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市民環境研究所から

妄想だけバラまく北陸新幹線


 新型コロナ感染症の猛威は収まるどころかますます勢力を増して人間社会を攻撃している。それに立ち向かうはずの政府は、金をバラまき、あたかも国民のために必死で頑張っているように見せかけている。「Go to ○○」政策はコロナの勢力を増加させただけである。コロナ禍での人々の苦労を少しでも早く減らすために、自分たちの自治体行政をまっとうなものにしなければならない。今こそ『人権と自治』を守り構築する市民運動を作らねばと思う。

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 以前から重大な問題だと思いながら、ほとんど何も動けなかった「北陸新幹線」。その問題に対して京都市内で動くきっかけを創ってくれたのは、京大在籍時に「農薬ゼミ」とともに石田研究室を根城にして活動する「芦生ゼミ」のメンバー長野さんだ。現在は神戸大学の教員であり、京都府南丹市美山町田歌の住民でもある。彼から、「田歌地区では北陸新幹線工事の事前ボーリング調査を拒否する決議を挙げたので、今後の計画地域である京都市民として新幹線反対運動に連帯してくれ」とのメッセージをもらった。そして、11月に京都市内で集会を持ち、計画地域の人々の間で連携構築を合意した。

■北陸新幹線小浜・京都ルートの建設可能性範囲(鉄道・運輸機構の原図参照し、長野宇規氏作成)
 北陸新幹線と京都府との関係を概観すると次のようになる。東京から金沢に至った新幹線網は現在、福井県の敦賀、小浜へと伸び、その後は京都府の丹後地方から南下して現在の京都駅地下を経て京田辺市の松井山手から大阪に行く予定である。京都府内の駅は京都駅と松井山手駅だけで、路線はまだ確定されていないが、総延長距離140kmの大部分は地下トンネルであり、大深度地下(深さ40m以深)を通る。そのための地層地質ボーリング調査を各地で実施し始めた。我々が得られる情報では東山辺りを迂回して京都駅に入るのではと推定される。

 トンネルは直径10m、掘削はそれ以上になるため、掘削土砂は南丹市内だけで170万トン(ダンプ17万台)と長野さんは試算する。京都市内ではその10倍以上の土砂が出るだろう。北陸新幹線が京都にとって必要なのか、どこの地下を通るのかによって河川、地下水の水脈を切断することも、まして膨大な掘削土砂の搬出先は議論もされていない。

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 この新幹線延伸を選挙公約にかかげたのは、現京都市長の門川である。先日、市役所内の担当部局「リニア・北陸新幹線誘致推進課」の課長らと面談したが、排出土砂を何処に運搬し、どう処置するかなど、全く考えていなかった。同推進課は元の「リニアモーターカー誘致推進課」に北陸新幹線を後から加えたもので、職員も課長と課長補佐の2人だけという。

 膨大な経費負担を京都府・市は要求されるだろうが、そんなことは考えていないようだ。何はともあれリニアや新幹線という大型国家プロジェクトの誘致が大事で、大企業だけが儲かり、将来世代に大借金を残して恥じない門川政治の愚劣さである。

 担当課長は筆者の質問に、「北陸新幹線ができたおかげで金沢には東京から観光客が大勢つめかけている。その人たちが京都にも来るから新幹線に期待する」と答えた。東京に居る京都ファンは東海道新幹線ですでに来洛しているだろう。

 工事は2031年着工、2046年開業予定だそうだ。筆者は乗れないが、野放しにしておく訳にはいかないと動き始めた。小浜市の宣伝パンフには「自然豊かな小浜市で生活し、子ども達は新幹線で京都の大学に通えるようになる」とあるが、どうしてこんな妄想だけをバラまく行政が横行するのだろう。

                        (石田紀郎:市民環境研究所)


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