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よつばの学校 責任者講座 報告①

地域で考える力をつけ、つながりを作る活動を



 「よつばの学校」責任者講座、今期は「想いを形に(理念を事業に)していく」というテーマで、よつ葉に比較的近い間柄の中、社会的な問題意識を出発点としつつ、それを事業として展開している方々からお話を伺うことになりました。以下、簡単ですが第1回目の概要を報告します。



はじめに


 2007年に始まった「よつばの学校」は、関西よつ葉連絡会の職員研修として講演会や学習会などを行ってきた。食べ物の事業を始めた団塊の世代が実務の第一線から退きつつある中で、事業活動に込めた問題意識を次世代に継承していくことが基本的な課題である。今年度からは運営体制も次世代へと一新され、主としてよつ葉会員向けの「公開講座」、各社の責任者(または責任者たらんとする者)対象の「責任者講座」、広く職員全体に向けた「全職員講座」の3つを中心に運営している。

 以下に紹介するのは責任者講座。今期は「想いを形に(理念を事業に)していく」とのテーマで、社会的な問題意識を出発点としつつ、それを事業として展開している方々からお話を伺うことになった。現在よつ葉が行っている事業の意味を捉え返し、今後の展開を考えていく上で、重要な参照点をいただけるのではないかとの期待からである。

 第1回の講師は、大阪府豊中市を中心に学習支援と地域コミュニティサロン活動に取り組む「NPO法人学遊(がくゆう)」の一村和幸さん。実は、一村さんは歴史的に、よつ葉と密接な関係がある。そうした半生を振り返る形で、お話は始まった。

一村和幸さん
  ■一村和幸さん
「学遊」に至るまで

 1948年生まれ、瀬戸内海の島で育った一村さんは、長じて大阪の大学に入学する。ちょうど学園闘争の盛んな時代、一村さんの人生も大きく変わる。

 「学生運動に関わる中で“一流大学を出て一流企業に勤め、いい暮らしをする”といった生き方は根底から問い直されました。」

 「自分はどう生きていくべきか」。一時は北海道で酪農の手伝いをするなど、さまざまに模索を重ねる中で、「社会の中で弱い立場にある人とともに働こう。それには中小零細企業だ」と思い至って大学を中退。安月給で朝から晩まで働いたという。

 よつ葉グループとの接点は28歳くらいの頃、前身の牛乳配達に携わったのがきっかけだ。戦後直後に共産党で活動し、路線対立で除名された後も北摂地域で政治活動を続けていた先行世代に誘われる形で、各地に拠点をつくるべく奔走したという。

 「牛乳配達は夜中の1時くらいから働きはじめて朝で終わり。それから昼間に活動をするわけです。能勢農場の建設にも参加しました。」

 その後は牛乳配達を続けながら地域労組の活動に参加。やがて牛乳配達は関西よつ葉連絡会へと発展し、一村さんは豊中の共同購入会の代表となる。労働組合との「二足のわらじ」の中で、配達だけでなく地域で店舗の設立にも取り組んだ。

 「その過程で、豊中市会議員選挙への出馬を打診されました。1991年に初当選してから4期16年間、市会議員を務めました。市会議員の活動で基本に置いたのは、よつ葉の会員さんなどから相談を受けた問題を“一緒に取り組む”ということです。」

 たとえば、市内で一方的な再開発計画などが持ち上がると、よつ葉の会員さんなどを通じて情報が入ってくる。他の議員が動こうとしない中、一村さんだけが市民と一緒に反対運動を展開し、最終的に断念に追い込む――。そんな経験が何度もあった。

 「基本は“みんなと一緒にやる”とういうことです。自分一人が議会の中でアレコレ言っても力にならない。基本はいろんな人と一緒に地域で活動していくこと。だから『何でも相談活動』に取り組みました。受けた相談はトータルで4000件ぐらいじゃないでしょうか。その中で政治の矛盾によって起こる問題を一緒に解決していったわけです。」

