだヨーロッパほど総合的にはできていなくて、電気の小売り事業にとどまっている状態です。できればエネルギー部門を黒字にして、それを地域の交通問題などに当てたいと思っていますが、最近は電力の原価の方も高騰していて、厳しい状況です。発足から2年ほどは収益を上げられなかったのですが、昨年の4月からはごみ発電を行っている国崎クリーンセンターのCO2排出量がゼロの電力を弊社の方で買い取らせてもらって、地域に供給することができています。今は必要量の3割ぐらいをそれで賄っています。

 私たちの電力調達方針としては、環境への負荷が小さいこと、地域が主体となったり、賛同している発電設備であること、再エネ普及に貢献していることを掲げています。「みんな電力」さんという、顔の見える電力からの調達もそれなりに割合を占めています。再エネ由来のFIT電気も電力取引市場と同じ価格になるというルールがありますので、自然エネルギー由来なのにウクライナ関連などによる高騰の影響を受けていて、来年は調達割合が下がる予定なのですが、できるだけ買えるときはこういう所から買ってくるという努力をしています。

――販売先は公共施設が多いのですか。

 
【北橋】そうですね。能勢町と豊能町の庁舎や公共施設が大部分ですね。学校とか保育園にも供給しています。

 一般家庭向けには、一応メニューはありますが、今は価格が高騰しているので、関西電力以外の会社とは同程度の料金のことが多いと思いますが、関西電力は安い標準メニューを持っておられるので料金だけで比較されると厳しいです。それでもメニューはあるので、ぜひ利用していただきたいのですが、あまり知られておらず、広報の仕方が難しいです。

 電力の買い取りの方ですが、ご家庭の屋根についている太陽光で、10年間のFIT期間が終了した卒FITの電力については、関西電力より少し高く買いとっていますので、ぜひ協力をお願いしたいです。地域の再エネ電力が地域で循環することにもなりますし、その電気が学校や保育園に使われているんだということを、伝えられたらと思います。


高校生とe-bikeの取り組み

――高校(能勢分校)にも電力供給をしていますか。

 
【江藤】能勢分校は大阪府立なので、契約が大阪府を通さないといけないので、できていません。代わりにと言いますか、廃校になった東中学校のグラウンドに設置されていた太陽光パネルを移設して、みんなで磨いて設置しました。リユース・パネルを使った能勢分校発電所です。地域魅力化クラブという高校生の部活動で、地域の課題を解決するというのを前から取り組んでいて、高校生と連携しながら、e-bike(電動補助自転車)の取り組みを行っています。e-bikeの充電を能勢分校発電所で行っています。その取り組みは、能勢分校生の交通(通学)課題を解決しようとするもので、東京大学や大阪大学の教育、交通等を専門とする先生たちとの共同研究として行い、環境大臣賞をいただきました。

■能勢分校発電所設置
 能勢分校の在校生は50~60人ぐらいでしょうか、大阪全域から生徒が来ています。来年は能勢出身の子が多いみたいですが、今の在校生はいろんなところから来ています。遠くは門真からバスで時間をかけて来ている子もいます。e-bikeが通学に使えるようになったので、亀岡から来ている子もいます。

 地域魅力化クラブというクラブ活動では、能勢町の地域の課題を解決するために、いろんなプロジェクトを考えたりしています。分校の授業としても、課題探求GS(グローカルスタディー)として、地域課題を研究する授業があります。研究の成果を町民の皆さんも参加できるような形で発表会を行っていたりします。地域に入っていって、課題を見つけて、解決法を考えるという取り組みをされています。

――地域の課題とは、どういうものでしょうか。

 
【江藤】いろいろあります。たぶんどこの地域でも同じだと思いますが、公共交通は大きな課題だと思います。能勢町は特に電車がなくて、バスが唯一の公共交通なのですが、路線も少なくなっていますし、本数も少ないです。土日は役場を通るようなルートしかなくて、町の東側は土日は一本も通らないので、非常に不便ですね。

 山が整備されていないとか、田んぼにも畑にも世話ができなくて放置されているところが多いです。都市部から移住されてきて、農業をしたいという方もいらっしゃいますが、耕作放棄地は山際とか不便な場所が多くて、あまり良い条件ではない土地で苦戦されているという話は聞きますね。

 人が住んでいない家はあるのですが、貸し出しはされないので、家がどんどん朽ちていってしまう。田園風景が残っているので、移住したい人もいるのですが、住む家がないというようなミスマッチがあります。いろんな課題があるなと思っています。


