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連載 ネパール・タライ平原の村から(89)

ジャングルを歩く-住民の声を聞いてみた-
ネパールの農村で暮らす、元
よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その89回目。


 チトワン国立公園(野生動物保護区)と地元住民が利用するジャングルの緩衝地帯、ナムナー・バッファゾーン・コミュニティフォレスト。

 そのジャングルが地元住民に年1回3日間、屋根葺き材のカヤや民家の壁、家畜を囲う柵に利用するヨシの刈取りに開放される日。地元の人に案内をお願いしてジャングルの中を歩いてみました。

 道中、いくつかあるカヤの草原で作業にあたる人、家族に食事を持っていく途中の人、家族総出や交代で作業する人、黙々と作業を続ける年配の人にジャングルの樹木について、その利用について、その変容について少しずつ尋ねてみました。

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 カヤについては、「家と牛舎の屋根用に刈って、残りは売る」、「昨日は40束刈った」、「80束刈ったが、今年からトラクターが入り牽引してもらえるようになった」。その結果、担ぐ手間がなくなり、刈り取りに専念できるようになったとのこと。

 ジャングル内で作業にあたる人たちは100~200人ほど見かけたのですが、「以前と比べると半分くらいに減った」とのこと。年配者が比較的多く、若い人からすると“お金にならない家業”といった認識です。

 野生動物保護局の管理により植生は回復し、「ジャングルの乱伐がなくなったが、サイが増えている」といいます。「ただし、カヤの草地は刈り取り後の火入れで植生が促されるようになった」、「昔は全ての家屋がカヤ葺きだったが、今はトタンに代わって利用する人は経済的な理由でトタンに張り替える余裕のない所帯のみとなった」とのこと。

 もっとも「トタンはお金で買えるので便利であるが、暑季は熱を吸収するし寒季は冷えるので民家内が過ごしにくくなった」、「カヤ葺き屋根はその反対で、手間がかかるが人も家畜も過ごしやすい」というのが誰もの共通認識として聞かれました。「家畜が過ごしやすいようにと牛舎用に刈るだけ」となった家もあります。

 案内してくれた男性からは「クウェートに出稼ぎしていて、先日8年ぶりにジャングルに入った」とのこと。ただし「生活スタイルそのものが今は異なる」、「昔のように田畑を牛が耕すことも少なくなり、家畜の飼養頭数も減り飼葉を刈り取る量も減った」、「ガスの普及で以前のように毎日ジャングルに薪拾いに行く必要もなくなった」、「今は樹木が生い茂り、一人でジャングルに入るのが危険になった」といいます。

 そして「出稼ぎで、農業や家畜を飼い森を利用する必要がそもそもなくなってきた」という意見が聞かれました。

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 ジャングルの植生回復、野生動物の保護、国立公園の観光業の活性化。一つ一つのプロジェクトは、一程度の成果を上げていると言えると思われます。
カヤ刈り
 ■カヤの草原で刈り取り

 けれど、プロジェクトよりも圧倒的に早いスピードでその土地の暮らしと森林の密接なかかわりがだんだん見えなくなり衰退の一途を辿っている、そこはどうすれば良いのだろうか、と思うのです。

                                                                              (藤井牧人)



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