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市民環境研究所から

政治の極寒を吹き飛ばすために



 今年のきびしい寒波は意外に早くやって来た。12月中旬には京都の北山も、琵琶湖の西に連なる比良山系も山頂に雪が積もっている。寒々とした風景ではあるが、この国の政治的極寒期に比べればたいしたことはない。

 この一年を振り返ってみると、「2020年東京五輪までにテロ警戒態勢を強化し、国際組織犯罪防止条約の締結に不可欠だ」として、共謀罪を含む「改正組織的犯罪処罰法」なるものを強行採決により成立させた。法律の文言があいまいで、市民の自由を損ない、罪のない一般市民の不当な監視を可能にする権力乱用の道具となるとの批判に対して、政府は真っ当に答えることはなかった。

 安倍政権の振る舞いは、およそ民主主義国と言えないものであり、詭弁虚言の乱発である。稲田防衛大臣の「戦闘行為と言えば憲法9条に抵触しかねないから、武力衝突と表現する」との詭弁が国会答弁としてまかり通った。こんな言い換えが通用するならば、共謀罪についても「法に従う一般市民には適用しない」などは、いくらでも言い換えることができるだろう。そんな批判に対しても答えることなく、「計画段階で犯罪とみなし、処罰を可能にする」という法律を成立させた。

 そして、一連の「安保法案」も法学者や市民の反対を無視し、我々を納得させる論議・説明もなく2015年9月19日に強行採決された。およそ民主主義国家とはほど遠い。

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 筆者も参加して結成した「戦争をさせない左京1000人委員会」では、強行採決の数日前に「左京フォーラム」を開始した。以来、2015年に3回、次の年は9回、そして2017年は6回のフォーラム(講演会)を開催し、戦争法、フクシマ原発事故や、森友・加計問題という安倍内閣の憲法違反、人権侵害、汚職問題を論じる場を開催し、毎回100人以上の参加者とともに考えてきた。

 そして、毎月19日には、京都市役所での集会とデモに参加するために、京大横の百万遍交差点から市民の行進を始めた。この行進はいろんな市民団体や政党に属する人々とのつながりの中で始まった。京都の運動では画期的な行進であり、この毎月の行進の中で、さらに人々の連帯は強まり、戦争法廃止/憲法改悪阻止を中心命題とする新たな運動として「安倍9条改憲NO! 左京市民アクション」が始まった。

 長い年月、京都の市民運動にかかわってきた筆者にとっても、こんな連携連帯ができるとはと驚いている。残念ながら、講演会も市民の行進も若者の参加はほとんどないが、だからダメではなく、安倍改憲が進めば、若者はその犠牲になると伝える行進であるから、決してダメではない。憲法9条に自衛隊を加えるという安倍の構想が現実になれば、徴兵制度まで一気に進むのではないか。

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 12月19日の夕方に、本稿の締め切りに追われて書いていたら、筆者の実兄の訃報が入った。15才も年上の兄は大正の生まれであり、第二次大戦の最後の年に学徒出陣を余儀なくされ、広島県呉市の軍港へと出征して行った。まさに海軍の特攻隊の兵役であり、あと数日でも戦争が長引いていれば、その命は海の藻屑となっただろうと言われている。その兄の死を、安倍改憲反対の19日デモの出発直前に知らされようとは。

 兄が呉から滋賀県の我が家に帰って来たのは夕焼けの中だった。背嚢を背負い、軍刀を身につけていた。当時、5才だった筆者の敗戦記憶の風景である。今の我が国の政治は、徴兵される若者を造り出す方向へと進んでいることを伝え続けなければと思う。

 田舎住まいの兄はデモをすることもなかったが、今の政治と自分の人生をどのようにまとめて考えていたかを聞きたかったと思いながら、戦争法廃止、安倍改憲阻止を訴えて、百万遍から四条河原町まで、厳しい寒さの中を歩いてきた。

                                               (石田紀郎:市民環境研究所)




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