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北大阪商工協同組合がつくりあげてきたもの

はじめに

「人間らしい生き活きとした暮らしと、人と人との顔の見える関係を大切にしたい。地域で共に生きる。生活まるごと生き活きと!そんな有り様をどう実現していけるか?」 北大阪商工協同組合が、当時珍しい異業種の事業協同組合として発足したのは、そんな問題意識からだった。その後およそ25年、組合員企業の努力によって、経済的には一応の安定が確保された。間違いなく大きな成果である。だが反面、初発の目的はどうなったのか、日常の経済活動に流され、根本的な部分が蔑ろにされているのではないか―。各方面からそうした意見や批判が提起されるに至り、去る11月23日には、現状と今後を考えるための組合員集会が行われた。以下は、その際に提出された意見の一つである。

「北大阪商工協同組合」とは?

北大阪商工協同組合は組合員企業数が79社の異業種中小零細企業の協同組合です。設立は1983年4月。設立当初は、大阪府の北摂地域に根ざして、さまざまな社会運動に取り組んできた人達が、仲間の働く場づくりをめざして設立した中小企業10数社が集まってつくられた協同組合でした。設立から25年を経て、現在、商工協同組合の中核となっているのは、安全で自然な食べ物を生産し、会員に宅配する事業を関西一円で展開している、関西よつ葉連絡会に参加する企業で、他には、自動車修理業、コンピューター関連業、旅行業、建設業、福祉事業といったさまざまな業種の会社が集まっています。

商工協同組合設立の第一の動機は、もちろん、経営基盤の極めて弱い仲間企業が、協同し合って売り上げを支え、資金繰りを支え、労働力を支え合うことでした。事業の存続そのものが困難な厳しい市場競争の渦中で、なんとか協同の力に支えられ、事業の基礎的な力を強めていく上で、協同組合が大きな役割りを果してきたわけです。

けれど、商工組合設立には、もう一つ別に、大きな目的があったと思います。事業活動に取り組み、市場競争を強いられる現場を、「何の為に事業に取り組むのか」という原点のところで問い直し、自分たちが目指す“あるべき人間社会”に通じる、違う何かを感じさせる事業現場づくりをめざす上で不可欠な存在として、協同組合が位置づけられていたことです。

各々の組合員企業は、法人格を持つ企業がほとんどで、それぞれ、経営に責任を持つ役員会が組織されています。もちろん、日常的な事業活動は独立して営まれています。しかし、北大阪商工協同組合に参加している企業には、世間一般の企業にはあまり見かけない共通した特徴がつくり出されてきました。もちろん、例外や濃淡はあるのですが、これらの特徴は、北大阪商工協同組合が、組合員企業相互の協同性を高め、そこで働く人間相互の協同性を強めていくために、目的意識的に闘い取られてきた“スタイル”であるといえるでしょう。

特徴その@

「会社は誰のものか」という所有の問題を常に考え、問いかけて行く。そうした質を担保する手段として、株式の協同組合内企業での持ち合いをすすめる。

岩井克人氏によれば、「会社は誰のものか」という問いに対する回答は、大変難しいもののようです。株主か、従業員か、社長個人か―。けれども、北大阪商工協同組合では、“会社は組合企業で働いている全ての人々のもの”という考えから、積極的に組合企業相互の株式の持ち合いを勧め、個々の企業の枠を越えた相互協力、相互批判、相互介入を保障しようとしてきました。

商工協同組合に新たに加わった企業でも、株式の過半数以上を、他の単一企業や個人が所有している場合、時間をかけて、できる限り、組合員企業間での持ち合いに移行することで、ともすれば事業が順調にまわるようになっていしまえば協同することを忘れがちになる企業活動、経営者、労働者に協同性を考えてもらうための仕組みとして、意識的に追求されてきたものだと思います。

特徴そのA

協同計算事業(経理入力の協同事業)を協同組合の日常活動の中心に位置づけ、鰹、工経営センターを設立して組合員企業の経理入力の協同利用をすすめる。

1983年、組合設立と同時に経理センターを開設し、1991年には鰹、工経営センターを設立して、組合員企業の経理処理、税務申告を協同してすすめて来ました。現在、鰹、工経営センターは、組合員企業79社中、55社の経理事務を担っています。この協同事業は、個々の企業で経理処理業務を進めるより、業務の質的管理、コストの両面で、中小零細企業にとってはメリットが大きいことも重要ですが、もう一つ重要な意味は、各組合員企業の経営実態を商工協同組合内に実質上公開することになるという点です。