 ただし、これは相当な激務である。ほとんど休みをとることもできないまま16年が過ぎる中で、一村さんは体調を壊し、議員を辞めるに至る。後任として引き継いだのが木村真さんだ。

学習支援と地域コミュニティサロン

 議員を辞め、これからどうするか考えていた一村さんは、よつ葉での配達の際にしばしば会員さんから「子どもに勉強教えてちょうだい」と言われたことを思い出す。知人からも、学童保育が終了して子どもが手持ちぶさたになっている、と相談された。そこで一村さんは「それなら、子どもたちの学びと遊びの支援をしたらどうか」と思い立つ。

 振り返ってみれば、よつ葉の活動を通じて食の問題、環境の問題、医療・福祉の問題についてはそれなりに取り組んだが、教育の問題には関わってこなかったことに思い至ったという。

 「学校や教育がおかしいと批判はしても、いまの学校に対して対抗軸を立て、自分たちの教育、自分たちの学校をつくろうやないかという動きはなかったですね。自分自身も“学校なんかいかんでもええわ”ぐらいに思っていたけれど、やはりいまの学校に対する対抗軸を作らないといけない、行政に任せて文句ばっかり言っていても仕方がないと思ったのがもう一つのきっかけです。」

 ところで、学遊にはもう一つ、「コミュニティサロン」活動という柱がある。それは、一村さんが市会議員時代に行っていた相談活動の経験を踏まえ、地域で気楽に話し合いができる空間・サロンが必要だと考えたからだ。

 「議員時代は、いつも事務所に地域の人々が集まって“あれしよう、これしよう”と話していました。議員を辞めた後も、各地域に話ができる場所が必要だと思いました。これはよつ葉の理念とも重なると思います。かつては地域の拠点を作る目的で店舗を展開していました。実際には食べ物が中心になったわけですが、食べ物だけではなく、もっと経験や情報を交流・共有し、いろんなことを一緒にできる場所であるべきなんじゃないかと思っています。」

 こうして、考える力をつけるための教育、地域の人たちが集まれる空間づくり、これらを合わせて取り組む形で「NPO法人学遊」を設立するに至る。

「学遊」の現状と展望

 2008年に一村さんの自宅で始まった学遊の活動は現在、大阪府が豊中市2ヶ所、高槻市1ヶ所、兵庫県が尼崎市1ヶ所へと拡大し、2014年にはNPO法人格も取得した。

 学習支援教室に通う生徒(小・中・高)はおよそ180人。スタッフは常勤4人とアルバイトを合わせて20数人。全体で年間4000万円ほどの月謝が基本収入になるが、これは一般の学習塾に比べると、半分から3分の1程度に過ぎないという。

 「塾はぼろい商売ですね。夏期講習の費用なんか10万円もとっている。ところが、講師に払う給料は“雀の涙”。教えているのは受験テクニックだけ。そんな話を聞くと腹が立ちますね。だから、うちはできるだけ多くの子どもが参加できるような学習支援にして、値段は他所の半分くらいに設定した。それでも財政的には十分いけると思いました。」

 一村さんは、当初から学習支援活動によって財政基盤を確保し、その上で地域コミュニティサロン活動を運営する方針を抱いていた。というのも、各地に同様の取り組みはあっても、財政基盤の脆弱さゆえに継続できなくなる事例が少なくないからだ。

 「学遊も決して盤石ではありませんが、専従がメシを食えて場所が維持できるということを考えると、それなりの財政基盤が必要です。だから、学習支援活動を財政活動としても取り組んでいます。」

 そうした狙いは、かなりの程度的中しているようだ。たとえば、豊中市の上野東地区では2017年、市の空き家対策事業を通じて敷地200坪・2階建ての建物を月15万円で借りることになった。学習支援活動はもちろんだが、地域の諸団体との連携を見据えてのことである。現在は、シングルマザーを中心に運営する「つどい場ゆりちゃん」と題して、「様々な世代の市民がつどい、学びや遊びを企画し交流する場」として活用されている。

