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地域から政治を考える

 
「共謀罪」法案の強行採決


地域の人々の動きも監視され
「犯罪目的」にされかねない!



 与党と維新は5月17日に衆議院の法務委員会で、23日に衆議院本会議で、「テロ等準備罪」を組織犯罪処罰法に加える法案を強行採決した。共同通信の世論調査(5月12日付)では、実に77%の人が「十分に説明されていない」と感じているにもかかわらず、審議時間が30時間に達したというだけで……。思想信条の自由を奪う可能性のあるこの法案を、こんな状態で採決するのは、アベ政権の横暴以外の何ものでもない。

 そんな中、5月12日に「あすわか大阪」と「共謀罪アカンやろ!オール大阪」の主催で「共謀罪のリアル」と題した講演会が行われた。講師は、小口幸人弁護士(沖縄弁護士会)と亀石倫子弁護士(大阪弁護士会)。小口弁護士は辺野古で拘束された山城さんたちの弁護を担当し、亀石弁護士は「GPS捜査事件」の主任弁護士だ。いずれも、実際の警察による捜査から共謀罪の問題を明らかにされた。

 小口弁護士によれば、共謀罪は物証のない共謀を罪とするので、有罪の立証が非常に難しい案件について、捜査当局が恣意的に検挙する道具として使われるだろうという。とくに、政府がこの法案をこのタイミングでゴリ押ししているのは、辺野古新基地建設の強行と無関係ではあり得ず、新基地建設反対運動の弾圧に使う目的ではないかとのことである。

 とくに、現場で闘う人だけでなく、直接現場に関わらない人々もを含む弾圧が可能となることから、沖縄の反対運動総体を潰す目的があるのではないかと語っていた。現行法で恣意的な弾圧ができる闘争の現場だけでなく、直接関わらない支援者まで弾圧を広げていくには、共謀罪が有効なのだという。

 安倍政権は「テロ等準備罪」について、“共謀だけでなく準備行為があってはじめて検挙することができるので、話し合っただけでは罪にならない”としている。しかし、小口弁護士によれば、準備行為そのものは捜査当局による恣意的な判断でいくらでもデッチ上げ可能であり、準備行為を持ち出したところで“要件を厳格にした”とは言えない。

 さらに、共謀罪の対象となる「組織的犯罪集団」という規定も問題だ。法案では、「組織的犯罪集団」とは「結合の基礎としての目的を犯罪」に置くものとしている。言い換えれば、この目的をどう判断するかによって、恣意的に運用することができる。

 たとえば、辺野古の新基地反対運動は、①辺野古の自然を守ることが目的なのか、②辺野古の自然を守るために新基地建設に反対するのが目的なのか、③辺野古の自然を破壊する新基地建設に反対するため、工事車両の進入を阻止して座り込みをすることが目的なのかで変わってくる。

 ③つまりの座り込みが目的とすれば、それは「組織的威力業務妨害」という犯罪を目的とすることになり、辺野古の運動は「組織的犯罪集団」とされてしまう。だいたい、ヤクザを含めてどんな団体であれ、公然と犯罪を目的とする集団など存在しない。

 逆に、目的の括り方を変えると、市民運動でも「組織的犯罪集団」となってしまう。これは恣意的な運用の恐れが強い。政府も答弁で、“一般の団体でも目的が変われば組織的犯罪集団になる”と答えている。実際、安倍政権が逆ギレした国連特別報告者の書簡でも、こうした懸念が指摘されていた。

 体制に異を唱える動きを「組織的犯罪集団」と見なし、それを実証するためには、監視が不可欠だ。今も昔も、警察はさまざまな市民の運動に対して監視の目を光らせている。

 この間、岐阜県の大垣市で風力発電の建設に疑問をもって勉強会を開いていた人々を警察が監視し、その情報を電力会社に提供した事実が明らかになった。警察は“運動が大きくなるのを防ぐため”としていた。

 共謀罪が成立すれば、このような運動も大きくならないうちに弾圧することが可能になる。共謀罪が治安維持法より恐ろしいのは、特定の思想を対象としていないことであり、際限なくその範囲を広げることが可能なことだ。

                        (戸平和夫:北摂反戦民主政治連盟)



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