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地域・アソシエーション研究所 第19回総会 報告

コロナ後に来るべき社会の形成に向けて
進む世代交替、今後の活動の方向性めぐり論議

 去る11月20日(金)、茨木市のよつ葉ビルで当研究所の第19回総会を開催しました。当日は各所から約30名のご参加を得て、今期の活動報告・総括と来期の方針について承認をいただきました。コロナパンデミックに翻弄された1年でしたが、それゆえに見えたことも多かったと思います。以下、総会での議論を簡単に紹介し、報告とさせていただきます。


この1年を振り返って

 総会のはじめに、例年どおり1年を振り返りました。言うまでもなく、今年はコロナに始まりコロナに終わった感があります。コロナパンデミックは後々歴史的なトピックとして特筆されるような災厄であり、社会生活において様々な面で深い影響を与えていますが、しかし一方で、それにもかかわらず、私たちが直面しているのは、実は私たちが生きている社会の実相であり、コロナは私たちの日常を明るみに出すものだとも言えそうです。

 コロナウイルス感染症をはじめとして、最近特にウイルス感染症が頻発しているのは、新自由主義的なグローバリゼーションが全地球を覆うほど進展し、大規模な自然開発や自然破壊が人と自然との関係を大きく変えてしまったことが原因だと言われています。今回のコロナウイルスも、急速度で経済成長を遂げてきた中国社会の変貌がもたらしたものだと言えるでしょう。メガシティー武漢で発生したコロナウイルス感染症はグローバリゼーションの物流と人的な移動に伴ってまたたくまに拡散していきました。そういう意味で、ウイルス感染症は決して自然現象などではありえません。

 また、コロナパンデミックを前にして、各国政府は都市を封鎖し、国境を封鎖して感染拡大に対処しようとしていますが、各国がそれぞれの思惑で対処療法を繰り返すばかりで、世界的な感染に対する措置としてはまったく不十分だと言わざるをえません。米国のトランプ政権の対中敵視政策やWHOからの脱退の動きなどはそのことを端的に表しています。グローバルなパンデミックを前に、個々の国家が対処する力は限定的だと言わざるをえません。

 感染拡大が第1波、第2波、第3波と続く中、ここ日本でも医療崩壊の危機が現実味を帯びるようになってきました。新自由主義的な政策によって、保健所や病院、研究機関が廃止、縮小され、医療崩壊に拍車をかけています。これは日本に限らず、世界的な問題でもあり、米国では不十分な保険制度や感染に晒される労働環境のために、特に黒人や貧困層に感染・死者が集中しています。グローバル経済の中で急速に経済発展を遂げているインドやブラジルでも、貧困な医療制度をあざ笑うかのようにコロナ感染症が襲い、大きな犠牲を生んでいます。コロナ禍は新自由主義グローバリゼーションの下での格差の拡大、社会の分断や、繁栄の中で蔓延する貧困状況を明らかにしました。

 このようにコロナパンデミックが明るみに出した私たちの社会のあり方に対して、それに対抗する運動、これまでとは違う社会を展望する運動が切望されています。そしてそれはすでに様々な形態をとって現れていることもまた見ておく必要があります。黒人差別に対抗する米国のBLM(ブラックライブズマター)など民衆運動とともに、もうひとつの社会のあり方を求める様々な取り組みが各地で行われています。日本政府は私たちに「新しい生活様式」を要請しています。しかし問題の根本は、個々人の心がけを越えて、社会そのものに深く根を下ろしているのです。「新しい社会様式」こそが求められているのだと考えます。


研究会と企画をめぐって

 コロナ感染症の拡大に伴って、様々な面で活動の停滞を余儀なくされました。そんな中でグローバリゼーション研究会、テツガク茶話会、農研究会、食卓と未来・食べもの研究会、○○を読む会の各研究会は比較的少人数で運営していることもあって、多少の停滞はありましたが、ほぼ例年通りの活動ができました。地場野菜研究会については、今年の4月にまとめの公開シンポジウムを予定していましたが、残念ながら延期となり、10月に非公開シンポジウムという形での開催となりました。3年間の活動の成果として確かな結果を残せたと思います。後に報告集をまとめ、収集したデータをPDFで提供する予定です。

 企画については4月の緊急事態宣言以降、活動が封じられてしまいましたが、2月に斎藤幸平さんの講演会「21世紀のエコ社会主義に向けて」、3月には「京都市長選をめぐる座談会」を開催しました。気候変動の問題はもちろんそれ自体が喫緊の課題ですが、一方でコロナパンデミックと根を同じくするものであり、斎藤幸平さんの問題提起はコロナ問題を考えるにあたっても参考になりました。また、テツガク茶話会の特別編として、9月に田畑稔さんの講演会、「思想としての新型コロナパンデミック」を開催し、コロナ問題を見通す視角を提示することができました。また、機関誌に「新型コロナに関する論点整理」を提起できたのは研究所の成果だと考えています。


読者アンケートに関して

 今回、研究所の活動についてご意見をいただくために、機関誌をお送りしている何人かの方にアンケートをお願いしました。京都で「かぜのね」(カフェ・多目的スペース)と「すみれや」(乾物・雑貨店)を営みつつ市民運動に積極的に関わっておられる春山文江さん。新潟で高齢者が主体となった事業活動を展開しておられる「ささえあいコミュニティー生活協同組合新潟」理事長の高見優さん。大阪労働学校・アソシエ学長の斎藤日出冶さん。上智大学教員でラテンアメリカ連帯経済研究会の幡谷則子さん。個々のアンケートの回答についてはここでは省略させていただきますが、二つほど大事だと思う論点がありました。

