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2022年京都府知事選挙をめぐる動き 報告

政治を自分の暮らしに引きつける


「市民選挙」を目指す模索

 4月10日、京都府知事選挙の投開票が行われた。共産党以外のオール与党体制を固めた現職と共産党の推薦する新人の一騎打ちという、これまで京都で続いてきた構図が繰り返され、二期目を目指す現職がダブルスコアで圧勝する結果となった。ただ、その背後では、無党派の市民勢力が新人候補を支援し、従来型の構図を転換しようとする動きも見られた。5月6日、市民勢力として選挙に関わったお二人に問題意識や今後の展望をうかがうことができた。以下、その概要を紹介する。(文責は当研究所)


はじめに

 京都府知事選挙の立候補者は、自民、公明、立憲民主、国民民主が推薦する現職の西脇隆俊氏(66)、共産が推薦する新人の梶川憲氏(62)の2名。選挙結果は、西脇50万5651票(得票率66.80%)、梶川25万1261票(得票率33.20%)、投票率は37.58%である。

 西脇氏は国交省の審議官や復興庁の事務次官などを経て、前回2018年の選挙で初当選。ただし、その際は新人同士の対決でもあり、構図としては今回と同じながら得票は40万2672票(55.90%)、対抗候補は31万7617票(44.10%)と接戦だった(投票率は35.17%)。それに比べると、今回は現職の優位性が効力を発揮した結果と言えるだろう。

 一方の梶川氏は労働組合の地域センター「京都総評」の議長でもあり、無所属とはいえ共産党色が強い候補と見られた可能性がある。また、立候補表明が2月10日と、現職に比べ1ヶ月遅れの選挙間際だったことも影響したと考えられる。

 2018年の知事選挙では、共産党系の組織とされる「民主府政の会」や市民運動関係者などが応援団体「つなぐ京都」を結成し、共同で選挙運動に取り組んだ。この流れは2020年の市長選挙、さらには今回の知事選挙にも引き継がれている(市長選挙に関しては、「京都市長選をめぐる座談会報告:市民と政治との接点を求めて」[本誌184号、2020年4月30日]参照)。


食べること、暮らすことと政治

 今回の知事選挙をめぐって市民勢力として深く関与した、井﨑敦子さん、春山文枝さんのお二人にお話をうかがった。

 井﨑さんは1964年生まれ。大学生協に勤めた後、オーガニックの八百屋さんを始めた。現在は介護のパートをしているという。

■井崎敦子さん(向かって左)と春山文枝さん
 「2013年に生協を退職した後に一人で小さな八百屋を始めました。人が集まれる場所をつくりたかったんです。そのうち若いお母さんたちが集まってくるようになりました。その後、2015年に安保関連法案の問題が話題になって、『なんか意思表示したいよね』という話になったんです」。

 何かしたいものの集会やデモに参加するのは気が引ける、そんな周囲の人々が関わりやすいやり方はないだろうか。そう考えた井﨑さんは、青地に白文字で「I hope Peace(平和を願う)」と記した旗を配布し、それぞれが好きなように意思表示してもらう「ピースフラッグプロジェクト」を始めた。

 その後、ピースフラッグの仲間たちと「京都ファーマーズマーケット」を立ち上げ、現在も毎月一回続けているという。食べること、暮らすことの中で政治を考えようとする姿勢が窺える。2019年には、京都市議会議員選挙に左京区選挙区から無所属で立候補。組織的な後ろ盾もない中、当選まで350票差と善戦している。

 他方、春山さんは国際環境NGO(非政府組織)での活動を経て大学の教壇に立った後、2009年には友人と共同で「知る、感じる、つながる」をテーマにした多目的カフェ「かぜのね」を設立、さらに町家を借り、京都近郊の生産者による乾物や生活雑貨を中心に扱う「すみれや」を運営している。

 井﨑さんの選挙、この間の知事選・市長選に深く関わる一方、2020年9月には「京都の自治を考える。京都から自治を考える。」をスローガンに、自治や民主主義について議論し行動する集まり「ミュニシパリズム京都」を設立した。

 ミュニシパリズム(Municipalism)とは地域主義ないし自治体主義と訳すことができる。世界中で強まる市場化・民営化の動きに対抗して「公共」を取り戻したり、地域に根ざした農と食をめざす取り組みであるとともに、そこに至る政策決定の過程そのものを市民の手で作り上げようとする思想と行動である。

