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リレーエッセイ:薬害肝炎、根本的解決の道遠し

納得できない政府の対応

薬害C型肝炎集団訴訟の原告が求めていた国の補償をめぐる攻防は、政府が議員立法による患者の一律救済へ踏み出したことで、大きな進展を見せ始めた。

2002年10月に始まった薬害C型肝炎患者による集団訴訟は、06年6月から07年9月にかけ、各地の地方裁判所での判決が出そろった。その結果、仙台地裁を除く4地裁で国の責任を認める判決が出された。政府は今年11月に出た大阪高裁による和解勧告に沿って、血液製剤の投与時期を区切って補償を行う和解案を原告側に打診したが、強い反発を受け、解決策を模索していた。

同時期に、「宙に浮いた年金記録」の照合作業で、政府が断言した来年3月までの完了が絶望的であることが判明。福田政権は発足後3ヵ月で、完全に失速し、支持率が30%台に急落する原因となった。こうした事態の打開策として、今回の議員立法による患者一律救済への方針転換が打ち出されたものと言える。

検討されている法案の内容は、残されたカルテ等によって、血液製剤の投与が確認される全ての患者(約1000人程度と予測されている)に、病状に応じた補償を行うというもので、国の薬害被害を防げなかった責任をも認めるものとなる模様。

しかし、これで問題が全て解決とはならない。過去に薬剤を投与され、C型肝炎に感染した患者でも、病院でのカルテ保存義務期間が相当以前に済んでしまった現時点で、カルテによる投与証明が可能となる患者は極端に限定されているからだ。原告側の推定で、こうした感染患者は1万人以上にのぼる。準備されている立法措置では、こうした患者への救済の道は閉ざされたままとならざるを得ない。改めて、「国による事実の隠蔽」という根源的過失を問う必要があるのではないか。

現在、C型肝炎の感染者は200万人と推測されている。ここまで感染が拡大することを放置し、患者による集団訴訟で追いつめられ、ようやくフィブリノゲン投与の事実を公表するという図式は、薬害エイズの場合と何ら変わっていない。しかも、C型肝炎に対する治療薬として、インターフェロンとリバペリの併用治療法が定着し始めたこの時期を待っていたかのような政府の対応は、患者救済の一環として、非常に高額な治療費を税金で補助すると称して、いわば、製薬会社を税金で太らせるものという他ない。

3年ほど前、私もC型肝炎ウィルスに感染したことを知りました。感染ルートは不明ですが、私の妻は1980年代に感染した、C型肝炎のベテラン患者です。彼女が出産した病院は小さな個人病院で、今では廃業していて、カルテによる薬剤投与の確認は不可能です。もう少し早い時期に、事実が公表されていれば、こんなことにはならなかったかも知れないのです。

製薬会社と国が感染を準備し、ウィルスを拡げ、治療薬を開発するに十分な時間を見測って、事実を公表し、税金で薬を処方する。こんなひどい話はないと思うのですが。(津田道夫)


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