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アソシ研リレーエッセイ

「階級的憎悪」が思い浮かぶ世相


 このところ「階級的憎悪」という一昔前の言葉を思い浮かべてしまう事態が続いている。まず、昨年末の人民新聞への弾圧。山田編集長がレバノンで亡命生活を送る岡本公三さんの生活・治療費の送金のため銀行のキャッシュカードを取得したことを「詐欺罪」と強弁、マスコミを使い「日本赤軍メンバーの逃走資金」なるキャンペーンを張って逮捕・起訴。裁判では日本赤軍の“に”の字も出ず、判決では送金が岡本公三さんの生活・治療費以外には使われていないと認定、さらに「たいした罪ではない」とまで言いながら、結論は「懲役1年、執行猶予3年」!?

 二つ目は、7月のオウム死刑囚13人の死刑執行。史上類例のない大量執行であるのみならず、テレビが「見せしめ」的に実況報道するという異例・異様づくめの死刑執行だった。「刑罰の目的が『矯正』から『応報』へと重心が移り、社会防衛上の見地からは、死刑はありだという大きな質的転換が起きたのではないか。上川法相が執行前夜に宴会『赤坂自民亭』に出席したように、軽佻浮薄な行為に見合う程度の刑へと死刑は変質したのである」(神保太郎「メディア批評」『世界』10月号)との指摘は正鵠を射ている。

 三つ目が、この間の全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「関生支部」)への弾圧。関生支部の闘いの最大の強み・特徴は「中小企業である生コン業者らが中小企業協同組合法にもとづく協同組合を組織し、この協同組合による共同受注・共同販売事業によって、力関係で優位に立つゼネコンとのあいだで対等かつ適正価格での取引を可能にし、それによって生コンの品質も確保されてきた。労働組合は組合員の雇用と労働条件確保のために協同組合の活動に協力してきた」(「抗議声明」より)ことだろう。

 ゼネコン・政権は、こうした構造に楔を打ち込み闘いを破壊することを目論んで、これまでも様々な形で弾圧を繰り返してきた。今回はその集大成とも思える大弾圧で、「在特会」関連のレイシストまで動員、7月からの4回にわたる不当逮捕・家宅捜索で中小企業の事業者6人、関生支部の役員・組合員20人が逮捕され、「事態は『平成の大逆事件』というべき異常な弾圧事件の様相を呈している」(同上)。(なお、警察は「46人逮捕する」と豪語しており、更なる弾圧の拡大も予想される。反撃の闘いに多くの支援・注目を!!)

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 共通するのは、「反社会的集団」とのレッテルを貼れば法律も慣例も基本的権利も踏みにじる問答無用の姿勢。人民新聞への弾圧では、一連の裁判で検察・裁判官ともに「自分たちに抗議するような輩には答える必要も要求に応ずる必要もない」との対応に終始したし、オウムについては言わずもがな。関生支部への弾圧では、主力が滋賀県警刑事部組織犯罪対策課(暴力団等が対象)。家宅捜索では捜索令状提示要求を「俺ら公安とは違うんじゃ、ナメとったらあかんでぇ!」と完全に無視して事務所へ乱入。そして、協同組合・労働組合の正当な要求行動への「容疑」は恐喝、強要及び同未遂…。

 こうした弾圧は、これまた言うまでもなく国会での圧倒的多数を背景に、右派マスコミを総動員してナショナリズム・排外主義を煽り立て、抗議する人々を「一部の左翼集団」と切り捨てて安保法制や共謀罪を強行採決、最終的には憲法改悪を目指す安倍の暴走の一環である。来年の天皇代替わり、再来年の東京オリンピックを最大限に利用しつつ、安倍は暴走を続けようとするのだろう。

 予測される事態を具体的に想像すると陰鬱な気分になるが、さしもの安倍の暴走にもようやく陰りが見え始めている。自民党総裁選で3選はしたものの、「圧勝」を狙った目論見はもろくもはずれ、3選後の世論調査では、自民党改憲案の提出に反対が51.0%、「安倍1強」を「問題だ」と答えた人が57.4%、別の調査でモリ・カケ問題に対する安倍の説明に「納得しない」が70%を越えた。

 マスコミは安倍の「驕り」を指摘、それはその通りだろうが、さらに突き詰めれば、安倍の「軽佻浮薄な」歴史・世界認識では激変する世界情勢・危機に対応できないことがはっきりしつつあるのではないかと思う。混迷・混沌の底流をしかと見据え、我々もまた研鑽を、実践を!

                  (津林邦夫:NPO法人関西仕事づくりセンター)



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