 井﨑さんと同じく、生活の中から政治を問い直そうとする志向が鮮明である。

【参考】
ピースフラッグプロジェクト:http://peace-flag.jp/
京都ファーマーズマーケット:
 https://www.facebook.com/kyotofarmersmarket/
かぜのね:https://www.kazenone.org/
すみれや:https://sumireya.org/
ミュニシパリズム京都:
 https://municipalismkyoto.wordpress.com/



府知事選挙をめぐって


 ――知事選挙への関与について、お話しいただけますか。

 
井﨑:前回の知事選挙では選対に入っていませんでした。共産党以外のオール与党体制になっているのを見て、仲間たちと「おかしいよね」なんて話し合ったりはしていました。そのうち石田(紀郎)さんたちが「つなぐ京都」をつくったので、ビラ配りを手伝ったり。それくらいでしたね。今回は選挙対策本部(選対)にも入ったし、「つなぐ京都2022」の共同代表にもなったんですが、これから選挙だって時に自分がコロナで陽性になったり、やっとそれが明けたと思ったら父親の具合が悪くなってしまったり……。

 ――2年前の市長選挙では、候補者選びも市民勢力の主導だったと聞いていますが、今回は候補者の決定も直前で、人選もオーソドックスなように感じました。そのあたり、どういう議論があったんでしょうか。

 
井﨑:最初は梶川さん自身も候補者探しに動いていました。関係者の中で名前を挙げて打診もしていたんですが、なかなか決まらなくて。共産党の人たちも、明らかに共産党系の候補者を避けようという雰囲気はあったみたいですが、私はあまりそこにこだわらず、市民が応援する形をとったときにどうなるんやろうって思いながら、「梶川さん出られたらいいじゃないですか、労働組合の存在意義が見直されているときでもあるし」と、そんな話をしましたね。
 ■ピースフラッグ(すみれやHPより)

 私たちは「井﨑敦子と草の根プロジェクト」って作っているんですが、市長選の時はその仲間たちがかなり動いてくれたんですけど、今回はホンマに盛り上がらんかったというか、「知事選まではようせんわ」とか「(現職が)二期目やからどうせ勝てんやろ」とかいう反応が強かったんですよ。

 ――今回、梶川さんが打ち出した政策
(注1)は「つなぐ京都2022」の中で一から決めたんですか。

 
井﨑:一からではなくて、叩き台は選対から出てきて、それに対してメーリングリストでいろいろ意見を出す形で作っていったんですが、それがなかなか反映されないんで、会議の時に結構議論して、最終的に私と春山さん両方が出した意見が入りました。一から政策を考えていくような時間はなかったですね。

 
春山:候補者がなかなか決まらなかったから、せめて政策はいまから話し合いましょう、ということで、前年の晩秋ぐらいからグループごとに分かれて論議をしたり。それをもう少し広い範囲に拡大したりはしたんだけど、それが限度でした。それほど深い議論はできたわけではなかったし、それをもとに最終的には梶川さんがまとめた形ですね。

 ――その中で柱にしたのはなんですか。

 
井﨑:やっぱりコロナ対策と保健所の拡充ですね。あと、わりと鮮明に反原発を打ち出したのと、保育園の待機児童問題とか具体的な話をかなり出されたと思います。春山さんは農業政策、私は教育政策のところに関わりました。ただ、選挙運動の最後の方は、街頭では北山エリア再開発の問題(注2)と北陸新幹線の延伸問題(注3)を中心にアピールされていましたね。

 
春山:キーワードとして「公共」という言葉はよく使っていたと思います。医療でも教育でも民営化が進められて、財政支出が削られているから、それに対して公共の役割を改めて訴えるというのは、ずっと柱としてあったと思うけど、ちょっとわかりにくかったかな。

 ――ただ、西脇氏の方は、新幹線の延伸問題は「それは国の問題」として争点化を避け、ひたすら4年間の「実績」を訴えていたようで、なかなか対決にはならなかったようですが。

 
井﨑:前回の知事選の時もほとんど市民の前に出てこなくて、ひたすら政党関係や地元企業、地域団体に根回しをする形の選挙でした。

 ――選挙戦の過程で、注目すべき反応や手応えはありましたか。

 
井﨑:街宣車に同乗したり、最終日に錦市場の練り歩きに行った時には、半分以上の人が店から出てきて握手を求められたりして、反応がいいなと思いましたね。あと、友人の知り合いの保育士さんたちが、自分たちで自主的にラップをつくって動画を撮ったり、選対会議の枠外で自主的に動いている人の姿が見えて面白いなと思いましたね。北山エリア再開発の問題に取り組む「なからぎの森の会」の人たちは独自に自転車や徒歩で宣伝したり、すごい頑張られたと思います。

