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連載 ネパール・タライ平原の村から(76)

ネパールの昔の写真から 
①働く風景

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井牧人君の定期報告。その76回目。



 昨年の一時帰国の際、50年以上前にネパールを数ヶ月間旅された、アグロス胡麻郷・橋本昭さんが撮影した白黒写真から、11点の写真を複写させていただきました。

 ネパールについて、自身(の見方・考え方)を大人にしてくれた場所と語る橋本さん。開国して間もないネパールを訪問する日本人は当時、極少数の研究者・専門家のみであったと思われる1960年代。国を背負ったような立場からでなく、自分の目で見てみようとインドへ。

 カトマンドゥに空港などがなかった時代。タライ平原に位置するインド国境沿いの町、ビールガンジから陸路で入国し、カトマンドゥへ、ポカラへ。この連載でも取り上げる機会がある、少数民族プンマガルの故地周辺、プンヒル(3198m)、シーカ(1980m)とチベットへ続いていた塩の交易路沿いを中心に、アンナプルナ山域方面。

 2014年のネパール大地震では多くの住居が崩れた、チベット人やタマン人が暮らす、ランタン山域方面に赴き、滞在されたとのことです。自動車道もほとんど開通していなかった当時、それは、日程表通りの旅行やガイドブックにあるお決まりのコースを歩くトレッキングとも異なる、ほんものの「旅」であったと、察し致しております。

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 今も残る風景や当時の暮らしや労働を写す11点の写真。女性が5匹のヤギを引き連れて休耕田を横切り、放牧に出かける写真。伝統的に女性の仕事と思い込んでいた機織りを、男性がしている写真。風選で米のゴミ・塵を飛ばす箕を担いでいるように見える女性と、米を竪杵で搗き、モミガラをとる女性の写真。そして、遠方から撮影されている、家畜の飼葉が刈り取られた樹木のそばの小高い場所の写真。
モミガラをとる女性
 ■米を搗いてモミガラをとる女性

 そこには、木製の軸の中心に2人ほどの人影と、同じく木製の三角錐のようなものを2人か3人で押しているのがわかります。初めこれが一体何なのかわからなかった僕ですが、「コル」と呼ぶ手押しの油搾り機でした。写真の右隅には、油を運搬するためと思われる竹編みの背負いカゴと、一緒に連れて来て、仕事を見ているような子どもらが写っています。
油絞り機
  ■木製の油搾り機「コル}

 当時、植物性の油を搾るということが、いかに重労働であったかを今に語る写真です。現在では、エンジンによる動力式の搾油所に変わり、コルを見かけることはありません。油脂原料のほとんどを輸入(約95%)に頼る日本においては、油はどこでどのように搾られているのでしょうか。

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 生産・労働という言葉に、経済的な報酬の意味合いしか見いだしにくくなりつつある現在。多くを自分たちで生産することで、どうにか暮らしを成り立たせていた1960年代の白黒写真は、私たちにもっと別の意味を問いかけていると思うのです。

                            (藤井牧人)



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