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コラム 南から北から
曇天をかき分け、夏が始まる



 青々としていた田んぼが黄金に色づき始め、風が吹く度に頭を垂れた稲穂が“わさわさ”と音を立てて揺れています。稲刈りの季節がやってきました。早場米の産地である種子島では、3月下旬に田植え、7月下旬に稲刈りが行われます。品種は主にコシヒカリです。長雨で生育が心配されましたが、例年通りの収量が見込めそうです。コロナ禍が続く中、各地で起きた豪雨災害。種子島には幸い大きな被害はありませんでした。芋の畝が流れて根がむき出しになったり、畑に入れない日が続いたり、田んぼの水が引かずに困っていますが、こうして無事に稲刈りの季節を迎えることができて幸せだと思います。

 私たちの田んぼは、山形の疋田さんの10分の1ほど、3反少ししかありません。主に自家用で、余剰分を出荷し、自家用のもち米も少しつくっています。そのため機械更新するほどではないと、いまどき珍しい手押しの田植え機と稲刈り機を使っています。年をとれば難しい作業。米作りを維持するなら機械更新も検討しなくてはなりません。米作りには八十八の手間がかかると言われるほど、時間と労力がかかります。ほとんど自家用、利益もない米作りをどこまで続けられるだろうかと考えます。

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 そんなある日、知り合いが「子どもに送る米がなくなったから、分けてもらえないか」と訪ねて来ました。島外にいる子ども(成人)で、スーパーに行けば買えるはずなのに。それでも、送りたいと思うのが親心なのでしょうか。少し余っていたお米を渡すことになりました。このように、親戚や知人に送るために米作りを続けている人は多いです。ふと、大学時代に「米なくなったから送って」と何も考えずに言っていた自分を思い出しました。申し訳なさと感謝を胸に、今年も新米おにぎりを食べられるのを楽しみに、もうひと踏ん張り頑張ります。

 世間が新型コロナで大騒ぎの中、種子島は比較的平穏な生活が続いていました。しかし、鹿児島でクラスターが発生すると一転、警戒心が強まりました。島内で陽性者が出たというデマが広がり、犯人探し。終いには防災無線で「陽性者は出ていません」と放送され、少し落ち着きを戻しました。医療体制が不十分で高齢者も多いため、神経質になるのは仕方ないですが、とても息苦しさを感じました。やっと島内でPCR検査を受けられるようになったので、あとは自己防衛、免疫しかありません。他人を傷つける前にできることが、きっとあるはずです。

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 こんな状況なので、高齢者にとっても緊張感のある日々が続いています。近所に住む、お茶友だちの80歳過ぎのお姉さんは、以前から腰を痛めていて、思うように体が動かず、買物も一苦労です。たまに頼まれて代わりに買物をしていたのですが、最近は買物代行サービスを利用するようになりました。その方が、気兼ねなく頼めるからということでした。こちらが何も感じていなくても、いつの間にか窮屈な思いをさせてしまっていたのかもしれません。

 ただでさえ一人暮らしの高齢者が買物に行くのが難しい中、コロナによって、さらに出歩くリスクが増えます。そんな人たちが、肩身の狭い思いをせずに普通の暮らしを送れるサービスが必要だと改めて感じました。そんな話をしながら長雨を嘆き一緒にお茶を飲むひと時。長雨も悪くないなと思いました。

 ■ロケットが、空へ
 今朝、ロケットが打ち上がりました。昨日までの曇天をかき分けていくような勢いで、青空へと。さあ、夏が始まります。

        (古市木の実:鹿児島県種子島在住)



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