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よつ葉の地場野菜研究会 報告

生産者アンケートから見える現状

 本誌第159号(2018年3月)で「よつ葉の地場野菜研究会」の進捗状況について報告してから1年が経過しました。この1年間は地場野菜の生産者の皆さんにアンケート調査でご協力を仰ぎ、さらに九州から産地野菜を供給している生産組合2団体の方にも、地場野菜の取り組みについてご意見を伺いました。今回は、そのアンケート調査の詳細について報告します。
 現在、関西よつ葉連絡会の配送・事務職員に対するアンケート調査の結果を集計しているところです。また、消費者会員へのアンケート調査にも着手しました。これらの結果については、改めて報告したいと思います。

 去る2018年8月の夏にアンケートを実施、157名から回答をいただいた。これに先立つ予備調査では、地場野菜を出荷することの意味が年齢により異なることが示唆された。つまり、年金を受給している高齢者と、これから農業で稼がなければならない現役世代の二つに、生産者が類型化できる。そこで、今回の報告では生産者の年齢という切り口から集計結果を分析する。

農家の現状

 まず、主たる従事者の年齢は、最高92歳、最低31歳、平均67.9歳。就農経緯別に集計すると、年齢層が高いほど「生家の跡継ぎ」の、逆に年齢層が低いほど「非農家出身」の割合が高くなる(図1)。 回答者のうち「生家の跡継ぎ」は50.3%(平均年齢は現在72.0歳、就農時53.4歳)、「農家出身・新規参入」は22.2%(同76.4歳、49.8歳)、「非農家出身」は26.1%(同55.5歳、44.2歳)。「生家の跡継ぎ」は就農時の年齢が高く、いわゆる定年帰農の方が多くおられるようである。嫁入りされた方が多く含まれる「農家出身・新規参入」は、農業に従事している期間が他に比べて長い。

 就農の理由については、「農業をせざるを得なかった」が46.9%(平均年齢75.0歳)、「農業をやりたかった」が35.4%(同57.35歳)。つまり、前者に高齢者が多く、後者に若手が多い。自由記述では、前者に「土地を守るため」という義務感にちなむ言葉が、後者に「好き」など積極的な意味合いを持つ言葉が、それぞれ目立つ。全体として、家業として就農した方が高齢化しつつ相変わらず主戦力である一方で、若手は好き好んで就農しており、生産地に新風が吹き込まれているように感じられる。

 現実に目を向けてみよう。農業収入の家計に占める割合について、「50%未満」「95%以上」と答えたのはそれぞれ71.5%、12.5%で、それぞれ平均年齢は72.0歳、46.4歳である。また、農外収入として年金がある生産者が68.9%を数えた。年金を受給している高齢者が生産者の大部分を占める一方で、農業収入を家計の柱としている若手が数少ないながら確実に存在することが明らかである。

年齢層と品目

 これが作付品目選択の基準にも表れている。各生産者が回答した順位を重み付けして集計したところ、最も重視されている基準は第1位が「自分たちが食べたいもの」、第2位が「自分の農法に合うもの」である。地場野菜の理念に合致している。ただし、これらを一番に優先していると回答した生産者の平均年齢は、それぞれ69.1歳、67.1歳とかなり高い。

 それでは若手はどうか。「単価が高いもの」「需要が確実なもの」「労働生産性が高いもの」が上位に来る。やはり、売ることや稼ぐことを重視せざるを得ない現実が浮かび上がる。自由記述欄では、ある高齢の方が「収穫時に持ち運びが出来やすい物(重くない物)」と記入されていた。確かに、重量野菜の集荷が減少していることは入荷状況のデータにも表れている。これを選択肢に加えていれば、より高齢化の現実を鮮明にできたかも知れず、悔やまれる。

 自身が作付けしている品目の数について、高齢の方は「自分で食べる」分を基準とした回答が多い一方、若手は「これ以上少なくするとリスクが大きい」という選択肢に回答が集中した。可能な限り品目を少なくすることで品質を確保しようとする工夫が伺えた。また、高齢のために品目数を抑えざるを得ない、例えば「いろいろと作りたいが体力が限界に達している」などと回答された方も多く見られた。

 農作業で譲れないことについては、「美味しいものを出品する」が最も多く36.3%、次いで「減農薬」が34.2%、「特になし」が28.3%。これらには年齢は関係なさそうである。本稿の趣旨に鑑みれば余談だが、自由記述欄の「無農薬で通せない品目があり農薬を使用せざるを得ない時は心を痛めます」という言葉は、広く共有されるべきであろう。ひとつ興味深いのが、「無化学肥料」と「こだわりの堆厩肥使用」が、互いに近い内容であるにもかかわらず、前者が若手、後者が高齢者に二分される傾向が認められることである。

 これまでの入荷状況のデータによれば、間引き菜や果物など副産物と考えられる品目の集荷が減少傾向にある。それでは、間引きや果樹について生産者はどう考えているのか。多くの生産者が間引きは手間になると考えている中で、「間引き菜が売れるので手間とは感じない」という回答が13.6%、その大半が高齢者からのものである。「その他」として、「しなくても済むように…」から「間引き菜を家で食べる」「間引きが必要なくらいに多く種を蒔く」まで実に多様な考え方が記入されていている。また、果樹に関して、「植えてあるが収入にならない」「収入源にしたいと思わない」という回答が合わせて55%に達する中、一部の高齢者が「収入源になるので重宝している」、また一部の若手が「収入源にしたいが借地なので植えられない」と考えていた。