 「実は、学習支援の講師をしている若者が地域活動に取り組みたいと言ってくれたんで、住み込んでもらうことにしたんです。家賃は3万円。2~3人教えれば家賃は出ます。まだ部屋は空いているので、さらに若い人に住んでもらい、勉強を教えながら地域活動も展開していけるのでは、と思っています。」

 各地域でさまざまな団体とコラボ(連携)する形を作っていきたいというのが、この間の一村さんの問題意識だ。単独では拠点の確保が難しくても、コラボすれば負担は少ない。異なる性格の団体が集うことで相乗効果も生まれる可能性がある。

 「尼崎・園田では、在宅高齢者の地域での生活を支援する包括支援センターと共同作業に取り組んでいます。健康体操に取り組むための場所を借りたいという提案があって、いまは週3回、健康体操のために高齢者が来られています。今後さらに多くの高齢者を対象に、どんなサロンが展開できるか検討中です。たとえば、地域の喫茶店と連携して配色サービスを行い、ご飯が食べられる地域サロンができないか、とかですね。」

 一方、学習支援の活動でも、新たな展開を試みている。中心は、ウェブ上で多人数をつなぐことのできるオンラインツール「ZOOM」を使ったネットスクールだ。これなら、わざわざ教室を確保しなくても、講師と生徒の双方が自宅でやりとり可能だ。

 「島嶼部や過疎地など、教育インフラが不十分なところとつなげば、教育格差の是正も考えられます。あるいは、各地の子ども食堂をつないで、メシだけでなく勉強の支援もできますね。」

 学遊では現在これを利用して、フィリピンとの間で英会話教室を運営している。

地域の力量とどうつながるか

 9年にわたる学遊の経験を踏まえ、一村さんは現在よつ葉について次のように考えているという。

 「いまの時代、食べ物だけではなかなか生き残れないと思います。会員さんとの関係を強化するには、もっと多面的な関わりが必要になってくるはずです。そうした意味でも、もっと積極的に地域拠点をつくっていくべきではないでしょうか。」

 先に触れたように、実はよつ葉もそうした問題意識で店舗を展開していた。しかし、店舗の設立と運営には膨大な費用が必要だ。一方、学遊のような展開ならば経費ははるかに少なくて済む。

 「いま都市部でも空き家が増えています。豊中なんか20数件(市に)登録されていますよ。よつ葉もどんどん活用を考えていったらどうですか。これまで会員さんとの交流拠点は店舗や配送センターしかなかったけど、いまはなんぼでもできます。」

 地域でコミュニティサロンをつくる場合、当該地域との間に一定の信頼関係が必要だ。その点、よつ葉には会員を通じて、すでにそうした信頼関係ができている。それは大きな強みだろう。

 「運営も自分たちで全部やる必要はないんです。地域の団体とコラボすればいい。よつ葉の会員さんの中には地域でいろいろやっている人がいるでしょう。今後よつ葉が生き残っていくには、地域の人たちの活動をどれだけ評価できるかというのが、一つのポイントになるはずです。僕は、それが“よつ葉らしさ”なんじゃないかと思います。その点、まだまだ打ち出し切れていないんじゃないでしょうか。」

お話を受けて

 「僕の経験から学んでほしいというより、一緒にやりませんかという思いで来ました。」

 一村さんは冒頭でそう言われたが、やはり学ぶべきことは多い。とくに、よつ葉の活動を相対化し、俯瞰的に捉え返すことの重要性を強く感じた。

 現在よつ葉が食べ物の事業を「前提」としていることには、相応の歴史的経緯がある。だが、「前提」の中に安住している限り、それを自覚するのは困難だ。むしろ「前提」を括弧に入れ、なんのためにそうしているのか、繰り返し目的を考えるべきである。

 そのための要点として、一村さんが準拠するのは「地域」である。まったく同感だ。もともと、よつ葉はそうした指向を持っていたはずである。現状を踏まえ、どのような地域イメージを描き、そのためにどんな活動を構想していくのか。まさに問われていることだと思う。

                             (山口協:研究所代表)


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