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連載 ネパール・タライ平原の村から(99)

「ルピ」はどこへ行った?

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その99回目。


 来年の干支はネズミですが、鳥の話を。縄張りをもつ習性があるムク鳥の一品種インドハッカは、ネパール語で「ダング」または「サリチャラ」と呼びます。毎日、鳴き声を聴いたり、見かけたりする鳥です。愛称で「ルピ」とも呼ばれます。妻の従妹が、近所のおじさんが木に登って巣の中のルピの雛を食用として捕獲したのを、地酒のロクシ(シコクビエの蒸留酒)と引き換えにもらって、家に持って来ました。それでルピを飼うことに。

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 しばらく経ち、家人を覚えたようなので、時々鳥カゴから出して放してやります。呼ぶと飛んで戻ってきては、肩にとまったり、畑についてきたり。ただ、空腹になると「ギギギギギギー」と鳴き続け、エサを要求して、なかなかうるさいです。

 そんなルピを見ては、たいていの人が子どもの頃に飼っていたとか、あるいは近所で飼われていたことを思い出し、嬉しそうに語ります。

 「子どもの頃に地鶏のヒヨコと交換して手に入れた」。「6~7ヶ月したら口真似を始める」。

「バットゥ カーナ アイジャ」「ベナ バットゥ カーナ アウ」と、大人や子どもに“ご飯食べに来い”と叫ぶ飼い主の口癖を真似るルピの話。

 「テロ タウコ! テロ タウコ!」(おまえの頭ときたら!)と、母親が子どもを叱る時に連呼する口癖を真似るルピの話。

「ガハハハハー」「ガハハハハー」と、飼い主と全く同じ声で笑うルピの話。母親が呼ぶ子どもの名前をいくつも連呼するルピ。

 ルピと呼ぶと「ハジュール、ハジュール」(はーい、はーい)と呼応するルピ。

 「クー ク ク ク ク」と、人がニワトリを呼び寄せる声を真似るルピ。

 「エー アマ パフナ アーヨ」(おーい母さん、客がきたよ)と連呼するルピ。

 話は尽きることなく続きます。でも、結末は猫に喰われたりと、いつも悲惨な最期を迎えます。

 先日は、地元ナワルプル郡のマハーバーラト山脈麓の古い集落を歩いてみました。バンディプル村では、「ハァ? ハァ?」(何?何?)と呼応するルピがいて、キルティプル村では人の口笛を真似るルピを見かけました。いずれもカゴの外で石積みの上にとまっていて、飼い主でなく、そこに居合わせた人から、そのルピのことをうかがいました。 

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 趣味・ペットについて語りたいのではありません。こうした小さな楽しみの背後に、ジャングルや動植物とつきあい続けてきた、ここでの暮らしの断片が見えてくる、と思うのです。ただ、平地へ近づくほど、世代が変わるほどに、そうした話は聞かれなくなってきます。

 そんなある日、毎日のように飛んで来るルピのつがいが「ギギギギギー」と鳴いているのが聴こえた夕方。しばらくルピを見かけないので気になって呼んでみたのですが、いつものように飛んで戻ってきませんでした。翌日も翌々日もルピの群れや親子の鳴き声が聴こえるたび、「ルピ!」と叫んでみたのですが、何の反応もありませんでした。

 ■窓の柵にとまるルピ
 後日、「遠くへ飛んで行ってしまわないように羽先を少し切っておかないと」と、言い忘れていたことを従妹が教えてくれました。

                                                              (藤井牧人)



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