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市民環境研究所から

来るべき京都市長選挙に向けて


 19号台風はかつてない広域被害をもたらした。1958年の狩野川台風も1961年の第二室戸台風も知っているが、今回ほど広域に水害をもたらした台風はなかった。台風が日本列島までやって来る間の海水温が平年より2度も高く、海面から供給される力によって途方もない台風に発達した。そして、福島、宮城、神奈川など11都県で大水害と多くの死者が出た。

 地球温暖化のなせる作用だと言われれば、人間の行為の結果であることは間違いない。国家的、国際的に対処していかなければならないことだが、直ちに国家的とか国際的というレベルでなしうることは少ないだろう。

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 しかし、自分が住んでいる地域での活動なら、今すぐにでもできることはあると思う。今まで以上に市民運動、住民運動を力強く前に進めなければならない事態に我々は遭遇している。国の動きを待つまでもなく、すぐに議論し、活動できる場が、いま住んでいる行政区であり、自治体だと思う。国の方針が決まらなければ地方自治体はなにも出来ないと多くの人は思っているだろうが、地方自治体に対してなら、構成メンバーである我々が動くことは簡単だろう。なぜなら、自治体とは国家の都合を実行するだけの存在ではなく、構成員が考え、議論し、実践できる単位だからである。

 地方自治体は地域住民の組織であり、決して国家に支配され、差配される存在ではない。地域での活動が積み重なって国家的対策を引き出せるような考えと行動こそ大事である。すなわち、最も重要なことは「自治」とは何かを我々市民がもっと考え、行動することだと思う。

 来年の2月に筆者が住む京都市では市長選挙がある。この京都で自治を守るためにはどのようにすればよいのか市民が問われる瞬間が来る。地球規模の環境問題でも、ある地域での環境問題でも、その他の政策に対しても我々が「自治」の概念をしっかりと捕まえることだろうと思う。そしてこのような活動の基本に人権を守る意識を持つことだと思う。人権を軽んじ、踏みにじる行動はいかなる目的といえども許されるものではない。以上は、最近の市民集会で筆者が話したことである。

 この1年間、「18歳と22歳の市民の宛名シールを自衛隊に渡す」政策が市長の一存で決定され、実施され、当事者の若者さえ知らないうちに、彼らの宛名シールが自衛隊に渡されてしまった。市民からこの政策を批判され、まともに反論できなかった京都市は、渡す直前の少しの期間だけ、自衛隊に宛名シールを渡されたくない者は連絡すれば、削除し、渡さないことにすると表明した。人権を守っているかのようなポーズを採っただけであり、ほとんどの若者は、提供されたことも、提供を拒めることも知らないままに自衛隊に個人情報を提供された。

 地方自治体が果すべき役割は大事な問題を市民の地域社会で議論し解決することである。そして、その自治体の長である市長は、選挙では特定の党派や組織団体から支援を受けても、当選すればそれら支援団体の所属ではなく、自治体内のすべての人々の生活を守る立場・役職であることを肝に銘じて職務を遂行しなければならない存在である。その上に、自治体の長として国家とも対峙しなければならないときは対峙することが求められる存在である。宛名シール事件では、市長は国家・政府の下僕としてのみ振る舞ったのである。自治体は国家の下部組織ではないと肝に銘じて行動することこそ自治である。宛名シール提供事件はこれらの原則をないがしろにした行為であり、許されるものではないと市民が確認しなければならないと思う。

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 宛名シール事件以外にも多くの見逃すことができない問題が京都市内には引き起こされている。市長選挙では、自治と人権とはなんぞやを考え続け、市民と語り続ける人物を選ばないと、この街も147万市民もますます苦難の道を歩むことになる。

 この50年間、多くの公害現場に出向き、被害者とともに調査活動してきた筆者が学んだことは、自治と人権を守ることがあらゆる公害問題を解決する基本だということであり、この思いを持って、一人の市民として市長選挙にかかわろうと思う。

                                                                         (石田紀郎:市民環境研究所)



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