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東日本大震災・原発事故から8年、福島訪問 報告③

なぜ福島
でバイオマス発電なのか
「間伐=除染」のカラクリ

 福島訪問報告の第3回。訪れた田村市大越町はこの3年にわたり、建設予定のバイオマス発電施設をめぐって大きな紛糾の渦中にある。建設反対を求める住民たちは、放射性物質を濃縮・拡散させる可能性が高いと批判する。そんな施設をどうして建設しなければならないのか。その背後には、自らの責任を回避しようとする政府や東電の思惑、災害をエサに肥え太る企業の姿が浮かび上がってくる。


 奥羽山脈と阿武隈高地に挟まれた「中通り」に位置する福島県田村市。2011年の東京電力福島第一原発事故では、原発から20キロ圏内だった都路地区が警戒区域に指定され、避難指示が出されたものの、2014年には解除されている。そんな田村市の南部にある大越町で、建設予定のバイオマス発電施設への反対運動に取り組む住民団体「大越町の環境を守る会」の久住秀司さんにお話をうかがった。


福島でバイオマス発電とは

 久住さんのお話を紹介する前に、まずはバイオマス発電施設について触れておきたい。バイオマス発電とは、化石資源を除く生物由来の再生可能な有機質資源を燃料として電気を発生させるもので、間伐材や建設廃材などの木質、あるいは家畜糞尿や下水汚泥などが代表的な資材だ。これらをボイラーで焼却して蒸気を発生させ、タービンを回して発電する。森林資源の豊富な日本では、有望な再生可能エネルギーとして期待されている。大越町で建設予定の施設は、木質バイオマスを燃料とするものだ。

 「私らも、別にバイオマス発電そのものに反対したいわけではないんです」。

 そう語る久住さんたちが、なぜ反対せざるを得ないのか。それはひとえに、原発事故に起因する放射能汚染の問題に関わってくる。

 都路地区を除いて避難指示が出されなかったとはいえ、田村市も放射能汚染を免れたわけではない。とくに森林について言えば、まったく除染は行われていないのだから、バイオマスの原料となる木材が程度の差はあれ汚染されているのは間違いない。まして、焼却すれば排気ガスを通じて汚染物質を含む微粒子は広範囲に拡散され、後に残った灰には濃縮された汚染物質が含まれる。
 ■久住秀司さん

 事業者側は“排気ガスはフィルターを通すため汚染物質の飛散は防げる”とか、“焼却灰は基準に従って管理するので心配ない”と説明しているようだが、住民としては、それを確証する手だてがないのが実情だ。

 「現に市長は市議会で議員の質問に対して『この事業で放射能は出るけれども、ごく微量で健康に影響しない程度のものだから心配はない』と答弁しているんですよ。“微量だから大丈夫”なんてあり得ない話でしょう」。久住さんはそう憤る。

 しかも、建設予定地はこども園まで600メートル、小学校まで700メートルなど市街地に近く、地形の面でも高台にある予定地から川添いの市街地に向けて排気ガスが滞留しやすい環境にある。

 原発事故を経験した人々とって、とうてい容認できるようなものでないことは明らかだろう。


建設計画の急変更

 久住さんによれば、バイオマス発電施設の建設計画が浮上したのは2016年1月だという。その後、周辺住民への説明会や市長による公式発表を経て、7月には田村市、親会社の㈱タケエイ、運営主体の㈱田村バイオマスエナジーの3者によって協定書が締結されてしまう。

 事態が本格的に紛糾するのは翌年。4月の選挙で新たな市長が当選した後、当初の建設計画が大きく変更されることになったからだ。

 「本田現市長は、冨塚前市長が周辺住民説明会で説明していた重要事項を親会社の要求に従って、いとも簡単に覆してしまったんです。たとえば、前市長は焼却に使う木材チップについて、当初は樹皮を剥いだホワイトチップを外部から仕入れると説明していました。ところが、本田現市長になったとたん、親会社は樹皮を剥がないチップを使いたいと要求し、現市長はあっさり容認したんですよ。

 しかも、最初はチップを外部から仕入れるはずだったのに、これもいつの間にか親会社の要求を丸呑みして、発電施設に隣接してチップ工場を建設してもいいと認めてしまったんです。」