もちろん、業務を委託されている鰹、工経営センターと組合員企業間での契約に基づき、情報の保守は厳格に実行されていますが、各企業の経営者、役員会の同意を前提に、経理内容は商工組合内で公開され、協同論議が可能となるわけです。株式市場に上場している大企業を除いて、中小零細企業の経理内容は、一般的に個別企業の枠内に封印されています。北大阪商工協同組合では、協同計算事業への参加を通じて、利益処分、資産内容、役員報酬、負債内容等の実態が、積極的に組合員相互に共有され、企業の枠を越えて、協同組合としての実体をつくりあげてきたのです。

特徴そのB

賃金体系は年齢、勤続年数を基礎とした、できるだけシンプルなものを維持する。

賃金体系の最もシンプルな形は、全職員の一律同一賃金です。今でも、北大阪商工協同組合の組合員企業である株\勢農場や叶」戸田農場では、この全職員一律同一賃金が維持され続けています。けれど、さすがにこの賃金体系では、労働者を雇用することが、ほとんど困難となっています。したがって、この二社以外、全ての組合員企業では、それぞれ各社毎に、何らかの基本給体系、諸手当て、職務給が導入されています。

とはいうものの、賃金体系をできる限りシンプルに、基本給と職務手当て中心の給与にとどめようとする努力が、今でも続けられています。役職等による給与差はできる限り小さく、能力給は導入せず、責任者はできるだけ大きな責任を引き受けるけれど、報酬はそこそこに。そんな賃金体系が今でも多くの組合員企業の中で常識化しているのです。もちろん、辞めていく人はいつもあり、不満も相当あると思います。けれど、そんな矛盾を金ではないものでどう克服していくか、協同組合は常にそれを問う場だと考えてきたのです。

特徴そのC

北大阪商工協同組合の企業の事務所の特徴は、「社長室」と呼ぶ部屋がなく、お互いを役職名で呼びあわない。

中には、社長専用の机すらない会社もあります。もちろん、企業内には、最低必要内で役職は存在しています。役職によって、当然、引き受けるべき責任は生じます。けれど、常に効率と成果が問われる職場であっても、基本的には対等な人と人との関係が保障されなければ、働く職場は楽しくありません。

組合員企業では、できる限り、組織の意思決定の過程に全職員が関与し、発言し、かかわることができるルールと関係づくりをめざして来ました。もちろん、決定が持たらす結果に対して、まず責任を持つべきは社長であり、役員会です。けれども協動している全ての人間の意欲や能力を結集できなければ、商工協同組合に集まっているような小さな企業が、市場で生きのびることは非常に困難だと考えてきました。

そして、その動機づけが報酬の多寡しかないと考えることは、協同組合の本質を否定してしまうことにつながるでしょう。そのためにも、職場における人と人との関係は、事業活動の核であるべきだと北大阪商工協同組合は主張してきたのだと思います。

今後の課題

設立から25年近くが経って、北大阪商工協同組合が担うべき機能は、助け合いによる組合員企業の事業活動のサポートから“未来社会につながる事業活動の創造、模索”という側面に比重が移りつつあります。もちろん、それらは切り離せないし、切り離すべきものではありませんが、今、北大阪商工協同組合に強く求められているものは、“競争ではなく協同を”という理念の実体化であると思います。

その時、商工協同組合がつくり上げて来た自分たちのスタイルをもう一度、その理念のところから捉え直し、意識化することが重要ではないかと思うのです。「形」は見えるし、触れることもできるのですが、すぐ、「形」だけになってしまいます。そして、そのうち、「形」すら崩れてしまうものです。

“地獄への道は善意によって敷きつめられている”――悪意を持って、協同を打ち砕こうとする輩に対して、北大阪商工協同組合は強く結束し、果敢に闘ってきました。けれど、限りない善意を持って、献身的に働く理念なき日常もまた、現にある支配的社会に対抗せんとする協同組合の変質に帰結する他ないのです。

北大阪商工協同組合が、その前史も含めれば、半世紀にわたってつくりあげてきた核心を、改めて捉え直し、その意味を確め、組合員企業内で共に働く仲間たちに伝えていく努力が大切だと痛感しています。単にメシを食うための現場から、未来の人間社会を考え、構想し、協同する現場としての事業活動を!(津田道夫:研究所代表)


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