 (注1)梶川府政 重点プラン『府民とともに』―人も環境もかがやく京都へ
 女性副知事実現、声なき声を知事室へ。現場第一、暮らしの身近なところへ府政を。
1、公共の力で、いのちを守り育む
 保健所や土木事務所を地域に再開し、地域のネットワークをつくり、どこに住んでも、感染症対策や災害対策が届き、命と暮らしを丸ごと守る。
 医療費・教育費の無償化へ流れを拓く。
2、府が発注する仕事で、時給1500円以上と安定雇用、地域経済を潤す
 地産地消を学校給食から。地域の仕事興しなど、市町村の地域経済を守る努力を徹底応援する。奨学金返済支援、地域の主役、若者の定住を支援。
 消費税減税やインボイス制度中止など、地方の声を国に届ける。
3、原発は止めて、なくす。府民を守るために国に対しても行動する。
 米軍基地など、いのちや暮らしと両立できないものは、なくす。
4、環境破壊をやめて、持続可能な京都をつくる。
北陸新幹線延伸計画をストップ。
 北山エリア計画など街壊し、大型風力発電による環境破壊でなく、公共事業は住民とともに。
 (注2)京都府が府立植物園や府立大学など文教施設が集まる京都市左京区の「北山エリア」を再開発しようと計画している問題。在学生2000人の大学に1万人を収容するアリーナを建設し、隣接する植物園の環境が激変するなど、商業化の弊害が危惧されている。
 (注3)北陸新幹線では敦賀・大阪間の延伸が計画され、現在は環境影響評価が行われている。同計画は京都市の真下に直径10m超のトンネル数十キロにわたって掘るものとされている。地盤や水脈などの自然破壊、残土処理や工事に伴う環境破壊とともに、巨額の財政負担による自治体財政の悪化が懸念されている。

【参考】
つなぐ京都2022:
 https://facebook.com/つなぐ京都-2022-119617446100903/?ref=page_internal
井﨑敦子と草の根プロジェクト:https://izaki-atsuko.net/



つながりをどう広げるか


 ――草の根プロジェクトが主催された4月3日の催し
(注1)に参加しました。これまでだと、労働組合や共産党系の人たちの発想は、民主的な行政が先頭に立って社会福祉政策を実施するイメージが強く、市民との対話を通じてボトムアップで政策を決定していくといった発想は弱いように感じていたので、正直言って驚きました。

■京都ファーマーズマーケットのお知らせ(同HPより)
 井﨑:前の市長選の時にもいろいろ思うことがあって、当時の選対会議であれこれ意見交換した記憶があります。その時は印鑰さん(注2)に来ていただいて、候補者の福山(和人)さんとコラボする企画をしました。一般参加が60人ぐらいあって、いろんな意見が出ました。例えば、私は農薬による健康被害の話をしたんですが、福山さんはその時“まずは学校給食へのオーガニック導入を政策に入れます”と言われて会場から拍手が上がったんですが、こんなやりとりがあちこちで現れて、政策とか候補者が決まっていくのが本来の姿だなと思ったんです。今回はコロナと家庭の事情で、企画はほぼ春山さんにお願いすることになりましたけど。

 
春山:私は労働組合についてほとんど知らなくて、市長選に関わった時に、どんどん物事が進んでいくんで、ついていけなくて。そのあたりには違和感がありましたね。そういう時、井﨑さんはズバッと意見を言ってくれるんですが、かなり受け入れてもらえるようになったと思います。今回はとにかく時間がなくて十分な議論はできなかったんですが、できるだけオープンに意見を聞こうという雰囲気はありましたね。

 ――知事選挙は京都府全域が選挙区になりますが、市民側のネットワークは京都市以外に拠点とか連携があるんでしょうか。

 
井﨑:個人的な狭いつながりしかないという自覚はあります。もっと言えば、地域ごとにそういう狭いつながりが育っているのかいないのか、育っているけれどもつながっていないのか、その辺の分析もできていないのが実際のところですね。現状では、京都市外となると共産党か労働組合のパイプしか見えていません。市内でも伏見区や南区になると、つながっている人以外の独自のいろんなネットワークはなかなか見えませんね。直接政治的なことではないけども地域の課題とかに関わっている人たちはいるわけで、そことつながれていないんですよね。今回の選挙で、改めてそのあたりに気づかされました。でも、選挙のために市民のネットワークをつくるって、それはそれで本末転倒ですよね。

 
春山:市民が選挙に関わることの可能性と限界を感じますね。私や井﨑さんをはじめ選対に関わっている市民はそれぞれ仕事を持っているわけで、仕事が終わって駆け付けて選挙のことをやるのは本当に大変です。その分、政党や労働組合の人たちが実質的な仕事をやって下さって、それなしに選挙があり得なかったもの事実なんですが、その実質的な仕事のスピードに私たちがついていけなかったのも事実で、その意味では「市民選対」と言いづらい部分もありましたね。

