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コラム 南から北から
改めて思う、繁殖農家の役割


 一気に春がやってきて毎日ぽかぽかと暖かく、この暖かさで牧草があっという間に収穫適期を迎え、毎日牧草収穫に忙しく過ごしています。冬の間、牛たちには枯れた萱や畔草をあげていました。だんだんと飽きてきたのか残すようにもなり、しまいには放牧場の木の皮を食べるようになりました。そうやって牛は自分たちで必要な栄養を摂取していくようです。やっと出てきた青々とした牧草は私たちが見ても美味しそうで、あげると一瞬でなくなってしまいます。みんなが美味しそうに笑いながら食べているのを見ると、牧草収穫の励みにもなります。

 誰が号令をかけた訳でもないのに、ある日を境にこれまで静まりかえっていた田んぼに一斉に人々が出てきました。畔塗や荒起こしが始まり、いよいよ田んぼの季節の始まりです。私たちが借りている田んぼの集落でも「出役」という水路掃除や草刈りが行われます。今では実際にお米を作っている人は少なくなり、出役の必要性を疑問視する声も上がっています。それでも地域のため、慣習のため、腰の曲がったお婆ちゃんまで鎌を片手に参加しています。

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 子牛の競り市が1月にありました(毎奇数月の25日開催)。いつもは牛の運搬車に乗りきれず、私はお留守番でしたが、今回は出荷する牛がいなかったため、結婚して初めて夫婦2人で行ってきました。毎回、夫から市場での話を聞いていたのですが、話に出てくる人々と実際にお話ししたことはなく、とても楽しみでした。

 私たちの牛をよく買ってくれる肥育農家さんにも、その後牛たちが元気にしているか聞くことができました。すると、「君たちの牛が他のところから買った牛に比べて一番よく食べて、元気にしている」とのことでした。それがとても嬉しくて、誇らしくて、自信に繋がりました。

 実際に牛を見て、自分なりに評価してみて、どれくらいの競り値がつくのか予想してみたりして、目を養うのにもいい勉強になりました。子牛を育てるのが上手な繁殖農家さんは評判が高く、購買者の中には殖農家で買う牛を選んでいる人もいました。“ここの牛は間違いない”そう言われる繁殖農家になりたいと思いました。そのためには、毎回丁寧に牛を育てることしかありません。

 生まれてくる牛は大きい子もいれば小さい子もいる。元気いっぱいで手に負えない子もいれば、病弱で手のかかる子もいます。どんな子も競りに出る頃には、その子なりの最大限の魅力を発揮できるよう、やれることをやるのが私たちの役目だと思います。

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■6月に家族が増えます。この先も笑って過ごせるように、力を合わせて頑張ります!
 前回も書きましたが、放牧場の拡大も進めています。山の地主を探すのにはとても苦労して、正確な情報が残っていない、人の記憶も曖昧、記録も信憑性がない、四方八方塞がれた状態でしたが、夫の執念は凄まじく、なんとか地主を見つけ、交渉までたどり着くことができました。地主さんは、これまで夫が続けてきた牛飼いの取り組みや姿勢を評価して、貸すことを検討してくれました。

 海外情勢も悪化し、さらに飼料価格の高騰が予想され、今後の見通しはあまりよくありませんが、周りにはたくさんの見守ってくれている人たちがいます。なるようになるさで試行錯誤しながら地域の中で牛飼いを楽しんでいきたいと思います。

       (松本木の実:高知県室戸市在住)



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