 樹皮と木部を比べれば、樹皮の方が汚染の度合いが高いのは明白だ。加工済みチップを搬入するのに比べ、チップを製造する過程で汚染物質が拡散する可能性が高いのも同様だ。当初の説明からすれば本質的とも言える変更にもかかわらず、なし崩し的に行政が業者の言い分を追認し、住民を丸め込もうとしてきたのである。

 こうした住民無視の独断専行に対して、久住さんたちは「大越町の環境を守る会」を結成し、町内全域での説明会実施を求める陳情書を市長と議会に提出したり、建設反対の署名を集めたり、専門家を招いて学習会を行うなど、活動を継続してきた。

 にもかかわらず、市長や親会社は住民の声を一顧だにせず、建設工事の着工を強行した。そのため、ついに「大越町の環境を守る会」は9月5日、市長による事業者への公金支出の差し止め、すでに支払いが済んだ分の返還、損害賠償を求め、福島地裁に提訴したのである。


建設予定地に関わる不透明な過程
 
 久住さんが疑念を持つのは施設の安全性だけではない。大越町が建設予定地に選ばれた過程にも不透明なものがあるという。

 建設予定地は、かつて住友大阪セメント田村工場の敷地だったが、2000年に同社が撤退した後、ながらく放置されていた。田村市は2014年、その跡地を7憶8000万円で買い取り、市の産業団地として再開発したのである。
 ■大越町の位置関係

 「そもそも田村市にバイオマス発電所の話を持ってきたのは、当時は県会議員だった現市長だと聞いています。前市長はその話に乗ったわけですが、最初から大越町が予定地ではなかったんです。前市長が最初に用地交渉したのは自分の地元、船引町の春山地区でした。これは民有地です。でも、放射能汚染を不安に感じた地権者が用地買収に応じなかったんで、結局だめになったんですよ。

 そんな経過にもかかわらず、つまり話を出せば住民が不安に思い、拒否されると分かっていながら、大越町に話を持ってきたんですよ。しかも、“大越町の皆さんから企業誘致の要請があったから”と言うわけです。

 たしかに、私たちも地元で会合をつくって、跡地に企業を誘致する相談をしていました。市に対して要請していたという経緯もあります。そんな中、2015年頃だったと思うんですが、前市長が会合に参加してくれたことがあったんです。その際、前市長は「産業団地(跡地)に決まりそうなところが一つある」と言いました。ただし同時に、「どんな会社か、いまは言えないなぁ」と。

 結局これがバイオマス発電所だったんですが、言えないわけですよね。最初は船引町の春山地区に話を持っていって断られ、それで大越町に“たらい回し”したんですから。しかも、産業団地なら市の所有だから断られることもないわけです。」

 ちなみに、住友大阪セメントの跡地では、セメント製造の過程で生じた汚染土壌がいまなお残存している。六価クロム、鉛、ヒ素などが含まれる有害なものである。跡地から回収して一ヶ所に集め、遮蔽シートで全面を覆っているとはいえ、本来なら一刻も早く搬出されるべきものだ。

 ところが、住友大阪セメントと田村市の間では、搬出責任と費用負担こそ同社側にあるものの、搬出期限は定めない協定が結ばれているという。
 ■強行される基礎工事

 こうした事実とバイオマス発電施設に関連があるのかどうか、その点は不明だが、何か構造的な問題が潜んでいるような気がしてならない。


「間伐=除染」のカラクリ

 ところで、住民が反対しているにもかかわらず、なぜ建設計画は止まらないのか。そもそも、なぜ福島で木質バイオマス発電を行う必要があるのか。言い換えれば、バイオマス発電の真の目的は何なのか。久住さんは「除染じゃないですか」と指摘する。

 この点については、和田央子さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)と青木一政(ちくりん舎:NPO法人市民放射能監視センター)さんによる解説(※)が参考になる。

 それによると、背景にあるのは、福島県の林業・木材産業の再生に関わる問題だ。

 福島県は面積の約7割が森林。林業の産出額は2010年で124億円にのぼり、関連する従業員も多かった。しかし、原発事故に伴う放射能汚染の影響で林業は危機に瀕してしまった。

 また、間伐や植林ができないまま長らく放置されたために森林が荒廃し、集中豪雨による土砂災害などの恐れも生じてきた。

 さらに、この間政府は除染によって空間線量を下げることで避難住民の帰還を促してきたが、森林がが汚染されているために居住地の空間線量が低下しにくいといった問題が浮上してきた。

