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市民環境研究所から

  
迫り来る超監視社会に抗して

 一気に桜が咲き、強い雨にも花びらを散らせることもなく、長めの桜季節だった。そして、新緑へと変身した山科疎水沿いの道を毎朝散歩している。この山科区に住んで50年近くになる。勤務先も近い。フィールド調査屋としていつも出かけており、地区での付き合いは家族に任せきりで、退職してからやっと地域が見えるようになった。

 地域住民としては落第生だったが、この5年ほどで、ようやく地区の年寄りとして認められるようになった。本欄の2月号に書いたように、児童の通学時間帯の交通整理のピンチヒッターを引き受け、この地区のいろんな面が分かり出し、それなりに楽しんでいた。ところが、突然に防犯カメラ設置問題を突きつけられ、去年の9月からこの問題に関わっている。

 事の概略は、この学区(自治会)内の9ヶ所に防犯カメラを設置し、その1ヶ所が我が家が面している交差点だと知人から聞き、町内会長や自治連合会会長にその内容を問いただすことから始まった。

 筆者は防犯カメラという監視カメラが数多く設置され出したことに不満と不安を感じていたが、我が家が対象だというから、論点はたった一つに絞って自治会や山科区役所を相手に議論を始めた。それは、「我が家近辺に設置することを決めるならば、そのカメラの常時被写体になる住宅の住人に説明し、了解を取るべきである」という一点である。

 区役所は自治会の問題だからという。町内会は地域全体をまとめている連合自治会で決まったという。連合自治会長は自分たちがやる事業であり、自分たちですべて決めるという。すなわち、設置場所を決めて、区に助成金を申請し、自治会が設置するのだから、被写体になる住民宅の了解は不要であるという。なぜなら、住民宅を写すのではなく、交差点を行き来する人間と自動車を写すだけというが、それは不可能で小生宅ではガレージからの出入りは100%監視される。

 任意団体でしかない自治会が人権侵害の危険性を有することを、関係者である住民の了解なしでやれるのかと問い続けたが、自治会も区も説明することなく交差点に面する家の壁に3月半ばにカメラを設置した。京都市長にも質問書を提出したが、防犯カメラは犯罪減少に有効であり、「世界一安心・安全おもてなしのまち京都」を創るため、防犯カメラの拡充に取り組んでいくのだと市長は回答してきた。

 現に、「山科みらい・ゆめ基金」への寄付金募集中であり、1口300円の基金の重点事業として「防犯カメラ設置促進事業」の写真入りのチラシが配布されている。今年度だけで57ヶ所に防犯カメラが設置されたが、この基金で何百ヶ所に付けられるのだろう。まさに監視社会の先頭を走る京都市である。

 そして、異議を唱えた小生への門川市長の回答は、「周辺住民の皆様の理解を得るという点につきましては、補助金交付団体である京都市ではなく、設置主体である自治連合会等にゆだねるべきと考えており、陵ヶ岡学区自治連合会が決定し、周知した」と述べ、さらに「周知された後、石田様以外の方から反対のご意見はなかった」と切り捨ててきた。

 あと8ヶ所の周辺住民が全員知らされているとは思えない。まあ門川市長の人権感覚はこの程度であろう。防犯カメラという監視カメラは、これからも、任意団体が好きに設置できるものとして、京都市内全域で増加していくだろう。そして、いつの間にか、その記録の閲覧条件が厳守されなくなり、官憲が好きに使用するようになるだろう。

 「共謀罪法案」が目ざす超監視社会への先頭を走る門川市政である。なぜなら、57ヶ所も設置したのに異議を言ったのはお前だけだとわざわざ回答書に書いてくる姿勢が物語っている。

 4月末をもって小生は自治会を脱会し、町内会のメンバーには文書で知らせた。町内会は外れるが、住民・市民として地域運営にかかわることには変わりはないと書き、先週も通学時の交通整理をやった。これからも門川市長、自治連合会批判を継続せねばと考えている。(本問題の経過と資料は小生のブログ「ホツパラの日々」http://hoppara.blogspot.jp/に掲載しています)

                   (石田紀郎:市民環境研究所代表

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