さまざまな取り組みを実施

 
【江藤】山の整備がされていないことに関しては、能勢・豊能まちづくりでは、山の木を整備してもらい、出てきた木を薪として買い取って、燃料として販売するという事業を今検討しているところです。

 この冬、道の駅で、エアコンと薪ストーブを併用して、どのくらい電気の使用量を下げられるかという実証実験を行いました。社長の榎原が解析したところによると、薪ストーブを使うことで、電気の使用量はもちろん減りますし、薪は高いと言いますが、総合すると、薪ストーブを併用した方がコストも下がりました。その薪も、能勢町の里山を整備して出てきた木材を地元の森林組合さんが薪にしたものを使っています。地元の野菜を売る店を地元の木で温めるということをやっていただきました。

――木の駅プロジェクトというのを聞いたことがありますが、関係していますか。

 
【江藤】木の駅プロジェクトは、似たような仕組みなので、全く同じ部分に関しては共通の枠組みでやらせていただきたいという話はしています。山に関しては素人なので、森林組合や町の担当課の方々にご指導・ご助言いただきながら進めています。能勢・豊能まちづくりでやる木の事業は、地域の方から木を買うのは木の駅と同じなのですが、木の用途は薪、エネルギーと限定していまして、木の駅は建材とか遊具にしたり、できるだけ木材として使うことをメインにしておられます。木の駅は町が事業主になっています。

――電力会社ですが、省エネの取り組みもされているのですね。

 
【北橋】省エネ診断というのをやっています。電気会社だと30分ごとに使っている電気の量をリアルタイムで見られるので、そのデータも使いながら、省エネのために見直しを専門家と一緒に提案しています。能勢庁舎は一時頑張った時には5割減になったこともありましたし、それ以外でも診断が入ったところはだいたい1、2割は下げています。

 エアコンを一番使うのは夏と冬ですが、たとえば豊能町の庁舎は冬、雪が降っている時にエアコンを最強にしているのにすごく寒いんです。調べてみると天井の方はすごく暖かい。エアコンは天井の温度を認識して止まっていたということがあります。そこで扇風機を上に当ててあげると、暖かい空気が下にまわって、エアコンの設定温度を下げても暖かくなって、使用量は10%ぐらい下がりました。ちょっとしたコツなのですが、風量を強にして温度を下げたり、ちょっとしたエアコンの設定ですが、専門家と一緒に見て回ったり、アドバイスをしています。他には、窓断熱のために、シェード、簾みたいなのを小学校に付けに行ったり、冬はプチプチみたいなのを張りに行ったりしています。できるだけ電気を使わない、省エネのためのアドバイスをしています。

 私たちの会社は非営利型でやっています。売上利益も地域のために使うということになっているので、結局お財布は一緒というか、省エネで地域の電気代を下げるのと、地域の電気会社であるというのはつながっていると考えています。

――役場の新館の屋根に太陽光パネルがついているようですね。

 
【北橋】ゼロ円ソーラーという取り組みです。初期費用が何百万円かかかりますので、そこを補助金も使って私たちが設置して、下がった電気代の分をいただくという形で、何年かすると初期投資も回収し、再エネも増えるというわけです。

 電気機器メーカーのオムロンさんの協力をいただいて蓄電池も設置して、蓄電池の運用について実証しています。電力が余っている時は貯めて、夜間に使ったりもします。電気自動車の充電にも使っています。現在のところ、太陽光では庁舎の電気は一部しか賄えてはいませんが、できるだけこういうのを増やしていきたいと思っています。

 電気自動車は、まちづくりでも社用車として1台、能勢町でも1台所有しています。急速充電器は駐車場に設置しています。能勢でも4年前の台風の時に3日間停電したのですが、そのような災害時でも、たとえば電気自動車で避難所に人を送ることもできますし、電源として使うこともできますので、もう少し導入できればと思っています。

――ゾーニングの結果を踏まえて、今後のことはどうしょうか。

 
【北橋】ゾーニングがほぼできたので、ここは良いのではないかと皆さんが言っている場所、特に公共施設の屋根とか、ご家庭の屋根の上なのですが、そういう所に発電を増やしていきたいです。ゾーニングの結果で、2030年の目標も具体的に達成のめどが見えてきました。さらに地域の電力会社として、地域に還元できるような仕組みを作っていきたいと思っています。