 
井﨑:お客さんとして、お膳立てしていただいて、そこに意見だけ言うのかっていうのもあるし……。私はいつも選挙制度そのものがおかしいと思っているんですが、組織的な裏付けがないと実際には選挙なんてできませんよね。今後のことを考えれば、文字どおり市民選対を育てて、自分たちが段取りできるぐらいになっとかないと、と思うんですが。

 (注1)「知事が代わればどこまで変わる?~京都の公共~」と題し、井﨑氏の司会で、立候補者の梶川憲氏、オランダのNGOトランスナショナル研究所で水道の民営化問題を中心に研究提言を行う岸本聡子氏によるパネルディスカッションがハートピア京都で行われた。
 岸本氏は、「自助・共助・公助」の議論に巻き込まれてはならないとして、公(自治体)とコミュニティが協力して共同で政策とコモンズ(公共財)と公共サービスを作り出す「公・コミュニティ連携」の実践について紹介。
 これを受け梶川氏は、コミュニティの意向を顧みず、北陸新幹線の延伸など一部企業の利益に奉仕した政策に追随している現府政を批判。公(自治体)が上から市民(主権者)やコミュニティに政策を下すのでなく、両者が共同して政策を策定し実現していく「京都モデル」をつくっていきたいと表明した。
 (注2)印鑰智哉氏はアジア太平洋資料センター(PARC)、ブラジル社会経済分析研究所(IBASE)、Greenpeace、オルター・トレード・ジャパン政策室室長などを経て、現在はフリーの立場で世界の食や農の問題について調査、提言している。



市民選挙を実現したい


 ――来年の統一地方選挙では、また左京区で立候補される予定なんですよね。

 
井﨑:前回はよく分からないままにワッとやって、ピースフラッグの仲間たちがすごく動いてくれたんですよ。みんな女性ばかりでしたけど、今回は男性もかなり入ってくれています。その意味では基盤は確実に広がっていて、私を議員にすることよりも左京区で市民選挙を実現しようということで、役割分担をしながら、前より早く動けていると思っています。

 参加してくれているのは、いわゆる運動関係の人はほとんどいなくて、だいたいみんな小商いをしていたり、ピースフラッグの仲間だったり、日常的には政治とか運動に関わってはいない人たちですね。初参加の人もいます。それが逆に可能性かなと思います。

 ――どんなことを主張するつもりなんですか。

 
井﨑:北山エリア再開発の問題でも新幹線延伸の問題でも、行政の人と話すたびに「一部の人の意見だけを聞くわけにはいかない」とか言われるんです。でも、一人でも主権者の意見ですよね。そういう声も拾って、多くの人たちの中で議論して、最終的には政策にしていくような、そういう積み上げていく仕組みがホンマにないなと思っていて、そこを何とかしたいんです。もっと議会に市民が関われる仕組みとか、議会にかける前に市民の中で議論したものを持っていけるとか、一人の意見でも届けられる仕組みをつくりたいと思っています。右とか左とかではなくて、まずそれが必要じゃないでしょうか。

 ただ、いま選挙のポスターの文面について相談しているんですが、やっぱり戦争に反対するとか原発は要らないとか、あらゆる差別に反対するとか、そういう立場で市政に関わりたいとは書こうと思っています。「市民の声を届けます」なんて、誰でも言いそうなことなので。

 
春山:左京区ではあらゆる政党が候補者を立てるみたいです。れいわ(新選組)も出るという話です。京都市議会はこれまで無所属の候補者が当選したことはないそうで、そういう意味では厳しいんですが、そうは言いつつもやっぱり地方から変えていきたいという思いは強いですね。

 
井﨑:私はオーガニックの八百屋をやって3年で結構な赤字を抱えたんですが、その時に思ったのは、なんでこんなに家賃は高いのかとか、人々の仕事を支える仕組みがないんじゃないか、と。失敗すれば「あの人は才覚がない」とか言われるし、借金を返すのがどんなに大変かと身を持って知ったんですけど。だから、小さい商いを続けている人たちは、行政とか世の中に期待するんじゃなくて、自分は個人でこの場をこういうふうにして行くんだという思いが非常に強いんですね。そういう思いと政治が、なかなか結び付かない。

