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アソシ研リレーエッセイ
エネルギー「危機」と原発



 「危機」という言葉が巷に溢れている。「気候危機」「食糧危機」など、以前から深刻な危機として提起され、真面目に考えるべき問題もあるが、意外とそうでもない「危機」もあるようだ。「危機」を煽って市場経済のビジネスに繋げていくという典型的な手口、例えば「コロナ危機(パンデミック)」が製薬会社の利潤追求のネタになっているように「原発ビジネス」も形を変えて再び動き出そうとしている。

 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、原発推進政策に否定的だった欧米各国は原発政策を変化させている。例えば、英国政府は2022年4月6日、エネルギー自立を促進するためのエネルギー安全保障の強化策を発表。新たな計画は、2030年までに最大8基の原子炉を新設する。原発の廃炉を明言してきたドイツ政府も政策転換を示唆している。

 また、原発新設には消極的だったアメリカ政府の下で小型原発市場という新たな原発ビジネスが台頭してきている。日本でもこの小型原発市場への参入を目指して、「三菱電機、日揮HD、IHI、日立製作所と米GEとの合弁会社日立GE、三菱重工業」などの企業が、数年前から小型原発市場への参入を目指して、出資や開発を進めているそうだ。

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 報道によると、「岸田文雄首相は8月24日、首相官邸で開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議(議長・首相)で、次世代型原発の開発・建設や原発の運転期間延長について、「年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してほしい」と指示。電力の中長期的な安定供給確保が狙い。正式決定すれば、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、新増設などを凍結してきた政府方針の大きな転換となる。既存の原発の活用では、事故後に導入した新規制基準をクリアし地元の同意を得て再稼働した実績がある10基に加え、首相は7基の追加再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を取っていくと述べた。来年夏以降の再稼働を目指す。政府は原発事故後、新増設と建て替えを凍結し、昨年10月に閣議決定したエネルギー基本計画でも可能な限り原発依存度を低減するとしていた。しかし、ロシアが今年2月にウクライナ侵攻を開始したことに伴うエネルギー価格の高騰や電力需給の逼迫を踏まえ、原発のさらなる活用が不可欠と判断した」とのことだった(時事ドットコムニュース)。

 岸田内閣は、気候変動対策としての「脱炭素」とエネルギー危機への対策であるかのように説明しているが、日本企業の小型原発市場への参入を後押しするのが目的だろう。岸田総理の言う次世代型原発とは、出力30万キロワット以下の小型モジュール炉などの小型原子炉のことだ。

 福島第一原発の事故は、非常用電源などを津波で喪失したことによって、冷却機能が失われてメルトダウンを起こした。原発企業によると、小型炉は格納容器ごとプールに入れて動かし、出力が小さいため、非常用電源や追加の冷却水がなくても、炉心を冷やして停止させられるから安全だということらしい。

 また、離島や僻地、災害時の電源として開発が進められている三菱重工の超小型原子炉(マイクロ炉)は、炉心サイズが直径1m×長さ2mとトラックで運べる大きさで、2030年代にも商用化する計画だという。離島や僻地、被災地にそんなものを持ち込まれる住民側にとっては全く迷惑な話だが、超小型原子炉が、街中や高速道路をコンテナトラックに載せられて、すぐ近くを走っているというのも迷惑な話、というよりちょっと怖い気がする。

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 8月27、28日に実施した朝日新聞の全国世論調査(電話)では、原発を新設したり、増設したりすることに「賛成」は34%で、「反対」は58%だったそうだ。当然の結果だろう。小型原子炉も使用済み燃料を長期間冷却しながら貯蔵する必要がある。ただでさえ課題山積の原発のごみ問題をより複雑にするだけだという指摘もある。
 巷に溢れた「危機」の数々は、そもそも人間の経済活動によって生み出されたものばかり。「エネルギー危機」への対策としての新たな原発ビジネスという経済活動は事態をさらに悪化させるだけだと思われる。私たちは、問題の根っこに目を向けて根本的に解決する方法を探していくべきだ。

                                  (田中昭彦:関西よつ葉連絡会代表)



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