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地域から政治を考える

「ピースマーケットのせ」での論議から
エネルギー・食糧の自給と
地域自治の可能性


 大阪の北端に位置する能勢町では2015年から、里山に抱かれた緑豊かな能勢で平和を願うひとびとが集い、心と物と夢が行き交う市場「ピースマーケットのせ」が開催されています。

 町内の高齢者住宅に住む93歳の男性が、自らの悲惨な戦争体験を踏まえ「孫や次の世代に戦争のない平和な世界を残したい」と呼びかけた一枚の新聞チラシがきっかけで実現した取り組みです。私も当初からかかわっています。

 今回、開催を準備する実行委員会で「シュタットベルケ(Stadtwerke)」という言葉が話題になりました。シュタットベルケとは、ドイツにおける自治体所有の公益企業のことであり、自然エネルギーによるエネルギーの自給自足を中心に、地域おこしの考え方で地域の再生を図る取り組みです。なぜ話題になったかというと、能勢町が日本シュタットベルケ協会のメンバーになっていることが分かったからです。

 とはいえ、町からの実際の動きは出ていません。しかし、町の動きに連動する、しないは別にして、市民エネルギー事業を考えようということになり、今回のピースマーケットのイベントでも、それに関わったものをやろうということになりました。能勢町を含む北摂地域で見れば、豊中市民エネルギーなどの先進的な試みがあり、能勢町民の側からも動きがつくれないかとの話になりました。

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 もう一つ話題となったのは、今年から国連の「家族農業の10年」が始まることです。実は、日本政府もそれを支持しており、農水省のホームページにもそうしたコメントが書かれています。しかし、政府が実際にやっていることは、「国際競争力」をつけるとの名目で、家族農業を潰し、大規模農業、企業農業を後押しすること、食糧の安全保障を確立する方向ではなく、工業生産と同じように農業を国際競争にさらしていくことです。

 経済のグローバル化の中で、各国の農業は米国などのアグリビジネスに食い荒らされ、家族農業が崩壊し、それが各地の貧困、そして飢餓を生み出しています。国連は、多国籍資本によって各地の農業が支配されれば、10年後には世界的な飢饉が起こることを予測し、農業の基礎である家族農業を保護し発展させなければならないと警告しています。

 途上国だけでなく、日本のような発達した資本主義国でも、「グローバル化」や「自由貿易」の名の下で、農業が破壊された結果、2018年の自給率(カロリーベース)は38%にまでになっています。

 この間も、環太平洋連携協定(TPP)、日本とEU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)などが進められ、また遠からず日本と米国とのFTA(自由貿易協定)協議が始まろうとしています。日本の農業はますます壊滅的な状況になっていくでしょう。

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 能勢町の基本的な経済基盤は農業ですが、人口の高齢化に伴って衰退しつつあります。

 中央集権的な現在の社会から、地域分散型ネットワーク社会へと移行しつつある時代の中で、持続可能な社会を作っていこうとするなら、社会的にも経済的にも自立した自治体をつくりだしていく必要があるでしょう。そのためには、エネルギー、食糧の自給が基本的な要素になっていくはずです。

 今回のピースマーケットでは、こうした問題を考え、実践への一歩を踏み出そうと話し合っています。エネルギーでは、町内に大規模な太陽光発電がいくつもあり、今後、送電線の自由化が行われればエネルギーの自給自足の可能性があるのではないかと考えられます。また、現在も経済の基盤にある農業を発展させることで、自給が可能になるのではないかとも考えています。

 こうした方向性は、自治を求める市民運動を中心とした政治の流れと一体のものと思われます。
 ピースマーケットの今年の試みに注目を呼びかけたいと思います。

                                                                   (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)



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