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連載 ネパール・タライ平原の村から(104)

59日目を迎えたロックダウン

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その104回目。


 5月17日、インドのロックダウン延長決定後、ネパールもロックダウンを延長しました。この原稿を執筆時の5月21日現在、インドで確認された感染者数は11万2000人(死者3435人)、すでに中国の感染者数を上回りました。

 ネパールの感染者数は444人(死者2人)。ほとんどがインドからの帰還者で、南部タライ平野の約1000キロにわたる国境地域で確認されています。3月24日から始まったロックダウンによりインドとの国境が封鎖され、帰国できなくなった多くの移住者が違法な経路で入国を余儀なくされました。

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 インドには推定約88万人以上のネパール人がいます。海外移住労働者はマレーシア推定50万人、カタール同40万人以上、サウジアラビア33万4451人、UAE(アラブ首長国連邦)22万4905人と続いています。

 2022年FIFAワールドカップ開催国のカタールでは、ネパール人出稼ぎ労働者の多くがW杯関連の建設現場で働いています。しかし、カタール政府のウイルス封じ込め措置として、数千人が非人道的な条件の拘置所に収容されました。措置に違反したとして400人以上のネパール人労働者が強制送還され、海外雇用省の調査では、7万5000人が直ちに帰国を希望しています。

 クウェート政府からは、非公式な手続きによるネパール人労働者3500人に対して、フライト無料による本国送還の申し出がありました。クウェートには、非公式な手続きによる労働者が7000人います。

 UAEでは、失業者1万人が本国送還を希望してネパール大使館に登録。トルコには5000~6000人のネパール人がおり、そのうち6~7割が非公式な手続きによる労働者です。そのため、不法移民として政府による救済へのアクセス権がなく、感染しても治療を求めることができないと恐れています。

 これらの報道は氷山の一角です。外国雇用省の予備調査によると、カタール、サウジアラビア、UAE、クウェート、バーレーン、オマーン、マレーシアの主要就労先7ヶ国にいる、推定130万人の移住労働者のうち少なくとも12万7000人が帰国する見込みです。

 Covid-19パンデミックの影響により40万7000人が長期的に戻ると予測されています。要するに、就労先国から「必要だから来てくれ」と言われていたのが「要らなくなったから帰って」となったわけです。

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 ネパール政府は海外出稼ぎ振興策として、2008年から2017年の間に350万人の労働許可を発行しました。家族の誰か一人は国外に居住し、送金額は2018年だけで81億ドルにのぼり、ネパール経済を牽引しています。

 しかし現在も、ネパール政府は即存の検疫施設、検査キット、医療設備が十分でなくコロナウイルス蔓延の危険があるとの理由で、自国民の帰還にためらいを表明しています。

(資料)
『Nepali Times』https://www.nepalitimes.com/
『The Kathmandu Post』https://kathmandupost.com/

                                                                  (藤井牧人)

■赤色の部分が感染者が確認された地域
5月21日付The Kathmandu Post より



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