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連載 ネパール・タライ平原の村から(131)
チョジェの解体② みんなで内臓を食べる

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その131回目。



 ネパール最大のお祭りダサインの次にやって来るお祭りティハールの季節。前回のダサインに引き続き、イノシシ型在来豚チョジェの2頭目をと畜しました。

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 前回は額を斧の反対側で叩いて気絶させる、一般的な方法でした。今回は屈強なマガル人の元グルカ兵8人。「そんなやり方ダメだ」、おいしく食べるため「最初に血抜きをしっかりしないと」とこだわる熟練のオジサンたち。豚舎で餌を与えチョジェをおびき寄せた隙に、首輪のように輪型に結んだロープをすっと胴に通し、逃げないようにまずつなぎ止めます。

 次に後ろ両足をロープできつく縛り、胴にかけたロープとつなぎ、鼻口も一緒に縛り、前両足もきつく縛り胴のロープにつなげて暴れられなくします。そして、必死に担いで牛舎の床へ運び、ククリ(山刀)で喉元を刺すと血が噴き出すのを容器で受けます。後で内臓肉と煮込むためです。

 ククリをさらに深く刺し、血が十分抜けたのを確認して首を落としました。叫べないよう鼻口縛ってあるのですが、チョジェはもがきながら首を落とされる。これがここでの迅速とは言えないけれど、おいしく食べる方法です。

 その後は湯をかけ、ステンレスのコップの先で毛を剃り、ガスバーナーで毛を焼きます。「昔はチョジェの剛毛の買取り業者がいて、質のいいブラシに使われたものよ」と、毛まで無駄なく使われていた頃を懐かしむ会話も聞かれました。

 何度も水洗いしてナイフで時間をかけて毛を剃り、殺菌効果のあるターメリックと灰の粉を湯で溶いて塗ると、精肉っぽく見えて来ました。そして慎重に腹を裂いて、内臓を取り出して首や肩や腿、あばら肉などに分解。豚足は解体に来た人たちが自由に持ち帰えることになっています。そして肝臓と心臓を合わせ、豚独自の計量単位1ダルニ(2.5キロ)の中に大雑把ですが各部位が平等に含まれるよう、肉塊を切って仕分けます。

 計量は、10年前は天秤測りでしたが、今はきっちりデジタル計量器です。これと別に胃と腸は水を通して排泄物を流し、裂いては何度も水洗いしてから茹でます。消化管の下処理は大抵、女性らが担当し舌・耳・鼻や頭肉、残りの内臓肉と血を一緒に煮込みます。夕方、ムシロを敷いてはシコクビエの蒸留酒と一緒に、手伝いに来た人、その場に居合わせた人、みんなで食べて帰られました。

 その後、少し残してもらった腸に血と米と香辛料(ガラムマサラ)、ターメリックを腸詰めにして煮込んだり(燻すともっとおいしい)、冷蔵庫もありますが十分過ぎる肉塊が残ってあるので燻煙で燻して干し肉にして、ようやく長い一日が終わりました。

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■各部位が平等に含まれるように仕分ける
 1頭目の雄は23.5ダルニ(58.8キロ)、2頭目の母豚は17ダルニ(42.5キロ)。白豚の半分以下の重量です。そして1ダルニ800ルピー(800円)で地域の人らに売りました。2011年の豚売買の記事では当時1ダルニ400ルピーでした。

 残り1頭。収穫残渣の処理や畑の堆肥も要るので、僕の留守中もまだしばらく、おばあちゃんと9歳の娘で面倒を見ることになりました。
                        (藤井牧人)


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