 そのため、何らかの形で山林の除染を行わなければならないという状況が生まれてきたのである。

 一方、政府・環境省は、「放射性物質汚染対処特措法」と「同ガイドライン」で除染の方針を定めているが、除染を行うのは生活圏から20メートルの範囲(里山)に限定し、それ以上の「奥山」については行わない方針である。というのも、法律では除染の責任主体は国であり、除染に関わる費用は「当該関係原子力事業者」つまり東京電力の負担と定められているからだ。

 要するに、国としては生活圏の除染だけでも大変なのに、さらに森林の除染で生じる廃棄物の保管や処理までしたくない。また、その費用を東電に請求すれば東電が潰れ、国の原子力政策が大幅な変更を余儀なくされるので、それも避けたいというわけだ。

 客観的状況では山林の除染は不可避だが、主体的には可能な限り回避したい――。この矛盾を「解決」するには、国の責任や東電の費用負担を回避する形で、対外的に除染をアピールする方法が必要となる。

 ここで現れるのが、2013年度からはじまった「ふくしま森林再生事業」だ。事業主体は福島県と当該市町村および森林整備法人。事業内容は「放射性物質対策」と「森林整備等」で、間伐と除染を組み合わせたところに特徴がある。

 事業の対象となるのは「汚染状況重点調査地域」つまり避難指示区域以外の除染区域、とりわけ生活圏から20メートルの範囲以上の民有林18万3000ヘクタール。事業期間は20年間で、事業費は総額は90億円を超える模様である。もちろん、費用の出所は国、つまり税金だ。

 この事業が巧妙なのは、外形的には法律で定められた除染ではなく、あくまで森林整備、つまり間伐を装いながら、実質的には除染の意味合いも兼ね備えていることである。言い換えれば、本来は「除染」として取り組むべきものを、「森林整備」「間伐」という名目をかぶせることによって法律の枠外に位置づけ、民間に丸投げしているのだ。

 こうして、除染に関する国の責任も、除染費用に関する東電の負担も回避できるわけだが、問題はそれだけではない。法律の枠外に置かれることで、本来なら必要とされる廃棄物処理の手順や管理を免れる結果、間伐材をバイオマス発電に利用することも可能となる。つまり、事業に参加した業者は、間伐=除染はもちろん、廃棄物を得る点でも利益を得ることができるのだ。責任回避への協力に対しては、それなりの「アメ」を与えるということだろうか。

 もっとも、「アメ」は他にもある。日本ではこの間、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーで発電された電気を、国が定める価格で一定期間にわたって電力会社が買い取るよう義務付ける「固定価格買取(FIT)制度」が行われている。その中でも、木質バイオマス発電は1kW当たりの買い取り単価が太陽光より10~20円高い。

言うまでもないが、固定価格での買い取りに関わる費用は、私たちが月々支払う電気料金に上乗せされており、電力会社の懐はほとんど痛まない。


デタラメがまかり通る

 要するに、間伐=除染と木質バイオマス発電が結びつくことで、二重にも三重にも利益を得られる構造が形づくられているわけだが、その陰で矛盾を押しつけられ、一方的にリスクを負わされるのが、大越町をはじめとする福島県の住民である。

 「(福島県の)内堀知事なんかは、わざわざ外国まで行って『福島の農産物は安全です』とか『風評被害を払拭する』なんてことを言っていますよね。しかし、そのお膝元では、こんなデタラメがまかり通っているんですよ。風評被害どころか実害をまき散らそうとしているんだから、本当にとんでもないことです」。久住さんはそう憤る。

 カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインは、災害に便乗して利権を探し出し、利益をむさぼるような企業や行政のあり方を、「ショックドクトリン」と名付けた。震災と原発事故から8年以上が過ぎても、福島は依然として「ショックドクトリン」の渦中にある。見過ごされてはならない現実である。


※参考資料
 『ブックレット 木質バイオマス発電を考える』発行:大越町バイオマス発電に反対する市民の会、2018年11月。
 『学習交流会報告集 とめよう!放射能のばら撒き~除染ごみ焼却と木質バイオマス発電を考える』発行:NPO法人市民放射能監視センター(ちくりん舎)、2019年5月。
 『汚染木材を燃やしてよいのか!福島県田村市バイオマス発電計画を問う』(動画)FukurouFoeTV,
https://www.youtube.com/watch?v=f7VlMDBDSFc


                                                                                     (山口 協:当研究所代表)




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