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市民環境研究所から

オリンピックより大事なもの


 長年の友人である小出裕章さんが昨年8月に「フクシマ事故と東京オリンピック」という声明を各国のオリンピック委員会に向けて発信された。その全文を市民環境研究所のニュースレター(2018年10月発行)に転載させてもらい、大きな反響があった。

 2月に「使い捨て時代を考える会」の山田晴美さんが、この声明を支持する団体・個人を募られ、255ヶ国のオリンピック委員会に小出声明を支持する日本の市民として発信されたのだ。現在、194人の個人、33団体が名を連ねているという。こんな動きを知ってもらいたいので、筆者なりの抜粋を以下に記す。全文は市民環境研究所ブログ(shiminken.blog50.fc2.com)でご覧いただきたい。

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 「福島第一原子力発電所の原子炉は溶け落ちて、広島原爆168発分のセシウム137を大気中に放出した。溶け落ちた1号、2号、3号の原子炉には合計で7×10の17乗ベクレル、広島原爆に換算すれば約8,000発分のセシウム137が炉心に存在していた。そのうち大気中に放出されたものが168発分であり、海に放出されたものを合わせると、現在までに環境に放出されたものは広島原爆約1,000発分程度であろう。」

 「2017年1月末に、原子炉圧力容器が乗っているコンクリート製の台座(ペデスタル)内部に遠隔操作カメラを挿入した。熔けた核燃料はペデスタルの外部に流れ出、飛び散ってしまっているのである。フクシマ事故の収束など今生きている人間のすべてが死んでも終わりはしない。その後数十万年から100万年、その容器を安全に保管し続けなければならないのである。」

 「発電所周辺の環境でも、極度の悲劇がいまだに進行中である。事故当日、原子力緊急事態宣言が発令され、初め3km、次に10km、そして20kmと強制避難の指示が拡大していき、人々は手荷物だけを持って家を離れた。」

 「国は、今は緊急事態だとして、従来の法令を反故にし、その汚染地帯に数百万人の人を棄てた。棄てられた人々は、赤ん坊も含めそこで水を飲み、食べ物を食べ、寝ている。当然、被曝による危険を背負わせられる。棄てられた人は皆不安であろう。子どもだけは被曝から守りたいと、男親は汚染地に残って仕事をし、子どもと母親だけ避難した人もいる。でも、そうしようとすれば、生活が崩壊したり、家庭が崩壊する。汚染地に残れば身体が傷つき、避難すれば心が潰れる。棄てられた人々は、事故から7年以上、毎日毎日苦悩を抱えて生きてきた。これから100年たっても、「原子力緊急事態宣言」下にあるのである。」

 「オリンピックはいつの時代も国威発揚に利用されてきた。近年は、箱モノを作っては壊す膨大な浪費社会と、それにより莫大な利益を受ける土建屋を中心とした企業群の食い物にされてきた。オリンピックに反対する輩は非国民だと言われる時が来るだろう。先の戦争の時もそうであった。マスコミは大本営発表のみを流し、ほとんどすべての国民が戦争に協力した。戦争に反対する隣人を非国民と断罪して抹殺していった。」

 「罪のない人を棄民したままオリンピックが大切だという国なら、私は喜んで非国民になろうと思う。この事故の加害者である東京電力、政府関係者、学者、マスコミ関係者など、誰一人として責任を取っていないし、処罰もされていない。それを良いことに、彼らは今は止まっている原子力発電所を再稼働させ、海外にも輸出すると言っている。」

 「原子力緊急事態宣言下の国で開かれる東京オリンピック。それに参加する国や人々は、もちろん一方では被曝の危険を負うが、一方では、この国の犯罪に加担する役割を果たすことになる。」

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 「使い捨て時代を考える会」が世界の国々に送ったメッセージの最後には、「福島原発事故を過去のものにして、次々と原発再稼働を進め、被害者を置き去りにし、関心をそらすためにオリンピック開催を決めた日本政府に、私たちは憤りを感じています。オリンピック開催よりも大事なのは、福島原発事故の後始末です。今すぐオリンピックへの参加を取り止め、日本政府に福島原発事故の後始末を最優先させるように働きかけてください」と記されている。
                                             (石田紀郎:市民環境研究所)



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