――江藤さんは「地域おこし協力隊」ですね。最後に志望された動機など聞かせていただけませんか。

 
【江藤】地域おこし協力隊というのは総務省の事業で、都市部の人間が地方に移住するのを支援して、地域外の新しい目を入れて、その地域の魅力を外の目で見て、魅力を発信したり、地域の課題を解決したりというための制度です。

 制度自体は10年ぐらい前からありますが、都市地域から過疎地域に移住してもらうという制度なので、大阪は募集している自治体がほとんどなくて、現在は能勢町、豊能町、岬町と、前は千早赤阪村でも募集していたようです。中部地方や九州、北海道だと制度の創設初期から毎年募集していて受け入れの歴史の長い自治体があったり、1年に10人も募集したりという所もあって知名度がありますが、大阪や東京などの都市部では認知度が低い印象です。

 私は東京から来ましたが、出身は和歌山県です。地域おこし協力隊というのは自治体ごとに募集方法とか仕事内容が違うのですが、能勢町の私の場合は、能勢・豊能まちづくりで、エネルギーを軸にしたまちづくりや環境教育をお仕事してくださいという募集内容でした。もともと森林や環境に興味があったのと、実際に能勢町に来てみたら風景がすてきだったので、チャレンジしてみようと応募したら、拾っていただけました。

 能勢・豊能まちづくりはまだ始まったばかりで、いろいろ取り組みを始めているので、能勢町のまちづくりについて学びながら、地域のみなさんと取り組んでいきたいです。能勢農場にも何度か行きましたし、能勢農場がやっている林業の研修にも参加しました。また、なにかお互いに協力できるところがあればと思います。


温暖化対策とまちづくりと

 能勢の自然エネルギー・シンポジウムへの参加をきっかけにして、再エネをめぐる能勢の状況と取り組みについて、入口程度だが知ることができた。能勢町会議員の難波希美子さん、能勢・豊能まちづくりの北橋みどりさん、江藤幸乃さんには貴重な時間をさいて再エネの取り組みについてご教授をいただいた。それぞれのお話を聞いて思ったのは、温暖化対策(再エネ拡大)と地域の経済・社会的な課題とは複雑に絡み合って、住民の前に現れているということだ。それを解きほぐし、それを結び直し、取り組みへの道筋を探らなければならない。

 ゾーニングという言葉を始めて耳にしたのは、2021年に福島を訪問し、いわき市会議員・佐藤和良さんを訪問した時だ。佐藤さんは福島原発事故によって甚大な被害を受けている福島の復興のために阿武隈山系の尾根伝いに多数の風力発電が計画されていることや雨後の筍のようにメガソーラーが設置されている状況を問題にされ、適地・不適地を評価するゾーニングが必要だと力説されていた。また風力発電やメガソーラーによって発電された電力が、大消費地である首都圏へと送電されるのであれば、結局は原発と同じ構造であると指摘されていた。

 温暖化やCO2だけが問題であれば、大型の風力発電を多数設置し、あるいはメガソーラーを展開すればいいということだが、それでは地域の課題は解決しない。経済・社会的な次元の評価を加味しなければならないのだ。発電の電力は誰が消費するのか、発電の利益はどこへ行くのか。あるいは発電所が設置される地域の住民にとって発電所のもつ意味はどうなのか。設置によって生活はどのような影響を受けるのか。発電所の運用によって自然生態系の受ける影響はどうなのか。災害時にはどのようなリスクがあるだろうか。また、これらを考慮した時に、発電所の種別はなにが適切か、またその規模はどのようなものであるべきだろうか。

 さまざまな次元の問題が、再エネの導入・拡大に伴って浮かんでくる。能勢町のゾーニング事業ではこれら多次元の配慮を問題ごとのレイヤーとして重ね合わせることで、結果として禁止・申請・届出の三つの区域を設定している。さらに条例化することによって法的な拘束力を持たせようとしている。

 もっとも大切なことは、ゾーニングマップの作成にあたって、地域のステークホルダーや住民への聞き取りを行い、ワークショップという形で参加を促していることだ。再エネの導入がメガソーラーのような事業者主体のものになるか、地域住民が主体として自ら関わり、自ら消費する住民の財産として活用するのか。それは温暖化対策における大きな分かれ道につながっているのではないだろうか。能勢における再エネの取り組みは、私たちにもまた課題としてそのことを問いかけているように思う。

                                              (下前幸一:当研究所事務局)




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