コラム 南から北から
酷暑と雨に悩まされた夏
ふと気づけば、セミの声が秋の虫の声に変わり、吹く風も涼しくなってきたこの頃、もう夏の暑さを懐かしくすら感じます。
今年の夏は、とにかく暑く過酷な日々でした。無事に迎えた稲刈りは、始めは順調だったのですが、途中から雨に悩まされました。山からの水が止まらず、田んぼの半分が常にぬかるんで機械が入らない状態になってしまったのです。
父と私は半ば諦めていましたが、母は諦めません。一束でも多く収穫するため、鍬で溝を切り、水を流す。鎌で稲を刈り、束ねる。軽トラまで担いで運び出し、ガードレールに干す。家の庭で脱穀――。
家族3人で少しずつ進めましたが、体力的にも精神的にも辛くなってきました。そんな時、以前勤めていた能勢農場から、一週間の研修ということで女性2人がやってきてくれました。まさに救世主です。
到着した日から稲刈りをしてもらい、酷暑の中、毎日泥だらけになって一生懸命作業してくれたおかげで、諦めかけていた収穫も完遂できました。それでも、コンバインなら半日~1日で終わる2反の田んぼに2週間くらいかかりました。
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久しぶりに賑やかな作業。用水路で足を冷やしながらとる休憩。作業の合間で食べるスイカのおいしいこと。ふと、昔を思い出しました。
私が幼い頃の稲刈りは、家族総出でお弁当持って行う、一種の行事のようなものでした。親兄弟、祖父母、親戚みんな集まり、稲木干しの下を幼い私は手伝いそっちのけで虫を追いかけていました。水路で冷やしたスイカや、おばちゃんの煮しめが恒例で、とても楽しみでした。
しかし、機械化が進んだ今では、稲刈りも2人いればできてしまいます。稲刈りの時期なのに、田んぼは閑散とし、賑やかな声ではなく機械の音が響いています。幼い頃の記憶のまま島外へ出た私は、昔との違いに寂しさを感じました。
島に帰ってきて3年が経ちますが、周囲の田んぼも引退する人が増えて法人管理となり、ますます淡々とした雰囲気が漂ってきました。米離れで価格も下がり、高齢化に伴い離農が増える中、米作りの楽しさもなんだか失われつつあるように思います。
辛い作業の中にも幸せを感じていた両親の姿を見てきたので、農業をしてみたいと思いました。楽しいだけでは続きません。収益がないと生活できません。機械に頼らざるをえないのも現実です。でも、ほんの少しでも楽しみやゆとりがあったから、つながってきたものもあると思います。大きな利益よりも、そうした楽しみを忘れない農業をしていきたいです。
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稲刈りが終わった頃、台風10号が発生しました。戦後最大級と言われ不安でしたが、それほど大きな被害はありませんでした。芋畑では雨で畝が流れて芋がむき出しになり、サトウキビも倒れましたが、折れることはなく、なんとか復活しそうです。
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■サトウキビの日陰でしばし休息 |
台風が過ぎ、一気に秋らしくなりました。秋は芋の収穫に始まり、ブロッコリーの定植と、どんどん忙しくなっていきます。賑やかで過酷だった夏の日々をエネルギーに、慌しい秋へ突入です。芋畑での焼き芋を想像するだけで、ワクワクしてきました。
(古市木の実:鹿児島県種子島在住)