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自分なりの観点づくりから経験の継承を

はじめに

何時が「出発点」か難しいが、少なくとも30年を経過する中、よつ葉グループではこの間、「次世代への継承」が課題となっている。事業の目的と事業の運営、世代間のギャップなど、継承の作業は一筋縄では行かないが、それだけに多様な試みが求められる。そんな観点から、今年下半期に行われた「よつばの学校」について、運営委員の一人でもある田中昭彦さんに解説していただいた。

「よつばの学校」の試みをめぐって

関西よつ葉連絡会の職員研修は、一般の生協や企業のように事業本部・人事部門が全体の研修計画を作るわけではありません。配達・生産の現場から集まった職員が運営する研修部会で、勉強会・講演会・体験・交流会などの研修計画を話し合っています。

よつ葉には、配達・流通・商品企画の事業所だけでなく、牛や豚を育てている農場、豆腐・パン・惣菜・食肉・ハムなどの食品加工工場があります。配達・流通の現場と農場・工場の生産現場との交流や体験は、重要な研修の一つです。

また、各所の職員が自分達で人参などの野菜を育てる「にんじんクラブ」は、農業を少しでも実感したいと十数年前から始めた取り組みですが、今では会員さんの参加も多くなってきています。勉強会や講演会だけでなく、能勢農場に泊り込んでの職員研修など、身近な活きた現場を体験実感することを大切にしてきました。

現場で働いている職員の「自主性」に重心を置いた研修部会の運営は、地域・アソシエーション研究所の提案によるワーキングチーム活動を継承し発展させてきたものです。研修だけでなく各職場の状況・人間関係などについても話し合うなど、次の時代を担う若い職員の交流の場でもあります。

「よつばの学校」は、この研修部会の活動から生まれたのではなく、よつ葉の創成期を担った団塊の世代の中から提案されました。仲間と一緒にメシを食っていくために始めた牛乳配達。共同生活をしながら牛を飼い、畑を耕しながら「自己変革」に取組んだ能勢農場。仲間が増えるとともに生産現場や配達現場の数も増えていき、やがて生産・流通・消費の分野で数十の事業所からなる現在の関西よつ葉連絡会へと繋がっていく(そこだけに繋がったわけではありませんが)。

若いころ闘争に明け暮れた団塊の世代も、今では50代後半。世代交代と子育て(職員教育)も現役最後の大仕事のひとつであることは、間違いないようです。

「自身の考え方・見方を作っていくことは今ある自身のそれを壊すことから始まる。努力せずともカサブタのようにこびり付く『常識』は疑うことがなければ一生しっかりと積もりこびりついて、その人の一生を支配する。そちらの方が圧倒的に多いのだろうが、それでは創造的な仕事は先ず無理」。

これは「よつばの学校」を立ち上げた鈴木伸明氏の言。「自身の考え方・見方」とは、その人の世界観・歴史観であり哲学(思想)でもあります。「あの人、最近変わったね」とか言うときの「あの人」には、何か自身の見方や考え方が変わるような出来事が起きていたりするものです。

社会運動・政治運動の中で、組織活動や思想闘争に日々精進してきた団塊の世代にとって「自己変革」は日常的な課題だったのかもしれませんが、毎日そんな事ばかり起きていたら疲れてしまいそうです。

今年亡くなりましたが、能勢農場の創始者の一人で、団塊の世代にとっても大先輩の方がいました。その方が「あいつらも結構いい加減なものやった」と昔のことを笑いながら話してくれことがあります。早朝の散歩の途中、突然「きみは主知主義だね。主知主義ってわかる?」と言い出したときの深い眼差しを今でも思い出します。思い当たる節もあり、すぐに納得したのですが、歳の離れた方だったので、自分のような未熟で経験不足の者に対しても、ちゃんと目を配られていることに驚かされました。

他者の「世界観・歴史観・人間観」に出会うことは、自身のそれを対象化することであり、そういう過程を経ないと自身の考え方・見方を意識するのは難しいと思います。そして、いい先輩に恵まれることも「自主性」と同じくらい重要なことかもしれません。

2007年9月初旬から12月初旬にかけて実施された第1期「よつばの学校」は、次の3点を課題にしました。@農業や漁業の分野で現状を変革するために第一線で活動してこられた7人の講師の話を聴くこと、A講師の著書を含めて6冊のテキストから選んだ本を読むこと、B講演会やテキストを通して講師や著者の考え方・世界観に触れ、自分の言葉で「自分がこの時代をどう考えるのか」をレポートすること―です。

この原稿を書いている現時点では、第1期は既に終了していますが、「よつばの学校」が目指すところは、まだ始まったばかりです。第1期受講生54名のレポートを読ませてもらった後、次の展開を相談していきたいと考えています。(田中昭彦:関西よつ葉連絡会事務局長)

「よつばの学校」講師と講演テーマ

▼宇根 豊さん「国民のための百姓学−力強い豊かな農の再興のために」

全国に先駆け減農薬運動米の産直に取り組む。山下惣一さんらと「九州百姓出会いの会」を設立。NPO法人「農と自然の研究所」代表理事。

▼小林 亮さん「農の現場から−個人から地域へ広がって、次世代に繋がる「農」と「社会」のために」

有機農業運動の先進地・山形県置賜地方で、価値観を共有できる生産者自らが流通も担う『おきたま興農舎』を設立し、代表として活躍。

▼本野一郎さん「いのちの秩序・農の力−農を変えることが社会の変革に」

大学卒業後、兵庫県下の農協で長年、農業改革に取り組む。「農を変えよう!全国運動」発起人の一人として、有機農業推進法の成立に尽力。

▼水口憲哉さん「海と魚と原子力発電所−各地の漁村で起こっていることを、より多くの人々に知らせること」

東京海洋大学名誉教授。人と魚と水の関係学専攻。地元夷隅東部漁協の組合員。漁村の再生を願って活動。現在、自宅に資源維持研究所を開設。

▼河野和義さん「食の地元学−食品加工の現場から」

陸前高田市にある創業200年の醤油醸造元「八木澤商店」8代目当主として、地域の再生を目指して、各界の有識者と連携し幅広く活動。

▼槌田 劭さん「共生共貧−21世紀を生きる道」

大学教員の一方、高度成長期の「使い捨て」社会を問い直すべく「使い捨て時代を考える会」を設立。「農的くらし」から現代を根底的に批判。

▼中島紀一さん「いのちと農の論理−文化の大本には自然があり、人々と自然が共生する営みとして農業がある」

茨城大学農学部教授・附属農場長、日本有機農業学会会長。地元で耕作放棄地を再生し、地域に新しい農業を育成するプロジェクトに取り組む。


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