 ただ、最近は無理に結びつけなくてもいいのかなと思っているんです。人間の営みの可能性はいっぱいあるんだけど、選挙になると勝った負けたとか、大きな政策になると自分たちの声が届かなかったり。たぶん政治の方に問題があるんやなと思っています。逆に、政治を自分の暮らしに引き付けながら、安心して暮らせる街をつくっていくことが重要じゃないでしょうかね。

 いま京都市がやろうとしていることがひどいんですよ
(注1)。しかも、それを目立つ形で展開しているので、「そうじゃないでしょ」って言ったときに共感してくれる人もきっとたくさんいると思うんですが、現状では4割しか投票に行かない。じゃあ、行かない6割の人たちとどんなふうに一緒にやれることが見つけられるか、そんな感じで悶々としています。


暮らしの中で考えている人とともに

 ――「市民選挙」と言う場合、組織ぐるみでなくあくまで個人で、時には一緒にやったり、時にはそれぞれでやったり、それは「市民」のいい面だと思います。ただ、そうは言っても、なにがしか問題意識の共有のような作業は必要だと思うんですが。

 
井﨑:選挙に限らず広い意味で、ですね。いわゆる本を読んだり書いたりする人たちだけが考えるんではなくて。春山さんも商売されていますが、「左京ワンダーランド」という小商いの人たち100店舗くらいが集まるお祭りを毎年していて、私もその事務局にも入っています。小商いの人たちって、まさに自治を実践してるんですよね。ところが、そうしたお祭りをやるにしても保健所の規制がすごく厳しくなっていて、事務局も出店者もかなり出費しないといけない。その結果人が集まりにくくなってきているんで、「そういうのおかしいよね」とか、「やりたい仕事が続けられるように」とか、そこから政策を作っていけるんじゃないかと思っているんですけど。

 
春山:SNSも使ったりして、広く知ってもらおうとしてはいるんですが、自分事として考えてもらうためには対話していくしかないのかな、と。私もお店でお客さんと話したりするし、前回の選挙の時は「小さなお話会」を何十と、たぶん60回くらいやったり、最近は左京ワンダーランドに参加しているお店を一軒一軒訪ねて話したり、少しずつ広げていくしかないんだろうな、と。
 ■小さなお話会[草の根プロジェクトHPより)

 
井﨑:個人のお家に集まったり、八百屋をしていた時のお客さんが集めてくれたり、春山さんが集めてくれたり、行く先々でいろんな話をするんです。例えば、主婦の人たちが原発反対と思っても、自分の親とか兄弟に言うとコテンパンに批判されて、自分の親すら説得できないってヘコんでいる。でも、身内が一番強敵ですからね。「そんなところで頑張って疲弊しなくてもいいよ」なんて話をすると、「ああそうか、自分たちがやりやすいようにやればいいんだ」とかね。そういうつながりはいまも続いていて、それはありがたいなと思います。参加される方は女性が多いですね。家庭や地域で発言権がなかったり、思っていることをどう表現したらいいか分からなかったりする中で、それでも人って一生懸命考えるんだなと、励まされましたね。

 ――そういう集まりを60回もするなんて、なかなかできることではないですね。

 
春山:選挙をやると、どうしても「勝った負けた」に神経が集中しちゃう。もちろん勝ちたいし、勝って次に進みたいと思うからやるんだけど、目的と手段が逆転する恐れもありますよね。「議員にならない方がいろいろ動けるんじゃない」って言われたりもするけど、今回もこの知事選をきっかけに北陸新幹線の延伸問題を知った方も多いと思うし、むしろ選挙を利用するぐらいの気持ちが必要なのかも、なんて。最終的にどういう社会にしていきたいのかが明確なら、どんな形でもやれることはあると思うし。

 
井﨑:私自身、落選したからって落ち込んだりしないし、みんな「一回やったら懲り懲りや」と言われますが、そんな感じもなくて、むしろみんなと考えながらやるのは楽しかったですけどね。ホンマに素人が集まって、公選法を勉強しながらやったんですよね。その上で、今回は市民選挙なんだとアピールしていこうと思っています。何か組織に縛られるのは嫌やけど、自分の暮らしの中でいろいろ動いている人はいるので、そこが緩やかにつながるような関係を示せたらいいんじゃないでしょうか。

 ――今後の展開を楽しみにしています。今日は、どうもありがとうございました。

 (注1)この間、京都市は「財政難」を理由に市政リストラを計画し、行政サービス切り下げの一方、市民負担の増大を公言している。例えば、民間保育所や福祉事業所への補助金カット、国民健康保険料やコミュニティセンターなど施設使用料の引き上げなど。

【参考】
左京ワンダーランド:https://sakyo-wonder.com/


            (京都市左京区、市民環境研究所にて  聞き手=山口協:当研究所代表)
  


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