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アソシ研リレーエッセイ

「なんでも賛成」にご用心


 ごくたまに映画を観に行く。最近で言えばスターウォーズ。40年続いたシリーズの最終章だった。他界した父が好きで、こどもの頃から全部観てきたが、最後のは内容がもうひとつだった。制作がディズニーになったせいだとかぼやきながら、父が観たら何と言っていたかなと思った。

 自分にはスターウォーズみたいな映画のほうが性に合っているが、たまにいわゆる「単館もの」のドキュメンタリーなんかを観に十三に行くこともある。そのときに何度か森下さんに遭遇したことがあった。「休みは映画館で一日を過ごす」というくらい映画好きだった。映画評は極辛で、僕が好きな映画は全部ぼろくそに言われたが、ちょっと怖かった森下さんに親近感を抱いた瞬間だった。

 大病を患ってからは、映画館にもほとんど行っていないと聞いていた。ビールのために畑仕事をやっていると言うほど好きだったビールも飲めなくなって、辛かったのではないかと思う。森下さん、いまごろは友人のみなさんとビールを飲みながら、好きな映画でも観ているのでしょうか。病院よりも最期まで畑に行くことを選んだ生き方は森下さんらしかったです。お疲れ様でした。本当にお世話になりました。

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 人生は選択の連続だという。それこそいまの仕事では定期的に選択を迫られる。議会での採決だ。諸先輩方のなかには、すべての議案に反対し続けた強者もおられたそうだが、僕はそこまでではない。にもかかわらず、駅前で街宣をしていると「なんでも反対しやがって」と言われることもある。そういう時は「なんでも賛成するほうが怖いですよ」と言い返すことにしている。

で、実際にそうなのだ。市議会の採決なんて誰も関心がないだろうが、大体どこでも「議会だより」に採決表を掲載している。それを見れば議案に反対をしているのは共産党といわゆる市民派の議員数名くらい。ほとんどの会派が共産党が出した意見書以外は全部賛成している。ほんとにどこも同じような傾向なのだ。

 反対する必要がないくらい市長の出す予算や条例が問題ないならそういうこともあるかもしれないが、果たしてそうだろうか。いや、全部賛成だとしても、議論を尽くし、納得したなかでの賛成ならまだわかる。でも、実際は議論もほとんどしないまま、出てきた議案をそのまま通過させている。

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 高槻では昨年12月に、約50年続いた市営バスの高齢者無料パスを一部有料化する案が議会に示された。世界を見れば、気候変動対策の一環として、公共交通の無料化に乗り出す都市もあるなか、環境面はもちろん、年32億円の経済効果や、高齢者の健康づくりに寄与してきた制度を、補助金をケチりたい一心で有料にしようとしている。

 市議会では僕の所属する会派と共産党だけが反対を表明し、その他の会派は態度を明らかにしていないが、昨年末、有料化に反対する議員有志で緊急集会を行った。他の会派にも声をかけたが「財政も厳しいし、バスを公営として残すためなら有料化はしょうがない」と口を揃えて参加を断られた。そして、どうやら市民にもそのように触れて回っているらしい。

 しかしこの言い訳は事実とは反する。現在、市バスは黒字決算を続け、貯金も十分にある。公営を続けるためにというが、市はすでにバス民営化の検討を進めている。

 市役所はなんとか議員を丸め込もうと資料を作って説明に回る。そこに矛盾や欺瞞がないか自分で調べて、問題があれば追及し正すのが議会のはずだが、鵜呑みにしてしまっている。国会では野党として自公に対峙している政党も、地方議会ではこうなのだ。

 まぁこんなところでぼやいても仕方ないし、以前からそんなものだったのかもしれないが、それでも15年前は無料パス廃止の議案を最大会派の公明党が反対にまわって1票差で否決できた。まだ議会に緊張感があったのだろう。いまは弛緩しきっている。

 飛躍かもしれないが、「なんでも賛成」の行きつくところは戦争だった過去がある。だから用心しないといけないし、議会の機能不全の原因はここにあるとも思う。

                                                                                      (高木隆太:高槻市会議員)



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