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市民環境研究所から

「里ノ前中華街」を歓迎する


 市民環境研究所の事務所は京都市左京区田中里ノ前町にある。その里ノ前の風景がこの半年で大きく変わった。「里ノ前中華街」の出現である。ほんの100mほどの間に、中華料理店が2軒から6軒にもなった。店の名前も「長江辺」「東朋」「火楓源」「方圓美味」などと中国語である。こんなに中華料理店ばかりで大丈夫かと思うが、夕暮れの歩道には中国語ばかりが聞こえる時もある。近くに中国からの留学生がたくさん居ると言われているコンピューター関連の学院があるから、まさに里ノ前中華街である。

 海外からの観光客の来洛数は激増し、昼間の市バスは筆者のような年寄りと外国人だけである。そんなバスに大型のスーツケースを持った中国人観光客が数名乗り込んで来れば、車内はたいへんな事態になる。歩けないし降りられないで困窮することもある。そんな時にはついついイライラ声を出す人も出てくる。大量に増えた民泊も隣近所とのトラブルが多発している。

 観光客の増加はありがたいが、中国人は嫌だと広言する人も出ており、京都市も頭を痛めて規制策を考えているらしいが、基本は市民の在り様が大切だろう。そこで、筆者の孫が3年前の中学1年生の時に書いた文章を思い出したので、手抜きと叱られるかもしれないが引用する。

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 『「中国人観光客」。この言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろう。近年増える彼らの日本での振る舞いについて、「迷惑だ」「マナーを無視している」など、顔をしかめる方も多いのではないかと思う。現にときどき、電車やバスの車内、コンビニでの行動がひどいという会話を耳にする。しかし、だからといって「中国の人は…」と決めつけるのは、間違っている。私はそれを、ある出来ごとに学んだ。

 その日、私はいつものように部活を終え、地下鉄に揺られていた。時刻は午後6時半ごろだった。私は自分のななめ前に立っている人が妊婦さんであることに気がついた。女性は大きなお腹をさすりながら立っていたが、私も立っていたのでどうすることもできず、女性から目をそらした。その時だった、シートに座っていた中国人の観光客の男性が、スッと立ち上がって女性に席をゆずったのだ。身振り手振りのぎこちない動作だったけれど、私にはとても素敵に見えた。それに何よりも、彼とその家族の笑顔が、とても印象に残った。

 私はそれまで、ほんの少しでも「中国人は~」と、彼らを先入観を持ってひとくくりにしてしまっていたことを、とても恥ずかしく思った。多くの中国人観光客は、日本人から見ると、「マナーのなっていない」行動をしているかもしれない。しかし、こう考えることもできるはず。私たちの目から見れば迷惑な行動でも、彼らから見ればどうなのだろう。そこに主観や価値観の違いを見いだすことはできないだろうか、と。

 それに、もっと大切なことを忘れているのではないだろうか。彼らも、「中国人」である以前に人間なのだ。もともと人が持っているはずの、優しさやあたたかさを、持っていないはずがない。私たちは小さな先入観のせいで、中国の人たちのあたたかさを知ることができていないのではないか。

 「グローバル化」という言葉を耳にすることも多い。英語教育の強化などがその代表なのだろうか。いや、違うだろう。真のグローバル化とは「自分と違うもの」をありのままに受け入れ、認めることだ。余計な先入観を持たずに、まっさらな目で見つめることだ。今、私たちの国ではそれが失われつつあるように思う。小さな先入観は、偏見、やがては差別を生む。そういったことがやがては差別意識を持った人々の攻撃、戦争につながってしまうのではないだろうか。

 私は信じたい。いつの日か、世界の人々が、偏見無しに対等な友人として語らえる日が来ると。そして、多くの人々が互いを認めあえると。』(石田花)

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 中国からの留学生も京大生も同じ里ノ前中華街で飯を食っているのだから、機会を見つけて言葉を交わし、雑談すれば両者の世界が広がるだろうと思う。里ノ前中華街歓迎である。

                                                    (石田紀郎:市民環境研究所)




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