集荷状況から見える特徴


 ちなみに、高齢者と現役世代の違いは、よつ葉農産の集荷状況をまとめたデータからも読み取れる(次頁の図2~4)。全体としては,高齢者は1品目あたりおよび合計出荷金額は変化しないまま、品目数を微減させる傾向にある。年間30品目以上を出荷していた高齢者は徐々に品目数を減らしたり引退したりしている。一方で若手は、1品目あたりおよび合計出荷金額を増加させている。つまり、高齢者に比べると少品目多量生産を志向する傾向にある。ただし品目数も微増させている。

 また、これらの変化に連動して、栗、かんきつ類などの果樹、タケノコなどの山菜、そして間引き菜や葉大根など伝統的な葉菜の集荷量が減少している。総じて、副産物が若手に敬遠される傾向が認められる。非農家出身の新規就農者が借地を耕作していることや省力化を比較的強く志向していることが要因だと推察される。






 地場野菜に出荷するようになった経緯については、「他の生産者に紹介された」が39.9%、「関係者に勧められた」の17.6%を大きく超えている。生産者どうしのつながりが強いことがうかがえる。「もともと米をよつ葉農産に出荷していた」(3.4%)は高齢者に、「師匠に紹介された」(5.4%)は若手に集中している。稲作農家の高齢化や若手を指導する生産者の存在が浮かび上がる。


地場野菜のメリット

 地場野菜に出荷するメリットをどのように感じているかについて、選択肢ごとの頻度と回答者の平均年齢は表1(次頁)のとおりである。最も多い回答は「少量でも出荷できる」。これが農協との大きな違いであることは間違いないが、この選択肢を選んだ回答者の平均年齢は69.1歳であり、回答者全体の平均年齢より若干高い。第3位の「見栄えが悪くても出荷できる」も同様の傾向が認められる。若手の回答は「価格が安定しているので、作付計画を立てるときに収入の見通しが立てられる」というところに集中しているようである。全量引き取りは年齢に拘わらず多くの生産者に評価されている。

 一方、「消費者からフィードバックがある」ことは産消提携運動の大きな特徴であるはずだが、これをメリットと捉えている生産者は少ない。「その他」として「旬を大切に考えてくれる」という記述がある。


地場野菜の農業収入比率

 地場野菜は生産者の農業収入のうちどれくらいの割合を占めているのか。各生産者の家計における農業収入の割合と関連付けて集計すると表2(次頁)のようになる。多くの生産者は、高齢で年金を受給しているためと考えられるが、家計における農業収入の地位は高くなく、さらに地場野菜から得られる収入の割合も多くない。一方で、ごく一部であるが、家計のほぼ全てを農業収入で賄い、地場野菜を主たる収入源としている生産者が存在する。以上ふたつの中間にあたる生産者は少なく、地場野菜で稼ぐ者とそうでない者の両極に二分されている。今後は少数の若手が地場野菜の主力を担うことになりそうである。


後継者問題と継続理由

 後継者の目処が付いているか否かについての回答は深刻である。最多は「特になし」で75.4%、その平均年齢は64.6歳である。次いで「子」と回答したのが20.4%だが、その平均年齢は74.0歳。多くは70歳台になり漸く目処が立つということである。それでは子がいない場合はどうするのか。「子以外の親族」や「親族以外の農家」「新規参入者」という回答はゼロ。90歳近くになり「集落営農」を考えておられる方がいる。非農家出身者からは「その他」として「外国人を受け入れたい」「借地なのでやりたい人に」という記述を頂いた。

 農業を続けている動機については、就農経緯による違いが出ている(次頁、表3)。農家出身者とりわけ生家の跡継ぎの中では「先祖伝来の土地を守らなければならない」が圧倒的に多く、加えて「生きがいや張り合い」が副次的な意味を持つ。ところが、非農家出身者では「自分自身の生計を維持しなければならない」が最も多い。ただし、農家出身者と同様「生きがいや張り合い」も重視している。その他、自由記述欄には例えば次のように記されている。盗人猛々しいが、これらの言葉を以て、まとめに代えることとする。

 ・中山間地の村を守る一部を担いたい。農業と福祉の連携を掲げてやってきたので、共に助け合って生きるということを実践する場と考えている。
 ・毎年変わる気候にうまくいかないことが多いが、それに学ぶことが多い。やれないことが多いことを痛感する。少しでも満足のいける農業をしてみたいという思いから続けていると思う。
 ・農業ほど魅力的で面白く、可能性・創造性のある仕事は他にありません。自分が死ぬまでには次の世代の子ども達、次なる農家達に、農業の可能性という芽を残したいです。
 ・非農家出身であっても農業をやってみたい!と思う仲間が増えるような活動をしたい。地域の耕作放棄地を減らして、原の地元の方々にも受け入れていただけるよう、誠実にやっていきたい、と思っています。
 ・自分が好きで作っている野菜を食べてくれる人がいればよいと考えているので収入にはこだわっていない。

                               (綱島洋之:大阪市立大学都市研究プラザ特任講師)








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