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連載 ネパール・タライ平原の村から(111)

ネパールで見た3.11 ネパールから見た3.11

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その111回目。


 あの日、畑にいたら近所のおじさんが「日本で地震・津波があったらしい」と、場所は知らないけれどもテレビで速報が何度も流れていると伝えに来ました。気になり、農作業もほどほどで切り上げて、おじさんの家へテレビを観に行きました。

 仙台空港に津波が押し寄せ、千葉の石油コンビナートの火災、煙が上がる福島の原発。いくつかの同じ映像が繰り返し映されていたのですが、それがどこなのか、なかなか詳細が把握できませんでした。

 その後も連日、東日本大震災・福島第一原発事故が報道され、イギリスBBCやインドの受信放送を近所の家で何度か見せてもらいに行きました。当時ネパールのわが家近辺では、一日のほぼ半分が停電だったのですが、パソコンを町に持って行き、通信事情にも苦労しながら、メールやインターネットでニュースを検索しました。

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 数日後、地元の人から不正確な情報も含めて以下、こんな意見や質問が聞かれました。

 「ニュークリア(原子力)って何ですか?…意味がわからない」
 「日本の友だちは大丈夫か」
 「あんなに豊かな国と聞いているのに、地震で全て失ってしまう」
 「髪の毛が抜けるらしい」
 「こっちは計画停電があるのは当然」
 「日本にはニュークリアというのが50基以上もあると聞いたが本当か」
 「アジアの小国を威嚇するためらしい」。

 そして「なぜ原発があるのか」と。どうしてそんな危険なモノをつくったのか。小学生みたいな質問ですが言っている本人からすれば、小学生でもわかりそうな危険なモノをなぜ日本はつくったのかと。

 僕が暮らすナワルプル郡は、国外居住(移住)による不在者が特に多い郡の一つで、移住先国で結婚された方も多くいます。そしてフランスへ移住した地元のタルー人女性が結婚したフランス人の夫と帰省されていて、ちょうどニュースを耳にして2人で僕を訪ねて来ました。

 フランスの男性は話しながら、胸に手を当てては「世界中が心配している」と、国の枠を超えて切実な表情で語ります。また話しを進めながら今度は、拳を突き上げるようにして「私は原発に反対だ」と。それは日本の原発に対して言っているようにも聞こえたけれども、日本人の僕に対して怒っているようにも見えました。僕は誰かのせいにするような返事もできたのかも知れませんが、ただ自分か恥ずかしく感じて、口をつぐむだけでした。

 読者のみなさんに怒られそうですが僕は、原発事故が起こるまで、何となく何も起こらない(安全)と、遠くで眺めていた一人だったからです。ただ、フランスもまた総発電量の72%が原子力発電(2016年)と後で知って驚きました。

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 ■先日訪れたナワルプル郡クテ村は電線がなかった
 こっちの生活からフクシマを見た時。原発安全神話、安全な放射線量、国民の安全を確保し…、安全な食、安全な農薬基準値、世界の安全な都市ランキング1位東京、3位大阪。ずいぶん過剰な安全に囲まれているという事実に、それは何で必要なんですかと、こっちのお百姓さんらが首を傾げそうです。

                  (藤井牧人)




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