 一つは、オルタナティブをめぐる議論や活動について取り上げている記事には興味が惹かれるという指摘がありました。単に情報としてではなく、関西よつ葉連絡会や北大阪商工協同組合の活動とつながって議論を行っているという点を評価いただいているようです。地域・アソシエーション研究所がただ研究機関であるだけではなく、経済活動、生産活動、地域活動を母体として有機的なつながりを持ちつつ活動を行っているということが大事だということでしょう。

 もう一つは、ある意味ではこれとは別のベクトルを持つ指摘ですが、研究所の活動に閉じこもるのではなく、他の活動主体、運動体との共同の取り組み、連携が必要だということです。国内外の実践を理論化して社会的連帯経済や社会的経済の構想へと練り上げていく作業が共同の取り組みとして必要だという指摘もありました。外に向かって開かれた研究所の活動が必要であることは、昨年の総会でも指摘されたことでもありますが、具体化していきたいと考えています。


20周年を迎えるにあたって

 さて、来年は研究所の設立20周年を迎えることになります。そこで、これまでを振り返って、初代代表の津林邦夫さんと2代目代表の津田道夫さんから一言いただきました。

 研究所がその母体とする能勢農場や関西よつ葉連絡会の活動の礎を作ったのは戦後、特に北摂地域で地域活動を担ってきた世代でした。その戦後世代と津林さん、津田さんといういわゆる団塊の世代が合流して、能勢農場や関西よつ葉連絡会、北大阪商工協同組合、人民新聞、北大阪合同労組といった様々な活動の場が開かれてきました。

 研究所の設立は2001年。9月には同時多発テロがあり、またBSEの日本における初めての発症が確認されました。いろいろな面で(事業)活動のあり方が問われた時期でした。そんな中で、戦後世代から引き継いだ「地域」という問題意識と、当時に出会った田畑稔さんによる「アソシエーション論」の問題提起を踏まえ、「地域・アソシエーション研究所」が設立されました。現在の自分たちの活動の到達点を抽象化・理論化してとらえ返し、自分たちの活動に何が必要なのか、どういう社会ビジョンを目指すのかということを問い、意識化し、活動へと投げかけることを目指したのだということです。

 研究所設立の問題意識はどれだけ達成されているでしょうか。事業活動が確立されるにしたがって、研究所とそれぞれの活動が分業になり、分業が固定化されていく傾向があるのではないか。それぞれの活動との有機的なつながりを強めつつ、人的な交流ももっと作っていく必要があります。たとえばもっと研究所の運営に関わってもらうとか、研究会や学習講演会に参加してもらうとか、いろいろな入口が考えられます。

 その点について、関西よつ葉連絡会の研修部会・部会長の田野浩幸さんから、そもそも研究所が何をやっているのか知らない人が多いという耳の痛いご指摘をいただきました。研究所からも、研修部会やよつばの学校に参加して運営に協力していますが、研究所がやっていることが若い職員にはなかなか伝わらないという現状があります。その点に関しては、いろいろなレベルで議論できる土俵をつくることが大事で、たとえば講演学習会もそういった点を意識して企画していくことが必要かもしれません。また、北摂ワーカーズの木澤寛二さんから、よつ葉の若い人に参加してもらうということを考えるだけではなくて、研究所の方からよつ葉の産直センターの方に出向いて行ったらどうかという発言がありました。前向きに考えたい提案です。

 田畑稔さんからは地域とアソシエーションをつなぐ問題意識は貴重で、地域視点でポスト資本主義を考えることが大事だというご指摘を改めていただきました。それとともに、第3世代、そして第4世代へと研究所の問題意識をどう引き継いでいくかということを考えないといけないということも。新しい人材を求めるためにも、多方面のつながりを太くしていかなければならないだろうと考えます。


来期の活動に向けて

 来期に向けては、引き続いて、「協同」「連帯」「アソシエーション」の原理に関わる理論や実践について報告し、議論の組織化をはかるということが、まず第一の取り組みになります。現在のコロナパンデミック状況の中にあって、資本主義市場経済ではないもう一つの社会のあり方が求められています。国内外の取り組みに取材し、発信していきたいと考えています。現在、臨時国会において成立が見込まれている労働者協同組合法についても注目し、その意義を明らかにしたい。それについて、NPO関西仕事づくりセンターの津林邦夫さんから共同で講演学習会を開催したいという呼びかけがあったので、前向きに考えたいと思います。

■総会のもよう
 また、「地域と国家を考える」講演学習会として、これまでウクライナ、中東、EUと取り上げ、次回は中国をと考えていましたが、実現に至っていません。来期の中心テーマの一つとして中華帝国の歴史と地域支配に焦点を当てた「『帝国』概念の再考―中国の国家と地域」(仮)に取り組み、研究所の20周年記念企画として開催したいと考えます。

 その他、研究所の関心領域に関わる国内外の諸団体への訪問や催しへの参加、フィールドワークの実施、福島(東北)・沖縄訪問など、コロナ禍の影響で今期は実施できませんでしたが、状況を考慮しながら取り組みたいと思います。

 最後に人事に関して、新たに運営委員として、大阪市大の綱島洋之さんと北摂ワーカーズのメンバーに参加していただくことになりました。今回の総会参加者もそうですが、研究所に関わる人々も確実に世代交替し、さらに多彩になっています。こうした変化を、さらなる活動の発展につなげていきたいと考えます。

 以上、簡単ですが、第19回の研究所総会の報告といたします。来期もよろしくお願いいたします。

                                      (下前幸一:当研究所事務局)




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